緊急招集
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次の日の朝、初の緊急召集がかかった。
コトは昨日から、なんとなく憂鬱だが、重いからだを引きずるように、やってきた。先に来ていたクルフィは、相変わらず能天気に笑っている。キャノは、急な召集に、何かあったのだろうかと、不安になっていた。
「ところで──今まで視察に行っていた、フローとキャンディが帰ってきた」
本名なのかさえもはっきりしていない、ナナカマドという男が、いつもの『特に何もない部屋』の真ん中から、はきはきと語っている。
昨日は病院にセラピストとして向かっていたらしいが、恐らく、最近増えている、闇セラピストだろうな、とコトは思って、そのまま考え事をした。
この世界では、魔法が表立っていないので、魔力などを使った仕事は、表には存在しないことになっている。だから、本物の魔族であろうが、違法なのだ。生まれ持ったものが、違法というのもどうしようもない話であるが。
しかしたとえ存在していたとしても、未だ解明されない部分が多いし、詳しい証明が誰にも、あまりに難しい。
魔族を偽っての、詐欺、悪徳商法などが出てくるのは魔族への信用にも関わる。
精神的な疎外感、自分自身を否定され続ける苦痛を抱えてでも、魔族は、その体面的な『違法』措置を受け入れるしかなかったのだという。
『存在しないことにすることで、《不平等な平等》から守られ《平等な平等》を受け入れる』のだと、キャノはコトとの昨晩の通話の中で言っていた。
不平等な平等とは、恐らく、個人の資質で揺らぐ、平等な『価値』のことなのかもしれない。
『だから、悪いことばかりじゃないんだよ』
過去に、魔族の方にばかり、平等のための《圧力》が集中して寄りかかり、結果として人間を恨み、虐殺に走る事件が多発したという。
それは、今より世界が多くに『平等』だったが故に起きたのかもしれないとキャノは言った。彼女らしい、彼女の価値観からの意見だった。不平等を受け入れることから生まれる平等も、あるのだという。
「……でも、それって、辛いことも、あるんじゃないですか?」
コトは聞いた。キャノは、曖昧に、あははと笑って答える。
「……死ぬような思いをさせられてまで、ずっと魔法に縛られて、使えない人の中では平然と笑ってて──正直ね……『自分の持ち物なのに、なんでこうも否定されるんだろう』とか。『使えたって生まれつきなら仕方ないじゃん。なんで遠慮しなきゃならないの?』とか、思ってたこともあった」
「……そう、かもしれませんね」
「でもね、私たちが『表』に出たら、いろんなバランスが崩れちゃう。私たちは、隠れなきゃならない。それは、もう、どうしようもないんだってわかった。何かの、大多数の平等のためには、切り捨てられるたくさんの、少数の不平等が必要なのかもしれない」
──そうなのだろうか。コトには、よくわからなかった。
ただ、《普通》に紛れることは、かつての『魔女狩り』から、国ごと守られていることでもあるのだと、理解した。
不利益ばかりではない。どうやら物事は、多角的に捉えなければならないらしい。例え、心や体を蝕む痛みが日に日に彼女たちを支配して行くとしても。
自らの存在自身を少しずつ削って、存在するための場所そのものを。立場を、守っている。