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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
63/240

新たなファンタジー 「お守り」

これでいいのか?

 リル、が腰に手を当てながらそう言ったので、コトは頷いた。

「素晴らしいです」



 コトが提案したのは生き物と食べ物の合間を縫ってジャックオーランタンを生み出すという案だった。

 一応、検体回収が道中騒いで、出所として検挙されぬよう、つまりちゃんと街中に配備されるようには気を配ってある。

「……確かに時期的には、ハロウィンだけど、何の為に空に飛ばす必要があったんだ」

リル、は不思議そうにコトを見ている。

コトは、当然のように宣った。

「目立つ為に決まってるじゃないですか」

「目立つ……」


リルが、何か思案していると、ふと、何処かから聞き覚えのある旋律、歌が聞こえて来た。


「キャノ? キャンディ……?」

そういえば、テネが居ないけれど、どうせどこかほっつき歩いているだけなのだろうと、二人は考えていた。


 とにかく今居る部屋にもう用は無い。音のする方に向かいつつも、あの二人、仲悪く無いんですか、とコトが言うと、リルは同じ方向に歩きながら、そう言うのでもないさ、と笑った。







悲しくも優しい歌と、ゆったりとした情緒を感じる弦の音色。



al me nal ol a

al me na loa


舞台裏を抜けた場所から、『その舞台』へと咄嗟に割り込むことも出来ないまま、聞き入ってしまう。

リル、が思い出したように横で呟いた。


「そういえば昔、お守りって言って、キャノの写真、持ってくの流行ったんだよな」

「はい?」



es ist na lan est ena


almenalolan.

este na la ……


「魔女狩り大戦の時くらい。戦時中真っただ中。理由は忘れちまったけど、キャンディがお守りって身に付けてたからだったか……誰かが、お守りだってー! って広めたんだったかで、意味はわかんないけどとにかく、クラス中の奴と、何故か他校までみんなあいつの写真持ってた」


「……そ、それはすごい」


込神町でも、有名占い師だとか、どっかの知らない人が突如縁起物にされることがあるけど、彼女たちにもそういったブームみたいなのがあったらしい。


「まぁ、キャンディが一度僻地に行って無事生還してるのもあるんだろうけどな」

「おぉ」

「確かに運もあるけど、でも、基本、真面目に鍛錬してるからだと思うよ」

顔に似合わずな、と彼女は愉快そうに言う。 言葉の中に、どことなく親しみが感じられた。

ちなみに、お守りの『彼女』には内緒で行われたらしい。盗撮かよ。


「そうですね」

  確かに、それは、ただふざけてるだけでは成し得ないだろう。

  だから例え、コトが最近彼に対してどう感じていたところで、此処で変に茶化すことも出来なかった。

  そうだ、そういえば、彼、あの事は内緒にしてくれるんだろうか? 

 (いや、それよりも、あのときの事が――――)



「で、キャンディはある日道で『お守り』の事を知らないごろつきに当たって、喧嘩になったときに一度その写真落としたらしく、随分探し回ってたんだが」

「誘拐の話ですか?」

「そうそう。本人に聞いたか。それを拾われた時から算段が組まれてたらしい。銀髪に紅い眼は、古の魔女の姿とも信じられてて――――まぁ、人買いの市では相場より高値で売れるんだとさ」

「昔、ドキュメンタリーで人身売買の話を観たことがあります」 


 単純な労働力の他、特に珍しい血を引く者や、綺麗な容姿をしている者の目玉やらなにやらが長寿の秘薬になるという話を信じる人たちも居るという内容だった。

今でも何処かには残っているという噂がある。

 ちなみに人間でも確か金髪碧眼などはマニアに高値で買われる場合があるとか言っている人が居たな、と思って、いろいろな事で嫌な気分になって来た。


一旦落ち着こう。

「……なるほど」

「キャノは、あいつのせいじゃなく、自分に問題があったと言ってる」

「キャンディさんは巻き込んだと言って居ましたね」





「元々、彼女は保護者から『外は危ないから』過保護にされていたらしい」

「確かにそりゃある意味危ないですね」

「同時にお守りとしてクラスメイトの多くが写真を持ち歩いてたので密かに出回り、戦地でも、街中でもそもそも目に付きやすかったという状況が同時に揃ってしまった」

「宣伝しながら、同じところに居たら目立ちますよね」


「だから、クラスメイトの認識と、危ない大人の認識とがそもそもずれていて、其処に媒介となったあいつだけのせいでも無いんだが――――

  居座るのが一番危険なのに、本人はお守りのことも知らされていないのに探されるようになるし、その上中々、理解を得られず家を出れなかったらしいから。実家出て今は楽しそうにしてるな」

「だからあんな楽しそうなんだ」



 なんとなく、焼肉屋の上で楽しそうに歌っていた彼女を思い出した。

あの朝からやたらと高いテンションは何処から来るのかと思っていたけれど、単に性格なだけでなく、表に出るなとも言われない、行くなとも言われないことが、嬉しくてたまらないのだ。

そう思うと、なんだか今までよりも親しみを覚えた。


 いくら表面的に止められたところで家は知られているし写真が出回っているのでいつ襲撃されるかわからない。

単なる暴力の問題じゃない、一度出回った情報であり、『その情報が、だれしも身につけて居るお守りになっている為』簡単に無くならないという問題。

写真を返そうともしないだろうしな……






「あいつも、それで──いっそ影響力を利用することに切り替えたんだろうか」


 確かに、今では自ら目立っているけれど、家に居ても目立って居て危険に晒されているのなら、人前だろうとそう変わらないと思ったのかもしれない。

 せめて自分に何か起きたときにも、皆が知っていてくれる。

それが彼女に残された道だった。


自分を閉じ込める世界から逃げることも、

危険そのものに対峙することも、

どちらも、自分が始めなくてはならない。


コトは考えてみる。

 同じ立場だとして、じっとしていれば安全だと、自分なら思っていただろうか?

常に『アレ』を纏った皆を見てた、俺が。

 目を瞑っていたかったのは本当だ。

 だけど、平和のふりを続ける意義を、茶番に付き合い続けることを自ら捨ててしまった。

そんな『悟り』は悲しいじゃないか。



だから。

何を気取って生きる気なのかとある日自らを突き放し、嘲笑した。


──この異常が、歪んだ自意識や厨二病とかなら、卒業したかった。大人になれると思ったんだ。アレが見えるのも、全部捨ててさ、


俺は大人になりたかったんだろう。

──ただ、現実が欲しかったのに。夢は現実のつづきなんだ。これは現実で、とっくに持っていた。

周りがわからないできないと否定し続けるものが、俺が探す真実だなんて、そんなこと、



じゃあ、俺が、欲しかったのは……

 考えに浸りそうになって、ふと、彼女の横顔を見る。何故か、彼女まで思い詰めた顔をしている。

「どうしたんですか」

「……いや……」

別に、となんだか寂しそうな目をしたまま、彼女は舞台を眺めていた。もしかすると、彼女にも、そのような経験があるのか?と考えたコトは下手に突っ込めずに黙っていた。

「ん……?」


ふと、歌が、変わったのに気が付く。

 曲が、ではなく、キャノの歌と、もう一人。途中から、別のパートが混ざり始めた。

町が、揺れる。







──揺すれ、揺すれ、総てを揺すれ、


──万物凡てが私の財産。

金以外など在りやしない。あの方以外は在りやしない。

暴言、暴力、何でも売れる。あの方以外は在りやしない。

それより他は金の種。

揺すれ、揺すれ、総てを揺すれ。果たして心は必要か? 









 頭が痛い。違う言葉で歌われているはずな

のに、自国の言語が頭に流れ込む。

深く考えると、底の無い闇に心が飲み込まれそうな気がした。

っていうか、なんだこの歌……

なぜ、街が歌っている。










──生れたときから金の種。

あの方にしか心は無い。それでもお前は、それを問う。



痛み、嘆きの総てが商品。あの方以外は在りやしない。

失うところで死にやしない。


「────わ、からな……い」






 金の種に問い掛ける。これらは中身の無い人形。

親しいも、親しくないも在りやしない。

 己を滑稽だと思わぬか。

心というものが在りながら、お前は商品に無いもので説くのだから。

お笑いだ。自分の内で独り言を喋って苦悶しているだけ。









「──ですから、優しさなど無いのです。冷たさも無いのです」



 歌劇か何かだろうか……昔──昔って。

いつだ?

 でも、読んだ気がする。読んだって、何処でだ。

わからない。なんだ、この記憶……

とても、懐かしい、と思うのに。

歌に混ざり、同時に、出どころのわからないフラッシュバックが起きている。こわい。こわいのに。離れられない。

あの時みたいだ。

観た、って何を――――

あのとき?




 何か異様な力を感じていた。

怖い。逆らえないと直感する圧倒的な恐怖。

格の違いを、全身に感じるあの感覚。


『ああ、リル。失ってしまったものは、直らないの。ジエリアはあなたに教えなかった?』

『わかんないよ。私、誰より強い魔女になる。そしたら、絶対お婆ちゃんだって──』

『リル、やめなさい──!』

『私の名前は、リルじゃないよ。私の、名前は────』



(え……)






深い、深い森。


森と対話し始める少女。


森は『全てが金の種であり、此処に在るものは売られていく』




 だからあの方以外が心を持つことは無いし、それらを理解する言葉も持ち合わせないと告げる。



──森はとても怖いところ。だけど、怖さは人間の持ち物。

本当は怖さも在りやしない。怖いも、怖くないも、金の種。






 誰だって心を持っているはずだ、私は貴女を愛している。だって心を感じる。話せば解りあえるという少女。



誰だって、なんて思うのはお前が此処の者ではないからだ、という誰か。














愛しているも、愛していないもない。

例えば森で迷うとか、そんな不運も金の種。

道で出会った暴言、暴力、あの権化。


道中の暴漢も、お前の存在も金の種。


話し合う等無く、あのお方がいくらで買うかだけ。

先立って、値段をつけられ売られる物に、

どういうものかを聞いたって、先約済みだよ。だから、話も無く、心も無い。あったとしてもすでに売られているのさ。


先約された商品だから、何か思ったって持っていない。お前の言葉がわからない。


言葉にしようとしたら。お前たちが持ち去ってしまう。



自分の存在が商品。

心を問われても、わからない。だってみんなの売り物だから。

自分で持つ暇もない。なのに愛を説く。

赦せない。赦せない。愛しているものを返さずに、

自分たちは望みを叶えようという。


──売り物にしている側が、売り物の気持ちを訪ねるな。



お前の無知、なんて嘆かわしい。なんて傲慢。








 それは、まるで、誰かを見ているようだ。

あるいは、売り物として生きる彼女たちのことでもあるようだ。

『心』で話し合うのは、実はとても難しい。それを他者に商品にされていないという前提が必要だ。




 遠くに見えているタワーが微かに光っていた。

街が揺れる。

「街が────」

同時に、波形を表すかのように、いくつかのビルの高低差がなだらかに変化し始めた。

リル、も目を丸くしている。

音が反響する。

街が歌い、少女の歌に混ざる。


そのお話の中で、少女は言う。





――――どこに居ても、貴方の噂。感謝しているとばかり、思っていた!






 やがて、ガタガタと鈍い音を立てながらビル群は固定され、移動を停止した。


2022年12月21日4時31分─12/28AM5:17












さぁ。


――――次の《影響力を拡散する》インフルが始まる前に、次のファンタジーを始めてしまいましょう!

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