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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
72/240

ミライ






「先輩とはどう?」

「結構いいかんじだよ」

「良いなぁ」

「ミライちゃんは?」

「マスターはまだ、新曲で悩んでるみたい。こればかりはね」

「あぁ……」

「ハマってるっていうと対物性愛とか好きなんだけど」

「まだグッズ少ないもんね……」

「そうそう! あ、電車来た」

「またねー!」

「うん。また明日」





 元気に手を振ってくれるめぐめぐと別れ、ミライは電車に乗り込んだ。

人の波に流されないよう、立ち位置を確保して、それから窓の向こうでゆっくりと流れていくホームを見送る。


(もうだいぶん暗くなったなぁ。家に帰ったら、夕飯の支度をして、着替えて、宿題をして――――)



どくん、


 鼓動が高鳴った。

急に、何かにわしづかみにされたような、奇妙な感覚。

頭の中に、さっきの歌が響いている。

冷や汗が背筋を伝う。

「え……」


目を開けている筈なのに、目の前が真っ白だ。光が広がる。

なんだこれ、

此処、電車の中だよね?

自分の発したはずの声すら、遠くにあって上手く聞こえない。水の中に居るみたいだ。

ぼやけて、歪んでいる。頭の中で意識が反響する。


――――イ……


誰かの、声がする。


――ミ――ライ……

 

私、何処にいるの? 此処、電車の中、だよね?

 他の人は、何処に行ったの?

(真っ白で、見えないよ……何処に進めばいいの? )

「う、たが……」


怖い。

得体のしれない恐怖。

自分も、誰も、いない。

いや、居るのか。

歌がずっと聞こえている。


ミライ――――ミライ……


「めぐめぐ!」

何故、そう思ったのか自分でもわからない。

なぜかめぐめぐを呼んでいた。

 ふと、気が付けばそこは真っ白ではなく、壁、床が一面のコンクリートに覆われた場所になっている。

噎せ返るような油のにおいと、錆びついた鉄のにおいが充満している。


何? これ、何処なの。なんで、私――――




ミライ――――駄目だよ、そっちに、行っちゃだめ。お兄ちゃんを……

 ……を、止めて……

わたしたちは、  ……なきゃいけない。



誰かの声。正確にはめぐめぐなのかもわからない、無機質な声。

なのになぜか、そう思っていた。


「何処に居るの!」


 油のにおいがきつくて、吐きそうだ。

少しでも気を抜くと意識が遠のく。目を瞑って、何も見ずに、眠ってしまいたい。頭の中に、声が反響する。怖い。


ミライ――――大丈夫、貴方は消えたりしない。

だから、目を開けて。

景色を受け入れて。



「わからない!! 何を言っているの!!!」


――――戦うしか無いの。


そうしないと、本当にみんな、居なくなってしまう。

貴方なら、見つけられる。

だから、景色をちゃんと見て。



「戦うって、どうして!!何と!! 怖いよ。 何処なの、これ……」


心の中に空洞が出来たみたいだ。

 景色に進む程、心が、心を構成する何かが緩解し、溶けていくのが感じられる。溶けた先から少しずつ穴が広がり、その奥から、激しく風が吹き込んでいる。


 「心が……心が、溶けてく……なんでだろう。寒いよ……私、今、すごく、寒い……」




 進む程強くなる風圧によって、歩く度体中が潰れてしまいそうな錯覚に陥る。

 身体の重心がぐらついて、地面を踏みしめるたびに、体中がびりびりと痺れて鈍痛に襲われる。歩いて居るのか、立って居るのかもわからない。

奇妙な感覚だった。

心が溶けて、なくなったら、きっと二度と戻れないだろう。

何に?

わからない。

どこに?

わからない。

なくなったら、どうなるの?



 廃工場のような場所だった。

使われて居ない施設か、あるいは誰かの居住区? 防空壕か。

 曖昧なのは、それだけ煩雑としていたから。

それなのに、破れた布切れとか、タイヤが放置されている。棚にわずかに、乾パンのような欠片が置いてある。


遠くに工場が見える。

高い煙突がある。

 遠くに見える足元の草だけが青々と茂り、生き物が存在する環境であることを示している。なのに、誰も居ない。静まり返っている。それが余計に不気味だ。



心が、寒い。



寒くて、凍えそうだ。


この場所に居ればいる程、心が消えていく。


それとも、心が消費されているのか。






 ふと、歌だけがまだ聞こえていることを思い出す。


「歌――――」

何故なのだろう、どんなに寒くても、歌だけは其処に在った。

何処から聞こえているのか、誰が歌っているのかわからないけれど、

それはまるで、何かを伝えようとしているように、今も聞こえている。

「めぐめぐ……」


うん、


寒くても、なくなっても、私――――


  「ih larne nei sar a leus este」


どんなに独りでも、


戦うから。



「qual ms istnst e ul……」

 





――――戦うしか無いの。


そうしないと、本当にみんな、居なくなってしまう。












光が、溢れる。

また、景色が真っ白になる。




――――解除コード確認。



「心が……溶けてく」



怖い。

もしかして、これは、心……


溶けきっている心では、何も見えない、そういう事か。

全ての情報が溢れて焦点の定まらない膨大な情報すべて。

心の瞳孔が開き切る。

 そのまま、光によって溶けていく。





誰かの声がした。




ミライ。私の声が聞こえますか。

「え」






いつの間にか、声はめぐめぐの物ではなかった。


 ふっ、と意識を戻したときに、其処に在ったのは、何かに襲撃された後の町だった。あちこち砕け、倒壊、したビルや歩道橋。車も渋滞したまま固まっている。

驚いて、叫び声すらも出ない。


「な……に、此処」


なのに、身体が馴染む。大気に合わせて体が以前よりもより楽に呼吸をしてるような感覚。まるでさっきまで悪い夢でも見ていたかのようだ。

というか、さっき何をしていたんだろう。


「みんな大丈夫かな」


―――この先に進みますか?


「うるさい、頭の中に話しかけないで」


 電車から降りて、歩く。

町に人は見当たらない。みんな避難してるのかもしれない。

何があったんだろう。普段賑やかな込神町が、こんなに静まり返ると、なんだかちょっとゲームの中みたいで面白い。と思うのは今の内なんだろう。


考えないようにしていたが、そこらじゅうで、血の匂いがする。

何処かで何か死んでいる。

嫌な感じがある。頭の中で変な声だけ聞こえ続けてるからか、寂しいとは感じなかった。

 傍から見るとぶつぶつ独り言を言う、やばいやつになっている。

――――でも、誰も居ない。だったら、独り言くらい良いか。



「だって、此処、私達の町でしょう? これは、絶対に私の世界だ。だってこんなに身体に馴染むもの。さっきの間に何があったかわからないけど、家に帰る。とにかくどうなってるか確かめないと」


 それに、めぐめぐ。そう思ったとき、一瞬、コンクリートの景色が、

噎せ返るような油のにおいがフラッシュバックした。

「っ……」






――――状況を知りたい?



声が、した。

今度は込神中芯タワーの方から。

「そこに居るの?」

何かの破片の散らばるアスファルトを踏みしめるように、先へと進む。


――――ミライ、こっちにおいで





ふわっと身体が浮く。

気が付くと薄暗い部屋の中に居た。

「うわっ」

暗いけど、モニターが沢山ある。

変な機械が壁中にある。

 入ったことは無いが、たまにテレビ番組で映るから知ってる。

此処は――――




そこには一人、白銀の髪を持つ美しい少女が居た。


――――ミライ。


「貴方は……」


――――私? 

私は……あなたたちが神と呼んだ者のヒトツ、かな。


「……」

真っ赤な眼。

白い肌。

白銀の髪。

まるで、古の魔女だ。

けれど、魔女神も存在する。


にこっ。

微笑む。

長い髪で隠れてはいるが、彼女はほとんど裸で立って居た。





――――込神町は異端を愛する町。異端によって守られ、異端同士が牽制しあう。


「異端……どうして、私を呼んだの? ずっと、頭の中に、歌が……聞こえる。あなたが歌ってる? 歌、聞いてから。コンクリートが見えて……あれは、何? 私を呼んでなにを伝えたいの?」



――――えぇ。

貴方は呼ばれた。


めぐめぐも。

誰かも。



「なんか、わかんないけど、でも、私、神様好きだよ。

ずっと気づいてくれるの、待ってたんだね。

教えて……私に出来ることがあるなら」


 

―――だけど、貴方たちの言語と、私達は圧縮量が異なる。膨大な量の情報に耐えることになる。



 心が、どんどんと溶けそうだ。

穴が開いて、どんどん軽くなって行く。それが不安で仕方が無かった。

景色が広がれば広がるほど、どこか根本にあるはずの感情が失われ続けて居る。




「でも、貴方にこうして会っているの、きっと私だけなんでしょう」



――――……



――――それには、あなたの感覚全てを接続する他ない。視覚も聴覚も触覚も徐々に変質していく。





――――貴方が心の瞳孔と呼んだモノ。


貴方たちの言葉で言うと――――永久アファンタジア状態っていうのかな。

永遠に心像を作る機能が失われる。

情報量が大量に流れ込むのに必要な為。光量を絞る役目を失う。

視力を失うのとは違う、けれど、焦点の定まらない不安定な視界。




いつか、全て、開かれて、

私は、

ヒトの心の感覚を、失う。

真っ白な中で生きることになる。



――――それでも、



「良いわ、私の心、あなたにあげる! 貴方の声だけは聞こえるんでしょう」



手が伸びてくる。向かい合った状態で

両手の、両指が絡み合う。

 頭の中がまたあの感覚に襲われ、膨大な情報が流れ込む。






「chke ul heln ge meuute」


 何故なのか、叫んでいた。

(――――体が、軽い)

ふわっと心の奥に何かがなだれ込む。


「aus este rlia miueauah!」

何語なのか、何故なのか、そんなことも、気にならなかった。

何処かから風が吹いて、自分を包む。

手を頭上に掲げる。




『――――グングニル!』




2023年1月20日15時05分

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