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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
62/240

舞台裏





「まったく、キャンディさん、前に出過ぎですよ。お陰で完璧な陣形が崩れる」


 舞台裏、彼が居なくなった後、コトがぼやくとリルは、おかしくてたまらないというように吹き出して笑った。

「アイスみたいなこと言うんだな」

「あの人なんなんですか!? バカだしデリカシー無いし、空気読まないし」


 棚があり、姿見があり、大型のクローゼットが並ぶだけの薄暗くて寂しい部屋。

さっきまで、ここにカボチャのオバケ頭領、巨大カボチャが居たのだが、今は、会話のできる人物はこの場に二人だけだった。


 何かの舞台があったのか、あるいはこれからあるのか、床に脱ぎ捨てられたドレスがあるくらいで今は、ほぼ閑散としている。

それに何より────


「でも──あいつとキャノと、アイスと……、だけだった」

リルはため息を吐きながらも、苦笑した。

「え?」

「あいつらだけだったんだ。私が誰を好きで居ても、──足が三本になっても、笑ったり妄想のし過ぎだとか痛い目で見ないで、話をしてくれたの」


足が三本……付き合っていたという恋人の話だろうか。やや寂しそうな横顔に、内心どぎまぎする。

 あいつらだけだった、という言葉は、他の人たちからは痛い目、冷たい目で見られていたということを指しているように思える。



「あっ、これ、二人には内緒な」

「はい。わかりました」

……今思うと、聞いても良かったのか?

自分は他言しないと判断したのかなと、コトはなんとなく嬉しくなる。


 笑われていた、なんて話は彼女たちはしていなかった。

ただ当然のように、昔の恋人だったと話していただけだ。

 旧知の仲に存在する、絆のようなものを感じた。



「それは、いいんですけど、これ、どうしますか?」

 この場所確かに、閑散とはしているのだが――――

今はオバケカボチャが居なくなった代わりに、本物の南瓜が置いてある。

キャンディが、検体回収が嗅ぎつけるのも面倒だし、と倒した後で本物の南瓜に変換した。 


シンデレラの小道具にでも使えそうだけど、とても一日で食べきれない。

「南瓜を更に変換すればいいと思うぞ。一日で食えそうなものに」

リル、はきょとんとしながら答える。

「このサイズを!?」

「無限に南瓜が出てくる前に、そして検体回収が来る前に、さぁ、決めるんだ

!」

「楽しんでますね!?」

「時間が無いぞ! 30秒くらいでどうぞ!」


 え。えーっと……


 効力が切れるまでの間、南瓜の代わりに町中に無限に呼び出されるとしたら何が良いだろう。

「肉とか?」

「異臭が」

「野菜とか?」

「街中に忽然と野菜が!? 食べ物以外は駄目ですかね」

「あっ、料理ならたぶんできるぞ! 南瓜パイとかどう」

「街中に!?どろどろんなりますよ」





「わかりました、それなら――――」




12/1817:32


























◆◆



「最近お母さんも変なんだよね」


 駅。ホームでいつもの電車を待ちながらミライちゃんが言うと、めぐめぐもすぐさま賛同の声を上げた。



「うちもうちも! 携帯とか電源入れたら、まるで見ているみたいに話しかけてくるの」

「やっぱり!? なんか見張ってるみたいに予定とか合わせるよね!?」

「そうそう! 夕飯とかさ」

「うち、南瓜の煮物かな」

「うちも南瓜」


めぐめぐが、キリッと真剣に目を輝かせた。

「悩むのも大事だけど、まずは、作戦の要である【この愚痴への対策】について協議しましょう」

「それがあったぁ!!」



愚痴への対策。

愚痴の解消ではない。

愚痴そのものに対策が必要!!

それが、当同盟の現在の活動の中でも最たる問題点であった。



妹の行動トレースの深刻化。






「では――――妹のアイデンティティと尊厳を守るための妹協議会。


今回の『保護者父母及び兄弟及び親戚等によって行われる』妹の行動トレース予測について、まずは想定される現象について意見を出しておきましょう」



「こうやって、お母さんに見られてるみたいだねって話ししてたら。家に帰るとお母さんに電話掛かってきます」

「そして『まるで見られてるみたい』って言いだす」



うんうん、と頷くミライちゃん。

「直後に捜査でも入るんだろうか? 愚痴の内容までそろえてくることから、問題点すらも重ね合わせて置く事にメリットがあるものだと思います」


「やはり、盗聴! 盗聴でしょう! 張り込み役のお偉いさんに送る為の演技と思います」



「しかし妹会での報告が出た直後の実行ということは、我々もどこかで見られているということですね」



「それはこの際、致し方ありません。エキストラを何人も狩って居てはきりがない、対策を練りつつ、我々の実行力を上げていくしかないでしょう」



「しかし『劇場型』ですか。被害者役と加害者役を組み合わせ集団で詐欺を行う形式ですね。

私もお兄ちゃんに見られてるみたいだ、ってこうやって話してたら、家帰ったらお兄ちゃんが『社長から電話だなぁ、いつも、見られてるみたいに掛かってくるんだよなーおっかしいなぁー』ってわざとらしく愚痴と同じ行動を始めました!」


「しかし、我々の前で、わざとやる必要は無いのでは?」

「それは、我々が居る時間帯に、『妹以外に起きた事』という印象を付ける為なのではないでしょうか」












「なんか合いすぎて怖いね」


「ねー。てか、なんか、誰かに操られてるみたいにも見えるんだよ。

あの人自分のメルアド忘れたとか言って来たし、やばくない!?」

「えー!?自分のを? やばいね……あ、あとさ、荷物を」


「荷物って、『兄集会が盛り上がるタイミングに合わせて』大量に食品買って栃木とか神奈川とか福岡とかに送ってるやつ!?」

「そう! それ!!あれなに!?なんであんなことしてるんだろうね。誰が居るのかとか、聞いても『誰でも良いじゃない!』ってやけにコソコソしてるのとかもう!」

「『箱買いしてたコーヒーが駄目になったのよぉ。次どうしよ』しか言わんし。滅裂って感じ」

「箱買いしてたんだ」

「箱って言えば、西海とか、宇都宮とかそういう箱多くない!? スーパーで貰うやつ。あれ意味あるのかな」

「わかるかも! この前はスポーツドリンク2000だった」


 この時間、人もまばらなホームでは、二人の声が静かに響いた。

もう数十分したら、会社員などで溢れかえるだろうけれど。



 薄暗さが増していく夜の始まりの時間。

会話でもしていないと、なんだか不安な気分に押しつぶされてしまいそうで、  二人とも必死に明るく話していた。

 これから、家族と兄たちの待つ家に向かうことになる。

 孤独な時間の始まり。





 そう思うと、なんだか胸が苦しくて、此処から動きたくないとすら思いそうになる。 

 ホームから飛び出せば、天国に行けるのだろうか。

 兄にしか立場も権力も無いと言われているような息が詰まるあの家。

 今だって、わけのわからない工作をしては、私を見張り続けている。

 (家庭内ですら、今は私を否定して、兄に継ぎ込むように誘導しようとしているかのようだ)




 それよりずっと――――


ミライちゃんは、ちらりとめぐめぐを見る。

めぐめぐもなんだか悲しそうに俯いて居た。


 遠くの方から、電車が来る。






 そのときだった。周囲の人が、なにやら上を見上げているのに気が付いた。

また、鳥でも居たのかと頭上を見る。

淡い橙色の光が、あちこちで宙に浮いて居た。


「ランタンだ……」

ミライちゃんが、目を丸くする。

めぐめぐがくすりと笑う。


「ランタンだねぇ」


くり抜かれた南瓜が淡く光って、大量に空を飛んでいる。

どういうことなんだろう。意味がわからない。

だけど、なんだか笑えた。


「もうすぐハロウィンだもんね」

「あははは」



それらが夜に溶けて飛んで行くのと同時に、どこかから音が聞こえた。

 弦楽器のようなものと、女の人の静かで悲しそうな歌声。

不思議と、心がとらわれる。


 スピーカーから微かに、他の音を掻き消さない程度に混ざって流れてくる。




ハロウィンフェアの宣伝みたいなものだろうか。




「きれいだね」

めぐめぐが、空を指さして呟く。

ミライちゃんも頷いた。


「うん」




2022年12月18日20時00分


















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