始まりの場所
そういえば、タワーの内部は大丈夫なんだろうか。
コトはふと思い出した。
いろいろとあって、触れずに居たけれど、原子力発電所とも何か、調査に関してのつながりがあったのではないか。
だから、予告として電話をかけておいたのでは……
――――だとすると、システム異常に関連しているのが『魔女狩り組織』側で起こされている、あるいはそれに準じる勢力であることがほぼ確定している。
会話をしながらビルの影に立ち尽くしていると、やがてコトの母がビルから出てくる。何やら話を終え、上機嫌でいつもの車に乗り込もうとして――――
そのときだった。曲がり角の向こうから軽トラが走って来る。
コトたちの位置からは調度死角になりやすかった為、
それぞれの反応が遅れる。
どん、と鈍い音がした。
バックしていただけで、あまりスピードが出ていなかったのだろう。
ひかれはしていないものの背中から衝突され、倒れる母。
(母さん――――)
通行人が救急車を呼んだのか、何処かからサイレンの音がする。
「ぁ……」
コトが固まっている中、キャンディが小声で呼んだ。
「行こう。もうじき人が増える。此処に居ても、俺たちが怪しまれる」
いつの間にかみんな移動をしているようだった。
不安定な気持ちのまま、それでも意志に引きずられるように頷いて、
みんなの後に続いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
――――言いたい事というか。あるんじゃないのか
俺は……
――――お前が知っている、お前自身の情報は何だ?
わからない。
俺はごく普通の高校生だったんだ。
そのはずなんだ。
――――母親の情報の中に、お前自身が知っている情報がどれだけある?
俺が、知っている情報……?
あんな母さんを知らない。
母さんが何をしているかなんて俺が知るはずが無い。
だって、そうだろう?
学校とか、遊びとか、勉強とか。他の事気にする必要なんて無かったから。
母さんはいつも居ないんだ。
居なくて、たまに帰って来て、それだけなんだ。それで、それがどう知ることが出来るっていうのさ。
――――これが上手く行ったら、私の物にしていいんですよね?
――――そう、私が駄目だったのになんであの子が選ばれるのかって。ずっと欲しかったんですよ。 もし、そうなったら私が行って良いんですよね?
――――はい、8時ですよね。えぇ、いつもの……
『なんで、選ばれるのか』
俺はいつだって頑張ってたのに、
全然、知らないじゃないか。
何をしてても、勉強してても、
全部、遊んでるって、何もしてないくせにってそれで、なんで――――
「コト?」
声が降って来て、ハッと意識を戻す。
「大丈夫?」
「ミ、コ……」
ミライちゃんが不安そうにコトを見つめていた。
辺りを見渡す。目の前にタワーが見える。
どうも戻ってきていたらしい。
いつもの警備員たちが此方に気付いた。フォーメーションを崩さないまま、無線でひそひそと何か話している。
「あぁ、悪い。大丈夫」
答えてみたものの、何がかはわからなかった。
ミライちゃんの方が心配そうにしている。
「お、お母さん、大変だもんね、そのっ、あの。なんというか」
彼女なりに、何かしら励まそうと言葉を探してくれているようだ。
「母さん、あれ、骨逝っただろうな。暫くコルセットとかギブスとかかも」
コトは、どう元気なそぶりを見せればいいのかわからず、皮肉めいた言葉を開並べた。
「でも、いきなり骨拾いとか切断された四肢探しとかにならなくて良かったよ。流石に俺もその、リアクションに困るって言うか」
笑った顔、安心するようなそんな顔が見たかったのだが、彼女は悲しそうに苦笑いするだけだった。
しかし、それもそうだ。これから母親がコルセット状態になるだろうことを、笑っていいのかとも同時に思う。相反する感情で、動転している。
それに。
知らない母親の姿にも戸惑っているのだが、同時にコトの中に、ある疑念があった。
――――あれ、故意だったりするのかな……
それとも、
「案外俺のせいなのかな」
ミコになら言えるだろうか。ふと、そんな誘惑にかられる。
UMAとか、よくわからない謎が好きそうだし、広義の謎として、あまり深く受け取らないでくれるかもしれない。
彼女はぱちくりと瞬きをした。
「どうして?」
「知り合いに、俺の事が知られると、必ず事故に合うんだ。
昔から……花瓶が落ちてきたり、家が火事で燃えたり、交通事故に巻き込まれたり。いつもって、わけでも無いと思うんだけど」
まるで、重力に引き込まれるみたいに、急に世界が反転する。
「へぇ、それは、夕飯の話と関係あるのか?」
背後からキャンディの声がした。
というより、彼女に気を取られていたがキャンディたちも横に居たらしい。
まぁ、いいか、と話を続ける。
「わからない。母さんが、俺の……何か、そういうのに、触れて、意識が影響を受けてしまっている、事象に引き込まれた可能性は、あります、けど」
――――普通は起こる筈が無いのに。
そう、言えなくて、心に重く伸し掛かる重圧。
だって、約束したじゃないか。
母さんにとってはそうでは無いのかもしれないけど、
選ばれる……
(選ばれる?)
遠くの方でキャンディが、何かを言い、タワーに歩いていく。
キャノも、駆けていった。
独り言を呟く。
「なんでだろう。ただの偶然だって、思えないんだ。
きっと事故が決まっていて、何かが始まっていて、あの火災のときから……それより前から、」
わからなかった。
自分が今、何を思うべきなのか。
選ばれる。8時。夕飯。てるてる坊主。地震起こさないで。水。怖かったんだから。
――――どうして、放っておいてくれないんだろう。
どうしてみんな、騒ぐんだろう。
人目を避けて、前髪を伸ばした。
誰とも関わらないようにしていた。
なのに。
どうしてわざわざ、流れに揃えようとするんだろう。
同じ流れの中ではいつも同じ事が起きるだけなのに。
「どうして、みんな流れるだけなんだろうね。
大事なものが、そこにある筈なのに。
周りを見渡さず、ただ時間のせいにするんだろうね」
どくん。
心臓が跳ねた。
ミライ、と視線が合う。
「貴方が、この世界に在る為の、一番深い始まりの場所――――起点は何処?」
まるで自分を見透かされているかのようだ。
「ミ……ライ……」
君は、何を知っている。
俺は、何を知っている。
視界に、何が視えている?
――――大事なものがそこにある筈なのに。
周りを見渡さず、ただ時間のせいにする。
力のせいにする。
(まったくだ……)
彼女がタワーに向かって歩いていく。
振り向いて、コトに手を振った。
「行こう。なんか、中でお話があるみたいだよ」
(2023年2月8日15時53分‐2023年2月8日0時30分‐)(2023年2月14日20時20分加筆)




