銃剣とGPT
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現在
二人が歩道を渡り終わり、もうタワーのすぐ目の前というときだった。
コトは、キャノがなんだか寒そうに自らを抱きしめているのに気付く。
「どうかしたんですか?」
リル、のときもそうだったが、彼女たちはある程度を魔力で体温調節しているふしがある。
もしかすると……、コトがなにか言おうとしたのを察してか、彼女はふと俯いていた顔を上げ「大丈夫だから」と笑顔で答えた。
「ちょっと最近、風邪気味なの」
そうなのか?
コトがなにも言えずにいると、
急に彼女の方に連絡が入った。
「おっと。誰だろ。はいはーい」
キャノは慌てて頭上、を抑えている。
どうやら携帯端末ではなく、常に付けているリボンからの通信のようだ。
(あれ電話なんだ……)
「え──タワーのGTDが?」
彼女の潜めた声が、やけに深刻そうだ。
タワーのナビは通常、GTDシステムの中を移動している。
ネットワーク内に常に呼び出せるチャットを搭載している旧GPT──
マイナンバーや個人の情報と紐付けたグローバルポジショニングトーク機能
(連携して人工知能がより精度の高いチャットが出来る等に繋がった)
をより引き継ぎ、立体的で直感的なGUI実装や、対人会話を可能にしたとかなんとか……?
そんな話を授業でやってたなと、コトはぼんやり思い出した。あまり興味がなかったので、意味はよくわからなかったけれど。
どうやらそれに異変が起きたらしい。
「ナビだけ表示されてないって、それじゃあ、マオちゃんは何処に……」
マオちゃんというのは、
キャノの妹──魔法を制限する為の
制限装置が開発され始めた頃、機械事故で身体ごと吸い込まれた妹……
彼女に寄せて作られたタワーのナビゲーション人格だという。
※ちなみに『魔法少女・シルフィード』に出てくる、主人公の名前も、永海マオである。
──その、マオちゃんが、居なくなった?
通話を切ると、キャノはコトの方に、複雑そうな笑みを向けた。
先程の電話はシステム管理の人間からの報告――――を引き継いで、ナナカマドがかけてきたもののようだった。
「マオちゃん、どこ行ったんだろう」
「いなく、なったんですか」
コトはあまりマオちゃんと関わる機会が無かったが、居なくなったというのはそれはそれで心配だった。
「そう。居ないみたいで」
普段ならタワー内の観光スポット周辺を自由に歩き回っているという彼女が、
管理局へ電話をかけてきて『もう待てない、時間切れになる』の言葉を録音したのを最後に、そこからの通信が途絶えたままになっているらしい。
けれど彼女のデータは存在するし、恐らく都内にいる。
監視役に調査を代行させる人手が無いので
此方自身が、調査に出る方が早い。調査依頼を出して欲しいとのことだとか。
それなら早く向かいましょう、とコトが言いかけたときだ。
彼女は待って、と言葉を続けた。
「それだけじゃなさそうなの」
「まだ何か?」
「通信が途絶えた後、マオちゃんが居た画面に、ベヨネッタって、文字が上書き表示されたままなんだって」
ベヨネッタは、確か銃剣の意味があったはずだ。
「……銃剣? なぜ?」
「わからない。でもシステムの内部の文字列も、あちこちBAYONETTAになってるみたい」
「どこかから、BAYONETTAに書き替えられているって事ですか?」
「えぇ。書き替えるというか、置き換えるというか……聞いただけじゃよくわからないけど。職員も消えてるし、タワー内部の異変のせいなのかな」
「うーん……でも、じゅう、けん……何の意味が。何かの暗号でしょうか……居場所のヒント?」
「なーんか怪しいのよね。調査依頼にしても、BAYONETTAにしても、どっか、引っ掛かると言うか――――」
なんだろうな、と彼女が唸っているのを横目に、コトも考えてみる。
銃剣。銃の先に付けて使う剣だ。
(弾切れなどのとき、あるいは近接戦闘になったとき、あるいは何らかの理由で最終的に切りかかる方が手っ取り早いという状況で使用された武器の一種……)
馬が尖った物に突っ込んでいかないことを利用している話もあったけれど、その状況の馬に居合わせたことがないので、よくわからない。
二人で此処で考えて居てもらちがあかない。
いつもの監視役、の横を通り抜けてタワーに向かう。
入口の自動ドアの前を過ぎて、薄暗い廊下を歩いて……
(あれ……)
なんだか、いつもよりシン、としている空気を感じた。
3月26日12:31‐2023年3月28日2時50分




