意識の同調
コトは遠巻きに二人を見ながら、これが端的に意識同調と呼ばれる、複数人を意識が同時に操る状態なのだと理解した。
親しい人、意識が近い相手程、自分の意識と同じように力が強く働き、例えば水を飲んでいると、周囲の人も同じ信号を受け取って水を撒きたくなったり、たぶん、今のミライちゃんのクラスタように気圧大変だ―!と言いだしたりする……
聞いたところによると目の前の魔女は、それで大量の人を操って大事故になってしまったことがあるらしい。
それは、とても深い傷なのだろう。
よく話してくれて、距離が近いようでいて、何処か距離が残してある――――
彼女との対話はコトにとってそのような感覚だった。
『あまり距離を深めたくない。それによって自分の意識が交わったとき、自分の意識下で自分の意思へと引きずってしまうかもしれない』と、あえて忌避しているかのようだ。
彼女たちと関わって薄々感じるのだが、そういう煩わしさもあってか、魔女は畏れられたり忌まれることを結構好む傾向がある。
基本的にキャンディのようなあの冷たい目をしているのがどちらかというと普通だ。
幻影の大魔女も、あの大きなカトラリーを引きずって、その訳のわからない様相に何処か畏れ、怯えるコトを見て、うっとりと笑っていたくらいだから……
(その中でも彼女は比較的真面目なのだろうな。だけど、巻き込み防止の為、距離は築きたいのだろう)
「ん?」
リル、と目が合う。
「どうした? 何か、あったか」
コトは先程考えて居た内容には触れず、それより前に言おうと思った話をした。
「今まで見てきた市民の暴走の根元にある、こうなりたいとか、これをしたいとかいう意思による攻撃暴走ではない、純粋な、無属性の力……、そんな力が突然現れて居るのはどういった事象と経緯があるのかな、って」
「夢で、白くて、ふわふわした、お人形さんみたいな子と会ったんだ」
突如、話に入って来たミライちゃん。
彼女は着ていた制服、スカートのポケットから、メモ帳を取り出すと、そこに描かれたラフスケッチを二人に見せた。
「だから、じゃーん。見た目だけでも私が具現化してみた」
「キャノ……?」
リル、が、固まる。
目を丸くしている。
そんなに驚くのか?と思ったが、コトも、それを覗き込んだ。
それなりという画力で描かれた、ふわふわした髪の美しい少女。描こうとしている姿は充分に伝わる。
何も言わずにいるうちに、リル、は「いや、キケルの方か……」と何か思案顔でぶつぶつ言い始めた。
「まだ発動したてだからか、物体の移動や、ポルターガイスト、電子機器の異変等は起きてないみたいだが、どうしたものか……だけど此処に呼んで、どうするつもりなんだ?」
誰かが、此処に呼んだ。話によれば、テネが連れてきたらしい。
クラスターの中心でそれだけ影響を持った人物を放っておけないのは仕方が無いだろう。
意識が安定しないのも、不随意に操ってしまうのも、危険だ。
(俺なんか、大雨降らせたもんな……しかもちょっとビビる降量だった)
厄介なことに、力の性質上、親しい人に程正体を明かせなくなる。
近いDNAを持つ身内は、意識の同調されやすさに一番近い。
ほとんど関わりの無い他人の自分たちが話し相手になるほうが、よっぽど有意義だろう。
周囲から浮いて異常者だった自分が、他の力と関わることでようやく自分自身に向き合う勇気を得たように、力になれることがあるのなら少しでも力になりたい。
コンコン、とドアがノックされた。
「はーい」
コトが返事をして、そちらに向かう。ドアのすぐ外に居たのはテネだった。
「あのさ、朝ごはん、まだだよね? 一緒に何か頼まない? おじさんの奢りで」
おじさんの奢りなんだ……
「いいねぇ。量があるものが良い」
リルが嬉しそうに答える。
「キャンディはピザって言ってたよー。キャノはサンドイッチとかだって。僕は辛いものがいいなぁ!」
テネがケラケラ陽気に笑っている。酒でも飲んでたんだろうか。
「俺、軽く食べて来たんですけど、軽いものなら……納豆とか」
コトは遠慮がちに答えた。
「うーん、外では食べにくいよー」
テネが答える。
「おんなじ豆なら、ずんだ餅とかにしようよ」
「はぁ!?違うし! お菓子とおかずを一緒にしないでください!!」
コトが思わず口走る。口調が変わっている。
ミライちゃんが同意する。
「そうだそうだー!!ネギと納豆の熱い風評被害は許しませんよ!!」
「ええっ風評なの!?」
「発酵させてるんだからにおいが独特なのは当然だ」
「ずんだ派はそこを公平に考えて欲しいですよね!」
「ちょっ、君たちすごい怒るね!? なに、なんかあったの!?」
どんどん脱線していく中、リルはぼんやりとどこかを見上げながら呟いた。
「……私は肉がいいなぁ」
2023年1月27日1時00分-2023年1月30日0時20分2023年1月31日22時10分




