アイスさんと⌒(ё)⌒
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「誘発の頻度が爆発的に上がっている」
「実際、ここ数年怪奇現象が頻発している、生活に支障を来しているとして幾度となく苦情を入れて来たが……国が、役員が動く気配は無いようだ」
「文字に力が宿るというのは、古くから言われていたことです。
しかしその本の中にさえ居れば恐れる必要のないこと。
大方『非公開の理由』を無視しての引用や盗作でしょう。キンキを犯す、ってやつですか」
「連中、自分で能力誘発の責任を負わなくていいのをいいことに ミーム兵器やネーミングライツまで利用するくらいだ。魔力に伴って町全体への誘発をより強固な物としてしまった、こうなってしまっては
、取り返しがつかないかもしれない」
「……このことは、魔力均衡協定の手前隠密に進めなくては」
「協定で、まだ書籍などの基準が明確にはされないのが不思議だと思っていたが、誘発を軽く見た、『上』が経済を潤す為に放出させ、長年隠してきた」
「被害に対して統合失調症や鬱病というデマをわざとばら撒き、精神病院に隔離し続けてきた、と」
「やはりタカユキはまずかった。
かつてあった災厄のとき、当時、一番街を満たしていた呪いが、『長男の呪い』だっただけに……規格統一の為適用ベースに集まった呪詛を一斉に大魔女が『長男という記述』を纏めることで
一次元に閉じ込め、鎮めていたからな。その分どのタカユキにも、あるいは同じ魂を持つ長男にも、ネーミングライツが適用される」
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数ヶ月前(地上に居る大魔女としてのアイスが失踪する前の、ある日)
「これまた……大きく出ましたね」
アイスは嘆息していた。
夕方、暗くなってきたのを感じながら外出が彼のその日の気分転換だったのだが――――
駅前の売店で雑誌にアイドルの『彼女』を発見。
思わず立ち読みしてみていたものの、『彼女』に対するこの頃の内容はどれも、放火やライブの問題を疑う内容である。
『魔女か?』だの『反人間組織』だのと書かれている。
最近放火が流行っており、その行く先々に彼女が居るとのことだ。
アイスの知る『彼女』は確かに、ちょっとばかり電波なところはあったが根気強く話せばそれなりに会話が出来るタイプだった(はず)なので、記事の印象が正しいとは思わなかった。
学生時代に居た、日常会話から既に何語かすら見当がつかない者(なんと沢山いる)に比べれば、あれは幾分か疎通できる部類なのである。
「しかし、アイドルですか……」
本当にやってるとは、となんとも、懐かしいような愉快なような気分になる。
「タカユキ暴走の件や魔力の件の悪目立ちも続いてますし……誘発のきっかけになるようなことがなければ、と言うのすらちょっと遅れましたね……」
呟きつつ、ぱら、ぱら、と捲りながら、4ページに渡る特集を確認しおえると、シワにならないように棚に戻す。
──しかし何か……暗躍するものを感じるな。
眼鏡のフレームに指を当てて位置を直しつつ、思考する。
「タカユキ暴走のときのバックにはあの宗教絡みの令嬢が居たとされている。
彼女の背後は……いや、確かマネージャーが────」
パーカーのポケットから出した携帯を操作して、会社、にメールを送ると、数分後に不器用そうなメールが帰ってきた。
《その⌒(ё)⌒おり遠いだ。彼女は漫画位置を想定して渇れ彼、か彼がついて居る。》
「なるほど……やはりそうですか」
⌒(ё)⌒、を単語登録しながらアイスはニヤリと笑った。
「いくらリミッターの干渉を受けづらくしているとは言え、何かあれば我々がじかに対処していたというのに────私の反応速度より早く、火を消した……と。そのような素敵な方が、存命というのは、聞き捨てなりませんが……えぇ。リルでも無ければ」
──というか、むしろそんな異様な人外が、そうそう目の前に居るとは思えない。彼女はやはり何かに巻き込まれていると考える方が妥当なのだ。
「これは由々しき事態。赦せません……」
自分より早く対処する存在がいないと考えてみれば、
何が起きているかも自ずと理解出来てしまう。
『彼女』の出演経歴にあった都市伝説番組──に出ている専門家。
確か人間派の中でもあのカルト宗教絡みの男が居たはず……ある時期からは露出が、一気に減り、今やときどき魔力の話や魔女狩りの話をする程度だ。
──最近は人間のデモも活発になっている。
魔力の件がより魔法遣いを敵視する事態を煽っている為だ。
そのくせ持ち出し禁止や扱いに注意する図書はタカユキ暴走のときから何ら変わらない横流しが続いていた。
大方、そういった騒ぎにさらに箔をつけるための人間の工作だろう。
202010月7日2:19
嘆息。
「と、なると――――やはり私も、うかうかして居られないですねぇ」
立ち読みをやめ、ちら、と駅の柱を見る。
背後から圧を感じる。
此処はつるつるした光沢のある柱が何本も立っているデザインだが、アイスの眼にはもうひとつ、別のものが映っている。
それが波形だった。リミッターのチャネルらしい一定感覚で柱に光の模様が表示されている。
ちなみに、この一定感覚の波が、少し幅を変えただけで、魔力が感知されていることを認識することが出来る。
これが『自分にしか視えない』と知っていても、それはそれで一人だけ妙な幻覚を見ているかのようで落ち着かないので、ちょっと緊張するのは内緒だ。
アイスは駅の辺りをうろつきながら、考えていた。
「さて。ここから、タワーへは、どちらだったでしょうか」
通常、リミッターがあってもなお平均以上の魔力を発揮することが出来るごく限られた者たちは、制限に引っかからないように自らを結界で覆っている。
管理局側に認知されると後々面倒なことが多いためだ。
――しかし、制限の管理には例外も存在している。
それが、彼女やあの男の存在そのもの。
彼らは術として対外的に学んだり身に着けたわけではなくとも既に、その身体自体がそういった存在であって、完全に制御することは不可能ともいえる。
誰しも喋らずに、何も見ずに、動かずに、生きていくことは出来ない。
(リルが街に来る前に、ひとまず動かなくては)
駅を出てタワーに向い、ページングがどのように生きているかをもう一度確認して……
管理局が公表するとは思えないが、制限装置にはサンプリング用や制限用のレートの他にもうひとつ数値がある。
それが待機魔力。
これは生きているだけで既に体内を循環していて、エネルギーが通常よりも巡っているほど、待機魔力の幅が大きく、制限しているものとは別に、制限に引っかかるので、アイスも当初は苦労したものだった。
結界をうまいこと貼って、ときどき解除してとやるのに慣れるまでは夜中であろうとなかなか出歩くことは難しかったので、そのあたりの効率化をする為にも町の一部の区域全体を結界にさせてもらった。
これによってある程度のイコライズが測れる。
大魔女がめったに地上を歩いていないのは、なにも仕事漬けのためだけではない。待機魔力ですでにリミッターの磁場が狂うなど大変なことになってしまう為なのだ。
攻撃性のあるものしか制限自体は加えられないと言っても、誤作動を起こすくらいは出来てしまう。
『彼女』も恐らくはその一人。
「しかしどうせあの子のことだから、待機魔力の影響など何も考えていないに違いない……昔からそうでしたからね。強さにばかり拘って」
フフフ、と思わず笑みがこぼれる。
柱の多いところをなるべく避けて歩きながら、同時に空気の中にある不思議な感覚を察知して頭上を見る。
あぁ――
この力の感じ。
「なるほど、ここはカノンの領域でしたか」
さすがにああやって『広報』などしていても、すべての人間へのイコライズは手間だ。
彼女も苦労しているのだなぁと思いながら、はて、と頭になにかひっかかった気がして考えを巡らせる。
(何か、気になるんだよな。火災が起きた区域を調べなおしてみようかな)
《あの彼女が》アイドルなどやっている理由は今となればなんとなく察しがついていた。
影響力を薄めきれないのなら、影響力を使うしかない。
自分の身体に合う形で、周囲の方を変えるしか、ないのだ。
「確かにあの家系の声は、思えば、そのためにあるようなものだった」
特に攻撃をしているわけでもない《それ》への反逆となると、背後にあるのはやはり大きな勢力か、強い執念で魔法遣いを追っている者だろう。
それに、軽くしらべた限りでは彼女が純粋な人間かどうかは公表はされていないので、そのまずさが分かるというのはそういったものに詳しい人物という風にもとれた。
「……しかし、こうやって歩くの、たっのしいなー。朝までに帰宅しなくてはならないのに」スキップらんららん。
しばらくるんるんで進んでいると壁に、大きく貼られた市街地図を発見して、タワーの場所を確認する。(なぜか分からないが、一部の魔法遣いはこの国に来るとみんなタワーにつけなくて迷うらしい)
「えーっと、ここの通りをまっすぐ行って、ちょっと左に曲がったほうが近いですね……」
端末を取り出し、タワーにいるであろう男にメールを送る。
《今からそっちにいきまーす!!》
送信。
数分、物陰で屈伸したり飛び跳ねたりして待っていると、返信が来た。
《なぜw、ま異界あざわあzあ、メールなんですか? 了解》
「了解、されましたね。ついでだから何か手土産でも……」
《この近くで食べたいものとかありますか? 手土産にどうかなと思いまして》
送信。
メールを送るのは単に面白いからだ。
頭上、横断歩道を越えた先の電線の上に、やけに鳥が止まっている。
何か食べ物でもあったのだろうか。すがすがしい夜の空気に混じって少し騒がしいというか、ちょっぴり不気味な感じだ。
歩きながら、タワー前に居るスーツ姿の人を数える。
いつもいつもご苦労な感じで何かと存在しているが、一体何から、何を見張っているのだろう?
地上は、地上でいろいろとあるのだろうけれど、アイスが全てを把握しているということでもなく、ただ漠然とここの警備の人だなと感じるくらいである。
(しかし……)
アイスの脳裏に、先ほどのメールのシリアスな文面が浮かび上がる。
《その⌒(ё)⌒おり遠いだ。彼女は漫画位置を想定して渇れ彼、か彼がついて居る。》
(あの件が、ありますからね。いろいろと管轄を把握、整理しなおしてみていいかもしれない)
返信。
《中華まん》
「………」
面白みのない返信が来たことに、アイスはなんとなくがっかりした。
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