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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
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林檎と回転寿司


朝。




  みんなが何を頼むか考えて居るとすぐにキャノやキャンディも現れた。

「もう、入っても良い?」

ドア越しに聞こえる声に、リル、が良いと思うと答えると、二人が入って来る。手には何故か袋に入れられた林檎を持っていた。

「それは?」

 ドアの付近に居たテネが不思議そうに見やると、彼女は此処に来るまでに買ったものだと言った。

「林檎」

「一度此処に来たんじゃ、なかったか?」


「そうなんだけどさ、待ってるの暇だし。もうすぐハロウィンでしょ? だから……アップルパイを作ろうと思って、買いに行ったの。

部屋において来ようと思ったら呼ばれたから」

呼んだのはテネだったようだ。


  皆が話している後ろで、ミライちゃんは奥の方にきょとんと立っていた。

やがて二人の視線が彼女に注がれると彼女は小さく会釈した。

「あ、初めまして」

思っていたより普通の反応だ。

コトは少し拍子抜けした。


「あぁ……どうも」

 なぜか急に挙動不審になるキャンディと「こんにちはー!」とやけに人慣れしているキャノがそれぞれ挨拶を返している。

「この子は?」

「なんだか、不思議な力を感じるな。誰か連れて来たのか?」

二人がそれぞれの感想を述べて、他の人も何やら話し始め――――ふと、話がコトに流れた。

「ねぇ、コトちゃんは、どう視える?」

「そうだな、どうなんだ?」

「えぇ……あの……俺」



 実は彼女を見たとき、正直、よくわからなかった。

何かが見えるような、視えないような。ぼやけて、滲んでいる。

こんな、不安定な気持ちは初めてだ。

でも、なんだか、落ち着かない。

だって、そんなわけが無いから。

今まで、どの人を見てもちゃんと視えていた。

でも――――


黙っていると、ミライちゃんはじっとコトを見つめた。


「何?」


彼女はさっきから手にしていたメモ帳を出すと、シャーペンと共に、コトに向ける。


「ミ・ラ・イ。書いて」

「おれが?」


突然どうしたんだろう。


「筆跡調査か何かか?」


彼女は、ふふっと楽しそうに微笑む。


「だって、よく、視えてないみたいだから」


 どきっとした。

視力の話を、彼女にしたことはない。

それに景色はちゃんと見えている。

焦点が合っていないわけでも無い。

なのにどうして、今、その話をするんだ――――


 「どうしたの?」


ミライ、ちゃんは、まるで、コトが考えて居る内容がわかっているようだった。


「貴方も私も、脳内に心像を作り出すことが出来ない――――よね?」

「何を……」

「アファンタジアって言うんだって。視えているのに、見えない。

視えるものしか、見えない。貴方の認識の範囲しか、見ることが出来ない」

「催眠? 暗示?」

「違うよ。人は見たいものしか見ないけど、私達は、それとも違う――――見え過ぎて、焦点を合わせることが出来ないの」


コトは、促されるまま、メモ帳に「ミライ」と書く。

彼女の姿は見えている。

何の、問題も無いのに、異端を求めてしまう。

生きる為に必要な情報だったから。普段から視えていたのに、落ち着かなくて。

異端を求めてしまうくせに、人間で居たいんだ。

そんな心が、ときどき、醜くて、虚しくて、悔しくなる。


「そう。ミライちゃん。がっこだと、みんなミコって言ってたっけ」


ミライ、

ミライ、

ミライ、

――――普通の人間は情報を絞って受容器官に焦点を定めているんだけど、人間にも、開きっぱなしになってしまう子がいるんだなぁ

――――何が何処にいたか、瞬時に消えていくんだろう?


――――君は、もう半分くらい生体文字を読まないと、風景を形成出来ていないよね。

情報を大量に取り込まないと、まともに道を歩くこともままならないだろう?


ミライ、

ミライ、

ミライ、



『新しい情報があります』





文字を書いて、それを数秒、眺める。


 何もないじゃないかと言いかけた瞬間、ふわっと背景が広がって見えた。




『風景を、形成します』



「…………なん……っだ、これ……」


視えた。

けど。

安堵と、歓喜、それと……

 変なものが視える。

  

それは本来視えなくて良いはずのものだった。


「これが……」


一瞬、軽い頭痛がした。

頭を押さえる間にすぐに収まったが。


「どうした?」

キャンディが不思議そうにコトを見ている。

リルが、頭が痛いのか?と心配していた。

 ミライ、ちゃんはコトを真っ直ぐに見据えて告げる。


「なんだ、よく知らなかったみたいだね。私たちも、情報を取り込んだ一日だけ、特定の範囲の心像を作ることが出来るの。

メモ帳に描いた範囲、書いて覚えてる直後ならいつもと違う視界で行動できると思うよ」


「……」

いつもと違う、視界?

あれが――――あれは『何』だ?

いや、俺が普段視ていたのは……

(言えない……)


さざ波が立つ心と、すぐそこにある景色を交互に認識すると眩暈がする。

……どうして、彼女だけ視えなかったんだろう?

知らなかったから?

自分から話しかけていないから?

それとも。

それとも、それともってなんだ、何を、今、考えた。


形成出来ていない風景。

(俺自身のこと……俺が……)






「じゃ、回転寿司行こう」


いつの間にか回転寿司が決まっていた。


「ミーティング、ミーティング! よくわかんないけど、人が増えたのかな?」


キャノがはしゃいでいる。


「その林檎、置いてくのか?」


リルが林檎を気にしている。


コトはミライちゃん、に呼びかけた。

「ミコ」

「なぁに?」

「俺たち……ずっと、見られてたって、そういう事なのか?」


彼女は、その問い自体には答えなかった。

代わりに不思議な事を言った。


「見てる人は、居るよ。私にはわかるの」


2023年2月5日22時37分

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