表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
94/240

ベヨネッタ



それに……頭上から、ちゃぽん、と水の音。

  どこかの水道の蛇口が緩んでいるのだろうか?



「なにこれ。みんなは……どこ?」

 エレベーターに向かいながら、

キャノが少し心配そうに天井を見上げて辺りを確認している。

薄暗いのはいつもの事だが、なんだか、静かすぎる。

誰も居なくなったみたいな静けさだ。

ほとんど変わらない内部の筈なのに、なんだろう、この強烈な違和感は。

 いつもならときどき、モニターに表示されて

『込神町へようこそ!』と楽し気に出迎えてくれるマオちゃんも、この時ばかりは鳴りを潜めている。

彼女が居ないだけで、こんなに得体のしれない場所に感じるものなのか。



「危ない!」

コトは咄嗟に叫んだと同時にその場から飛び退いた。

 同時に空気を切るような鋭い感覚が、顔面すれすれに横切る。

キャノが驚いて彼の方を見た。

「何?」

「……やっぱり、此処、変ですよ」



 ぱしゃん、と水音がして、何かが床に戻っていく。

見えないけれど、

何か……


「なんか、泳いでる……?」


コトは、そういえば前にもあった、と思いだした。

電気のような匂いがした。


「個体……えっと……」

あのときは、水族館で買ったイカのストラップで釣り上げたんだった。

そう思いながら、咄嗟に身の回りを探すが、今日は残念ながらイカは持ってきて無いし……


「はぁ、また、追尾用の玩具ね、いったい誰が」

キャノはやれやれ、と落ち着いた様子で呆れている。

 そうだ、あれは、人間用の。

コトはなんだか自分の背筋がぞわっと寒くなるような感じがした。

しかし、それと同時に胸の奥が熱く燃えている。



 ――――得体のしれない、けれど抗いがたい怒りと、苛立ち。

(結局、あのときのはっきりとした犯人はわからないままだったけれど……本当に純粋な魔族にしか反応しないっていうのか?)


「だったら……」

俺は何に成れっていうのか。


  ――――言いかけている間にもちゃぽん、と水の跳ねる音がした。

 再び何かが移動する。

いくつかの跳ねた場所に水溜りが点在し、波紋を浮かべている。

しばらく眺めている限り、此方にすぐに向かってくるわけでも無いらしい。


「……放っておいても、いいやつですかね」


うろちょろしているだけなら、さっさと状況確認して帰ろう。

 観葉植物やパンフレット等の置かれた一角を過ぎ、

すぐ目の前に見えているエレベーターを目指す。

タイルが滑りやすそうになった以外は特に問題は無いはず。

エレベーターのボタンを――――

「……あれ」


ボタンを押すも、扉は開かなかった。

「どうしたんだ、これ」

「タワーの異変で、システムがあちこちおかしくなっているのかな。

 マオちゃんが居ないから、こっちから整備に連絡するしかなさそうね」



キャノはなんだか悲しそうに呟く。

エレベーターが動かないからというよりも、なんだか別の理由がありそうだった。

「ベヨネッタ……か」

「そう、銃剣」

突如、声が割って入って来た。

「誰だ!」

 コトが叫ぶ。

途端に入り口からの逆光に隠れ、何者かの人影が浮かび上がった。


「だから、ベヨネッタ。魔女狩り(ハンター)組織のナニカよ。

此処を制圧するの、どうしようかって迷ってたんだけど……迷うならやれって、ボスが言うじゃない」


 声が周囲に反響する。

薄暗くて顔はよくわからないけれど、男性だろうか。

少なくともマオちゃんのホログラムでは無さそうだ。



「――――かつての人類は、魔法を使うのは無理だ、難しすぎるって早々に匙を投げた。ところが今はどう? 誰もそんなことは言わないでしょ? 科学で応用が利く、そう思い始めている人達も多くなっている」


 それは本来の魔法がどういうものか理解してないからだ。

一時期流行っていた、なんでも作品を生み出せるAIマシーンのときもそうだった。知能というよりも複製速度を早めているくらいの意味合いだった。

 あのときのように、ただ水や火を起こすだけだと思っているに過ぎない。 

 ただ火炎放射器を作っただけで、魔法だなんて言うようでは、なんの為に陣や呪文があるのだろうか。

 そうコトは感じたけれど、わざわざ取り合う必要は無い。




「どうして、わざわざ此処を狙うの? 貴方たちが、妨害を?」

キャノが聞いたのを遮るように、

ベヨネッタ(?)は両手を広げて、問いかけた。


「魔法が役に立たなくなった時、弾が切れた時……最期に勝つのは何だと思う?」

「え、それは……」

「そう、物理」

コトが答える間も無く、彼(?)が即答する。

「魔法もね、こういうとこで、ため込んでるんでしょ?」

「?」

「だからぁー。私たちの後追いみたいに、合わせてるだけでぇー、本当はストックしてあるものを、こういうトコから利用してるだけでしょ? つまり、拠点を調査しに来ているの」

「えぇ……」

 なんだそれは。誰に何を吹き込まれたのだろう。

組織間でそんな伝達が行われてるのか?

此処は『いや、そんなことは……』と答えるのが良いのか、

『まぁそれは秘密ですよ』と答えるのが良いのか。

でも、わざわざ手の内を明かすのも虚しいし。

 やっぱり『あの人』のコミュニケーション不足が災いして、

逐一因縁を見つけ出してご丁寧に火を付けに来る事になってしまったっていうのだろうか。まぁ、それはヒトの事を言えないのだが。

 


 ちゃぽん、と水音がして、また、何かが跳ねる。

――――いっそのこと、向かってくればいいのに。

事故として全部消せるならそれが一番だ。

 それから彼は腕の時計か何かを確認して、深々とため息を吐いた。


「にしても、おっそいなぁ。何してるのかしら……ねぇ、この辺で、あんたたちくらいの男、見てない? タカユキって言うんだけどぉ……

彼奴は追い出してあるし、台本も完璧に練ってあるのに……」


 コトは、縋るような気持ちでエレベーターのボタンを押す。

……やっぱり開かない。

 困ったな。これ以上、喋ってても、ちょっと口を開けば掴みかかりそうだ。

いろんな感情が綯交ぜになって、無性にイライラしている。





 そのときだった。

彼の感覚に呼応するかのように天井から軋むような音がし始め、

  タワーが揺れ出した。

――――地震!?



「すいませーん!水道の点検に来たんですけどー!」

「お荷物のお届けなんですけどー!」


外からも何やら、誰かの声がしている。


「うわああああ」

 コトはコトで動転していてそれどころじゃないし、

その後ろに居るキャノはなんだか様子が変だ。

ちょっと、ぼーっとしている。何か考え事だろうか。



何か、声をかけようかと迷っている間に、

揺れと同時に透明な存在がひと際激しく跳ねた。

それから

「なっ、なに、なにこれ」

 という、キャノの声。


振り向くと、キャノの目の前、自分の背後に床から大きなタコの足が生えて蠢いて居る。

「……?」

のだが、頭部に人の顔が浮かんでおり、床から4匹現れて踊っている。

 その横で透明な何かが、跳ねていて、

兎のような耳の、魚のようなもののようなヒレがある何らかのスライム的なものが蠢いていて、そのすぐ傍で細長い棒を掲げてリンボーダンスのようなものをしているよくわからない馬と鷹を掛け合わせた足を持つ、目が8つある奇妙な物体が――――

「えっと」

困った。何も、わからないぞ。

なんだこれは。

なんだ、これは。

数秒の間になにがあった。



「恐らく……此処って、電波塔だけど、魔力も吸収してるから……

これまで魔力で無効化されていたカオスが逆流して溢れているのでしょうね」


 キャノは冷静に呟きながら、それらを見守っている。

 四本の腕で構成されたなんかよくわからない存在が、コトの方に這って来る。

「ひぃいい!!」

カオスってなんだ!?

魔力で何を無効化してたんだ!?

「だから、名状しがたいものを名状化してあふれ出さないようにしてるの!」

「なんですかそれは!!!」

つまり襲う意思は無いって事か?

キャノは首を横に振る。

「いえ、何にもわからないわ」

「なんだって!」


「すいませーん! 水道の点検に来たんですけどー!」

西側の玄関口から、しつこく呼ぶ声がしている。

 コトはちらっとベヨネッタ(?)を見た。

硬直していた。



 なんだこれ、えっと、どうするんだ。混乱しかけていると、背後に居たキャノがこそっとコトに助言?する。


「気になるのはわかるけど、あまりカオスに関わっちゃダメよ。気が変になる。どうせまだ復旧してないんだし、ゆっくり慌てずいきましょう」


「嫌ですゆっくりどころじゃないんですよ!!」



「すいませーん! 水道! 点検! なんですけどー!」

西側の玄関口からはまだ、しつこく呼ぶ声がしている。



 その時。

ちょうど何処かから唐突に『頭に蟹のような鋏を生やした錦鯉みたいなもの』が召喚された。

 外に出るつもりなのかゆらゆらと泳いで、迷わず玄関に向かって行く。

その途中、ベヨネッタの足元に突き当たる。


  ベヨネッタは鯉の気配を感じたのだろうか、気が付いたようだった。

ポケットから、小型の銃を取り出す。


 「ん? ……いや、そうじゃない、あれは」





――――銃剣……!


ぐさっ、




「鯉氏ーーーーっ!!!」




2023年4月2日21時15分

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ