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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
85/240

森と原子の情報戦略



・・・




コトたちが歩いてしばらくしてきた頃。

 少しずつではあるが、ミライちゃんも、集団に雑に馴染み始めていた。

 みんなで会話をしながら、だらだらと、けれどなるべくは急いでタワーに向かっている。

「しかし、暑いねぇ」

ミライちゃんが言い、コトも、「アイスでも買います?」と言う。

町は相変わらず賑やかな喧騒に包まれている。

「予算は自費で」

キャノが言い、キャンディは黙ったままだった。



コトは皆を眺めたり、町を眺めながら、家の事も思いだした。

 このまま、ずっと、帰りたくない。


こうして、昼の喧騒の中に居ると、なんだかほっとする。

   青い空を見ていると、なんだか、懐かしい。

    この中に、溶け込んで、ずっと、何事もなく、

     存在すら忘れて、存在していられたら。








   ――――それなのに、最近ずっと胸騒ぎがするんだ。




・・・・・













  タワーに戻ろうとしている道の途中だった。

保険や証券会社の名前が連なる大きなビルのすぐ脇。

見覚えのある、真っ赤な車が停まっているのが目に入り、思わず立ち止まる。

「どうしたの?」

 すぐ後ろを歩いていたキャノが不思議そうに聞いてくる。

その横に居たキャンディにはすぐにコトが立ち止まった意味がわかった。

(あれは……)


あの派手なアップルレッドの塗装。

「間違いない、母さんの車だ」

コトの母の車だった。

彼女は特に最近の挙動がどこか怪しい。リカちゃんや東さんの件もあるし、地震起こさないでくれる? など、突っかかるような事ばかり言う。


 この件をどうしたら良いのかはわからない。

でも、放っておいていいのかといえば、そうではないだろう。





「コトのお母さん、お仕事かなぁ」

ミライちゃんはのんびりと皆を見ている。


「みんな、こっちに」

コトはなんだかわからないけど、ビルの裏側に隠れる。

皆も思わず、そちらに向かった。

何故隠れてしまったんだろう。咄嗟に、身体が動いていた。嫌な予感がする、と。


「ほんと、小さくて嫌になりますよ」

母が車から降りてくる。

誰かと通話している。

「あははは! そう、レーズンパンが好きでね。レーズンパンだけいつもこっそり買ってくるんですけど」

「あっ、痛ぁ……頭が痛くなってきたかも……大丈夫、すぐ直りましたから」

「これが上手く行ったら、私の物にしていいんですよね?」

「そう、私が駄目だったのになんであの子が選ばれるのかって。ずっと欲しかったんですよ。 もし、そうなったら私が行って良いんですよね?」

「はい、8時ですよね。えぇ、いつもの……」



 欲しかった?

あの子が、とは、東さんのことだろうか

いや、あの子なんて言わないような。

8時に、母は、家に居るときはテレビを観ていた。

私の物にしていい、って何をだ。選ばれる?

何処に、行くつもりなんだ。

なんだか、嫌な感じがする。よくわからないけど、そう思った。


「……大丈夫か」

キャンディが言葉少なに気遣いを述べた。

コトは率直な感想だけ答える。

「大丈夫、ではないですね。気持ち的には。

でも、まずは、母が何処と通じているのか確かめなければ――」


「なぁ」

キャンディが、なんだか不安そうに話しかけてきた。

「お前、何か……その、言いたい事というか。あるんじゃないのか」

「え」

何故、そのように思うのだろう。

「別に……」

どうして戸惑うのだろう。


「言い方を変える。お前が知っている、お前自身の情報は何だ? 母親の情報の中に、お前自身が知っている情報がどれだけある?」


静寂。数秒間の沈黙。







と。

何処かで、何かのアラーム?が鳴った。

(何かのテーマソングだろうか?)


――――ピコピコピコピコ♪ 

ピコピコピコピコ♪ 

でーんのうーにんげんーぱそこんー…


「えっ。電話!?」

同時に、ミライちゃんが慌てて制服のポケットを探している。

……電話? これ、着メロだった!?

(そういえば、鞄は持ってきて無いが、先に家に届けたんだろうか)


「はいっ」

 彼女が可愛らしいピンクの端末を出して、ボタンを押した途端に通話に切り替わる。……彼女の知り合いだろうか。

そういえば、今日、学校は無いのかな。



何の話をするんだろう、と眺めていると彼女は二、三語、話をした後で「はいっ」と、コトに端末を渡してきた。

「え……俺に?」

「そう。かわってって」

 大人しく端末を耳に近づける。

 男の声がした。ナナカマドヒラオ氏だ。



「君が電源を切っていたようなので、此方にかけた」


 いつのまにミライの番号まで入手していたのか。


「す、すみません……俺に、用ですか」

 そういえば、寝るときに切っていたような気もする。

どうだったっけ。無性に気になってきたが今此処で確認するのもなんだし何も言わなかった。




「あぁ、あまり、時間が無いので率直に言うが、奴らのやり方が変わりつつある」

彼は彼で忙しいらしいな、と、コトは手間取らせないように短く頷く。

その間にも彼は急いでいる感じに言葉を続けた。


「君たちの働きの間、私もこの前見つかったセルを研究所に持ち込んで解析してみた。結果はやはり模倣された魔法モドキが含まれているようだ」


それは聞くまでも無かったが、聞いても損ではない情報だった。

「……ですか」

 魔法の研究がされている。誰かがあえて真似して騒ぎを起こしていることはフレテッセ達、自ら被検体になった彼らで既にわかっていた。

力を妄信していて、切望していて……自分たちと違う立場を負っている彼ら。

たぶん一生打ち解けることは無いのだろうけれど。


「最初は、うちとの対立などで合わせて暴発が起きているだけだったんだがな」


対立。それは『彼女』の事とか、そういうのだろうか。

それとも……社長との軋轢?(たぶん中国の詩人じゃない。たぶん……)

答えられないうちに、話が続く。


「だが、今は新たに、実験段階なのだろう。

罠を仕掛けている、といったところらしい。アピールが露骨になってきた」

「露骨に……」



 でも、民間人を利用してまで一体何の為のアピールなんだろう。

 暴走させられた人たちはトランス状態にさせられているようだ。

記憶が残っていない事も多い。あの禿げた男からも、バニラちゃんからも、他の件でも、認められたいという強い承認欲求や、何か強い感情がある以外、わかる情報は特になかった。

最初は偶然を装っていたのだろうが、そう数日と絶たずに各地で頻発するのは意図的なものを感じる。


「我々をあえて真似することで、対立を煽っているのかもしれない。目的は不明だが、内部分裂狙いか、あるいは、人間側と敵対させたいのか――――」


 今日は、よく、喋るな、と思った。もしかすると、指示言語だけは出せないとか、そういう縛りがあるだけなのだろうか。

わざと自分たちに被せたモノを作って、それで各地で騒ぎを起こす計画になりつつある……か。そうは言われても、どう動くのが正解なのだろう。

自分が自分であるという事は、どうしようもないじゃないか。

闇雲に追っても奴らの思う壺だ。






まぁ、コトは、ハンター側との実践では魔法を使って居ないのだが。


「実は先日、森と、原子力発電所でも同じ状態の人間が見つかった」

「へぇ……」

 誰かが森の方に赴いたのだろうか。

聞いてみようと思ったが、彼はそこの詳細は言わずに、「今度向かってもらうかもしれない」と答えて、通話を切った。






「相変わらず、一方的だな」

「なんだって?」

キャンディが聞いて来たので、原子力発電所と森だそうです、と答える。

「いや、それじゃわかんねぇよ……」と冷静につっこまれた。

それもそうだけど、なんだか、心が鉛になったみたいだ。

 喋るのも面倒で、いっそ他人事にしたいくらいだ、というわけにもいかなくて、少しだけ気合を込めて発言する。


「えーと、模倣して騒ぎを起こすのが、本格化してきたみたいです。それでこの前、原子力発電所と森でも模倣された痕跡?が見つかったらしい。

無駄に対立しても資源が勿体ないし、時間だけ食うので、此処はこの戦略そのものを壊す方が早いかなって」


 まるでヤクザだ。と思ったが口には出さなかった。

昔何かで読んだことがある。延々と口論をさせる手法があって、相手が折れるまで些細な言い掛かりを続けるらしい。

有耶無耶になったままなんとなく放置されることを目的にしている。

余程暇で無いなら会話に付き合うだけ無駄なのかもしれない。


「なるほど……」

「何か違反の手がかりでもあれば良いんですがね」

「うーん、そういうのを探せって事なのかな」



2023年2月8日15時53分

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