神託
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込神町の人間が通う『込神病院』。
その裏道には、鉄柵に囲まれた空き地がある。
そしてそこにはブラウスとスカート姿の少女が一人。
どこか儚げで独特な雰囲気を持ち、背中までの髪は寝癖で跳ねている。
「ふあー」
少女は猫のように伸びをすると、しゃがみ込み、集まっていた猫を撫でた。
「此処、あったかいね」
早朝はいつも此処に来てこっそり猫に餌をやっている。
だって。
「病室って、暇なんだもん……」
彼女は中学生のときからときどき入院している。
原因不明の気管支の病気を繰り返して居る為なのだが、診断では、ストレスだろうとの事だ。
命に別状はないものの、上手く身体に酸素がいきわたらなくて、日中から眠くなってしまうのだ。
なんでこんなに眠いのかは自分でもわからないけれど、考え事をしているときとかによく唐突にシャットダウンされてしまう。
まるで膨大なデータから身を守っているみたいだった。
「なぁんて」
何だ、膨大なデータって。
ストレス起因とされるのも、考え事をし始めると頭の中が真っ白なもやがかかったようになり、すぐに寝てしまう事等にある。
(みんなと、同じ景色を見て、同じことしてるはずなのにな)
勉強が嫌いなわけじゃなかった。みんなと遊ぶのも。
だけど、身体がついていかなかった。どんなに早く寝ても関係なく睡魔に襲われた。
家族は「怠け病」と笑うし、
先生は呆れて居る。
学校に友達ももういない。
ニャー、と鳴きながら猫が一匹、二匹、三匹。
彼女を取り囲んでいる。
「ちょっと待ってね」
手提げ鞄から出した缶詰を、同じく持ってきた器に入れると、猫たちの真ん中に置く。
ほとんど寝て過ごしている彼女の唯一の友人。
でも、空き地に新しく建物が建ったら、この子たちも移動しないといけない。
「ねぇ、イヴェ、ムジカ、ナーネァ。あなたたちは、どうしたいの?」
猫はじっと、彼女を見上げる。
それから、すぐに餌を食べ始める。
一匹が、ふいに器を持っている彼女の指を噛もうとした。
「駄目だよムジカ。きみが私を食べて私が居なくなったら、誰も、守ってくれないよ?」
『私が使われている以上、私は使われたものによって実際に起きている私への現象を伝えるしかない。それが、私自身に残された唯一の感覚』
──え
誰かが、何かを言った気がする。
慌てて指を避け、目を閉じる。
────やっぱり、声がする。そう感じたとき、彼女は何かを懐かしむように呟いた。
『私の存在は、神の声を聞く為に在る。
それをあなたに伝えることはできる』
「あなたと同一の存在になることは出来ない。私が私であることが、私が神を伝えることだから……どこかに偏ったりしないで、みんなの中心から、見守らなきゃいけない」
ニャー。
足の周りをぐるぐると回り出した猫が、鳴く。
遠くに在る何かを呼ぶように。
2023年1月24日23時59分




