マクネさんと、衛星探査機・シンカイ1号
その頃のマクネ
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「おい。パンをちゃんと牛乳に浸してるか、確認させろ。それから、目玉焼き。な」
そろそろ朝飯の時間。
初老・マクネは先程から新聞を見ながら、アジトのダイニングでせっせと動く女中を眺めていたのだが、もたつくので流しの方に歩み寄る。突然、『部屋』のドアが開いた。
飛び込んで来た少女はテンション高く、ものすごい早口でまくし立てた。
「おはようございます! マクネ指令」
「なんだ、マユ。少し落ち着け。そんなにバタバタすると埃が舞うじゃないか」
初老・マクネはゆったりとした仕草でリクライニングチェアから立ち上がる。
マユは肘置きに飛びつくようにやって来て、改めてまくし立てた。
「以前のお話を覚えていますか? ]
『声の高いぶりっ子』女が、学校に居た頃に『目付きの悪い金髪』に修羅場を作られたことがあるらしく、
その話だけは使うなって禁止令出してるくらいの各方面に飛び火する話。張本人は悪口と思って居なくてむしろ外部も取り入るために絶対使いたいので待機しているって話だったはずだ。
「それが、どうした」
初老・マクネが半分呆れた気分を引きずりつつ、玄関を向く。
「カフカの出演する日程が決まりました。夜のバラエティ番組『キャンドルと魔女』内で、衝撃の暴露!と称してカフカが喋る段取りのようです」
ちら、とマクネはマユを見た。
「そうか。そうか……そういう方向もいいね」
目立たぬよう、潜在履歴に残らぬよう、ツブシは慎重に行う。
とりあえず町中に拡散すれば動けまい。
「して、マユよ」
柔和な笑みを向ける。
「は、はい」
「その方は」
マユの後ろから、にゅっと出てきたのは、赤っぽい髪を肩まで伸ばしている女。
「先日ご紹介した、茜さんです」
「どうも、リーガル統一人間会から来ました。瀬エ川 茜です~」
女中が目を丸くして、一瞬茜の方を向いたが、すぐに皿を用意している。
「此方の方のは……」
途中、こっそりとマクネに確認を取ろうとすると、茜の方から「ウチのはお構いなく~」と言ったので、女中は改めて調理に戻っていく
「しかし、カフカちゃんの人気は凄いもんやなぁ……ウチもあと数年若かったら……ってまだピチピチやん! 見て!?この玉のようなお肌!」
「仕方ない、茶くらい出してやる。コーヒーと紅茶なら、どちらがいい。インスタントしかないが」
マクネがスルーしたまま、飲み物について聞く。
マユが答える。
「茜ちゃんは、とりあえずコーヒーにしましょう、私と同じブラックで。目が覚めると思いますの」
「あっ、そうそう、そうそうそう、ハンター派遣の話させてもろてもええ感じなんでしょうか? 実はですね、南瓜の件で、兄貴機構の出資先のひとつにジミさんらが取り上げられかけてるんですけど」
「ジミが!?」
マクネと、ジミには少なからず縁がある。
不都合なライバルを潰す為に会社から取り計らったこともあるし、逆に援助もしてもらった。
「ジミが懇意にしてる会社、兄貴たちの大元にあるとこと提携しているでしょう。その関係です、それに、政治家の息子に『兄貴』が居るみたいなんで」
「……それで」
マクネは心の中で舌打ちした。
(わざわざ揺さぶりをかけに来たな。足元をみおって)
「あんときのランタン南瓜がカフカやウチんとこの宣伝だったと打ち出しちゃうとしても、そこから提起されたら追及は免れませんよ」
しかし、何もしないにしても、ハリーに疑惑をかける。
たった一日、くらい、と思いたかったのだが……なんだか嫌な予感がするのだ。
効力が切れるまで延々と、街中に(ランタンの方の)ジャックを召喚されるような。
ぐぬぬ……
「此処は、ハロウィンに現れた不審な犯罪者をでっち上げ、即座にニュースで流してもらうか」
「へぇ、名前は何にするんです?加保タロウとかどうです?」
「そんなふざけた名前では、すぐばれてしまう、此処は外交と治外法権をちらつかせ、某国のゴロツキを使うか」
マクネの中でプランが決まりつつある。
ライターや記者をかき集めて、犯罪者に注意を向けさせる作戦。
ちょっ、加保タロウのどこがふざけてるんですか、という茜の発言はマクネに届かなかった。
女中がテーブルにそれぞれカップを置く。
マユは静かに口を付けて、一言。
「ですが、せっかくハリー・ヨウ旋風で盛り上がったのに、潰しちゃうんですか。ファンタジーだとかファンタスティックだとか評価するとこもありましたよ」
マクネもそれは知っていた。
民の心が浮足立ち、ワクワクと輝いた瞬間、ハリー関係や、マクネの関わった株価も上昇した。
あれを今になって否定することが何を意味するか。
出資がバレて、株価が下がって、更に、ジミが取り上げられる。
「それに、あんな大規模な魔術、それとも科学技術かしら、どちらにしても、即座に凡人が真似するのは労力がかかり過ぎます。あれは、そう、単なる素人が出来ることじゃない。だから企業かもしれないという噂も通ってしまうんです。まるで」
天才――――
「疑惑を残さないのは不可能に近いかと」
「くっ……」
初老・マクネは頭を抱える。あれをやればこっちがボロを出し、それをやればあっちでボロが出る。どこから突かれても瀕死の状態だ。
「はいはい、そんなわけで茜ちゃんから、直接殴り込みを提案に来たわけです……にがっ」
ちゃっかりあいてる席(マクネのお隣)に座り、カップに口を付けた茜は顔をしかめた。
やがて、改めてズズーッと中身をすすった後、
「はぁ、なんか、よう目ぇ覚めて来たような気がする……」と呟く。それから、
ポケットから端末を取り出した。
「此処に。彼女らを、初動からトレースし続けてきた衛星探査機──シンカイ1号のカメラ映像があります」
「シンカイ……!? あの、超遠距離から精巧に地面を描写出来るというシンカイ1号か?」
マクネは、食べていたクロワッサンの欠片を溢しながら思わず身を乗り出した。
シンカイなのになぜか宇宙を飛んでいる探査機であるそれは、科学者であるヒロシゲ・マコイトと、妻のリー・マコイトの設計によって創られた、魔法を宇宙から探査する為の……人類の科学の発展に貢献するかもしれない機械だ。
「初動からトレースを続けてきたとは……だいたい、あれはその辺で売られている代物ではない筈……お前たちの企業はいったい」
茜はなにも答えなかった。
「シンカイが、なぜずっと彼女たちを目標にしているのか……リーさんや、ヒロシゲさんのこと、ウチらの権限では、何も言えません」
「そ、そうか」
茜の、どこか思い詰めたような目。
マクネもマユも、何も言えない。
そうか、というので精一杯だった。
「ですが、ほら」
画面に映る映像を差し出される。
そこには、鳥籠を振り回す女が映って居た。
何かに向かって投げ付けているようなのだが、対象はなんだかぼやけてよく見えない。
「高精度のカメラではないのか?」
「えぇ、そうですよ、此処まで精度をあげてやっと数秒かろうじて映ったのが、魔力と呼ばれるエネルギーの軌跡」
「何を言っている……?」
鳥籠が投げられるたびに、地面が砕け、欠片が宙に舞う。鳥籠を振り回すだけの彼女はよく見えるが、もう片方、何と戦っているのかはほとんど見えなかった。
2023年2月23日4時07分─2月27日PM1:00




