心の眼
早朝。
その日も清々しい程の快晴だった。
朝食を作っていると、いつもより早い呼び出しが回って来た。
前にもこんなことあったな、と思いながら家を出たコトは、タワーのエレベーターに乗り込んでいた。
みんなもう来てるんだろうか。
(案外、怒られるかもな……)
なんだか気が重たい。けれど、悪くない重さだ。
昨夜、コトの指示でジャックオランタンをわざと町中に放った。
当然、上空にある各ドローンや衛星、カメラに感知される。
本来なら不可視化されていて無意識下の潜在履歴にすら残っていない筈のものを、具現化させ、煽るように露出させた。
彼も本心では戦争を望んでいるわけじゃない。
せっかく人間と魔女側の合意の下にある均衡協定を表立って揺るがすな、とでもお叱りを受けるのかもしれない。
(でも――――裏からコソコソと、ああいう手口は、卑怯だ)
偶然を装って町中に魔物を召喚する予定だったなんて、やっぱり喧嘩を売られているじゃないか。
叱られたってかまわなかった。
むしろそれくらいで済むのなら安いものだ。
――――だって、あんなふうに民間も、感知システムも欺いているということは、どのみち侵略する気だったんだ。独断で、協定を無視して。
悪気が無いなんて言うレベルじゃない。
悪気すら隠蔽している。そうでなきゃ偶然を装う必要が無い。
そうやって見逃して貰っているうちに表に出ないように静かに根を張り、対応を遅らせる気だったとしか思えない。
たぶん、システムを熟知して何年も前から同じような手口でやってる相当なやり手なのだろう。
だったら、全部曝してやる。
戦いなんかありませんでした、なんて言い逃れ出来ないように先回りしてやる。
昨日、帰宅する前に『彼女』にもそう言ったところ、
「私も許可した。叱られるんなら私も受けて立つ」と、なんだか嬉しそうだった。
――――何、笑ってるんですか。
――――いやぁ、だって、面白いじゃん。真面目そうなお前が結構、無茶したりして、
――――そうですか? 俺、意外とそういうとこありますよ。
回りくどいとか、卑怯なことされるの嫌いなんで。
――――コトって、本当に面白いな
思い出すとなんとなく口元がにやける。
(それに、いつも無表情なあの男がものすごく怒る姿というのも一度は観てみたいよな……と言うのはさすがに言わない方がいいだろうか)
エレベーターの階層ボタンが地下を示す Bに点滅する。
「来たようだな」
いつもの椅子に座ったまま、『彼』は足を組んで入口を見ていた。
既にこんなふうに待機されているなんて、珍しい。何事なのだろう。
今のところ、叱られそうな気配は見当たらない。
何を考えて居るんだろう。
「あの……」
『彼』の足元には、よく見ると、くまちゃんや、ねこさんや、うさぎさんがならんでいる。
――――ますますわからない。
可愛いぬいぐるみと、それらと一緒に椅子に座る無表情の男。
シュールだ。
今此処にいる人間は、コトとナナカマドだけのようだった。
「他の人は……」
「先に行っている」
「えーと」
「おまえもこれから行ってもらう」
「そ、その、ぬいぐるみさんは」
「今日はこっちの警備を担当してもらっていた」
「……そうですか」
よくわからないが、あまり深入りしなくてもいいだろう。
こっちってなんだ?普段どこの警備をしてるんだ。
「あ」
ぬいぐるみをよく見る。
暖かい波動を感じる。
「……いきてる、のか……」
(2023年1月22日14時55分)




