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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
79/240

クラスター




使われた心は、生み出されたものから自身を蝕むものに変わった。

世界を守る為だと言われたとしても、代わりに自分の世界など存在しないと知る。

常に消えていく感覚を守る術はなく、

代わりに増大する感覚を制御出来ない。







・・・・


「――――なのに感じとることが出来なければ、何も嬉しくないって、そんなこともわかってなかった」




タワーのエレベーターに乗り込みながらキャノは初めて日本に来たときの話をしていた。


「初めてこの町にきたとき、お店でラブソングがかかってたんだ。

可愛い曲調でさ、でも、何秒か聴いてたら──フラッシュバックていうのかな、身体中が変な感じになるの」


頭の中が真っ赤な血の色を見せて、ドロドロって溶け出して分裂して、殴り合うように弾けて──


「たまにニュース映像にある覚醒剤の幻覚ってあんな感じかな」


「……そうなのか?」


曲調に求められる気持ちとはあきらかに解離した、自分の中の景色が、向かってきた。

「うん。それでね、怖くなって店から出ると、隣に居た人がどうしたの?って──可愛い曲じゃない?っていうの。

  感じ取れる感覚があって、初めて本当に文化が共有されるんだなって」




「だな」

キャンディは相槌を打ちながら、ぼーっと彼女を見ている。

二人きり。束の間だけれど、悪くない時間だ。



「文化を感じられる人の枠からはずれて、別のものを感じる人になる、っていうかさ、違う形になってしまった──」

「あぁ」

「私、それまで、その頃、みんなと、何を共有したら良いのか、わからなかった」


 俺たちの歌は、人間のものに比べて情報量が多いのか、とキャンディは改めて考えていた。今、彼女はその違いを把握した上で歌っているのだという。

楽器は学校の授業で習わされたが、歌の事まで詳しくは知らなかった。


「――――だから、嬉しかったよ。自分が歌えること。昨日、一緒に歌ってくれたこと。文化の共有の疎外感とか考えずに──あの頃みたいに思いきり出来て」

「あぁ」

ちら、とキャンディは彼女を見る。彼女はどこか夢見心地に呟いた。


「私は、私のなかの感覚に触れている間だけ、寂しくなくなる。確かにあったんだなって、こんな音だったな、この音はこんな感情だったなってやっとわかるの」



「なぁ」

キャンディは、ようやく重たい口を開いた。

「なに?」

キャノは突然どうしたのかと怪訝そうに彼を見た。


「俺は今朝、先にタワーの方に寄ったんだが、報告が出ている。昨日、テネがあの歌の影響を受けた誰かに接触したらしい。

あのときは、『彼女』を呼べていないと思っていたが、もしかしたら、」


「ねぇ。なんで、あの子が出てくるの? 何かに縛られてる感じだって」


 歌っていれば、目の前に出てくるかもしれない。

キケルとなら、魔物の出現そのものを消せるかもしれない、そう、思ったけれど、彼女に今出来たのは町そのものに反響することだけだった。

 タワーにある人格からでも、目の前に現れてくれないだろうかと、溢れている幻系の魔力をもってすればきっと――――そう思ったのに。

何かに捕らわれていると、そう、町を使って『彼女』は答えた。


「あぁ、俺たちの情報は情魔力計測、緊急時の飽和滴定用にある程度提供されてる。だが民間人は潜在履歴のトレース下に居ない」





キャノは数秒黙った。そして何かを考えて居た。



「……で、その子は?」

「電車の中でしゃがみ込んだまま終点まで動かなくなってたみたいだ。

  なんか『エーン気圧大変だー!』って叫ぶ妨害隊に囲まれてたところを、引き取って来たってさ」

「なにそれ」

「クラスターだよ。たぶんその子の存在が電車内で生み出した」


 クラスターとは、大戦後に何故かよく見られた特定の単語だけを呟く個体の群れの事だ。魔法大戦で使われた魔法が奪った、町全体、あるいは脳の指揮系統と、人間側の意識とが不完全に結びついたものとされている。

 一見チック症のような状態だが、周囲に伝播する等の影響を持っていた。

 急激に増えた群れとなり、不随意に何らかの特定動作を繰り返す。


「なるほど。通常の暴発とは違う、特殊暴走って事ね。でも、『気圧大変だー』って、なんだろ」


「わからない。けれど、こうなりたいとか、これをしたいとかいう意思による暴走ではない。リルやお前のような、強い意識同調系だ」


  キャノにも、段々とキャンディが言いたかったことが呑み込めてきた。

意識が同調するのは、主に広範囲魔法の負荷による付属品のようなものだ。

意思そのものに干渉し、一度接触すれば最後、次々に周囲に伝播する。


 腕を擦ってみる。普段は隠して居るけれど、魔法を使っても、制限されて居る分だけ身体に返って来るというのは今も変わらない。

 彼女は先に診察を受けていたが「そろそろ危ないかもしれない」と医者は言っていた。

  思い出すと、ちょっとだけ憂鬱になる。

(私が元気なうちに、今の問題がどうにか解決すればいいんだけど――――)


かといって、制限装置は世界中に有る為、どうしようも出来ない。

 

  現在主流なのは、電柱やガードレールなどの形のものと、オームラ式・昇降型と呼ばれるものだ。

これは大抵は地中に埋めてある。計測の時などにはリモコン一つで昇降するので最深部まで掘り返す必要が無いのだが、

普段は勿論埋まっているので、オームラ式の挙動を防ぐことも難しいのだった。


「キケル……」

 キケルはまだ制限装置が開発中だった頃、機械に吸い込まれた妹の名だ。

「あなたが、居るの?」


誰かを同調して向かわせたいくらいに、何か、伝えるべきことが――――?


1月25日PM0:24

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