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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
59/240

カボチャのオバケ(了) 絶対兄機構




――――鳥が大量に表れ、空を埋め尽くしている。

みんな振り返って、あるいは立ち止まってそれを眺めていた。











『どこかに集めているのか?』

民家の屋根にひょいっと飛び乗りながら、フェネックは不思議そうに辺りを見渡した。

 テネもそっちを見てみる。

 その間も周囲のあちこちの民家から、微小な魔力の気配と、幻の気配があるが、それらはみんなどこかに向かって集まっているようだった。




  表通りの中央広場では、そのときちょうどパリュス党のバックアップを資金源としていると噂される『絶対兄機構』が、演説を行っていた。

あらゆる兄が神聖視され、あらゆる兄こそが全ての上を行く至上の存在とする為に存在する機構だ。これが意外と歴史が古く、この町がまだ出来たばかりの頃から存在する。


 なんでそんな変な団体が込神町にあるのかというと、此処で語ると長くなってしまうのだが、【ある闘争】が激化していた頃、時を同じくして大企業の後継者問題があった、その際、兄と弟どちらに付かせるかで暴動に発展し、兄は暴力の支配を、弟は民主的な政治を望んだが、決着が付かずついには政府が介入、という説もあれば、

 ある財閥の兄妹が居て、妹の方に才能があったことを妬み某国の援助を得ながら暗殺した。

その後兄の絶対性を主張すべく出来たという説も存在する。


 とにかく、これもその一部であり、長年存在しては、そこかしこで兄の正当性を訴え続けているのだった。訴え続けなきゃならないのかな。


「兄こそ正義! 兄こそが後見人!」

マイクを握ったがたいのいい男が舞台から声を張り上げる。兄貴!と書かれたシャツを着ていた。

50人とかくらい集まっている民衆が、そうだそうだと舞台の下から同意を示している。





「変な文化だなぁ……」

 テネは関わらないように距離を取りながらも通りかかった広場全体を眺める。

込神町の独特なルールは別に今に始まったことでもないけれど。

そういえばキャンディが怯えられて飴を貰った話を思い出すと、笑えてくる。

空気は読めない部分もあるけれど、『ああいうところ』が面白いのでよくつるんでいた。


『しょうがナイ。妹弟が追い出されて、殺される事件だって、メズラシクナカッタ……あの手の兄っていうのは、実質支配者か、その傀儡なことが多いからナ』

肩に乗っていたフェネックが、うんうん、と頷いて呟いた。

「お前、物知りだね。姉さんみたいだ」

テネとリルは親族側の血が繋がって居るというだけで、歳は離れているし、生活圏も違っている。いとこだから、姉さんと言っても姉弟ではない。敬称である。


「そうだ、これ食べる?」

テネはふと、服のポケットから小さな瓶を出した。

『?』

「何か前にケーキ屋さんでケーキ買ったら、サービスで無料だからって貰ったんだ。君の氷菓子。ファンタジー感、あるだろ?」

フェネックは不思議そうに首を傾げたまま、それを凝視して固まった。

『コオリ……ガシ……ファンタジー……』






  テネと一匹はそのまま広場を石造りのフェンス越しに眺めて居たのだが、そのときちょうど異変が起きた。


「兄こそが……ひいっ!」

 舞台の人物が慌てて頭上を見上げる。蝙蝠のような羽根で空を飛ぶ南瓜が居る。

舞台のすぐ裏からも悲鳴が上がった。

南瓜だああー--------------------!!!!!!!!!!

「カボチャ!!?」


空を見る。改めて、

地面を見る。

「南瓜だぁ……」

どうやら、何処かの地面や上空に出現してくる南瓜に集まってきているのがあの大量の鳥だったらしい。

――――と気が付いたのは、やがて舞台近辺のそこかしこに、南瓜が沸くようになってからだった。

「絶対兄機構の皆ぁ!!! 南瓜の化け物が出たぜぇ!!!!」とか、マイクを通して呼びかけてくれればいいのだが……

肝心なときに限って、兄貴、の口から出たのは「誰か居ないのか!!!!!!!!!!!!」だった。

南瓜の怪物があちこちから、どうやらこの場所に転送されてきているようである。


「南瓜の、魔物、だね」

『ソウダナ』

日頃から魔物と戦わされている彼らあるいは魔物にとっては、怖いとかそうじゃないとかの次元ではない。

レベルで言えばめちゃくちゃ弱くも無いが、そんなに強くもなかった。




ただ《兄貴》たちには異形はおぞましく、気持ちの悪いものでしかないらしい。



――――うわああああああああああああん!!!こわいよぉぉお!!!!


――――ど、どうやって戦うんだ!?


――――カボチャって空を飛ぶんだっけ?


――――こんなことで挫けて居たら、絶対兄の名が廃る!!


――――でも、俺たちに翼は無い!!!!


――――カボチャ苦手なんだよぉ!!!食いたくねぇよぉ!!!






 テネたちは集団のいい大人たちの阿鼻叫喚をぼんやり聞いていたが、そこで、ハッと気が付いた。


「まさか、姉さん……」

「お、やってるー」

楽しそうに、リル、がテネの背後から現れた。

「へぇ。まさか、絶対兄機構がスポンサーだったとはね」

キャノが広場を眺めながらその横から現れた。

「記述を纏めたって事……ですよね、何かの」

テネが、阿鼻叫喚を聞き流しながら、改めて聞いてみる。

魔法にも範囲指定や、記述によって場所などの指定があり、それらを以て指示に従わせる力が働く。別に無くても良いのだが。

でも、どのように、どの範囲を指定すれば此処にだけ南瓜を集めることになるのだろう。


「大雑把に言えば、そうなるな」

リルは愉快そうに絶対兄機構のメンバーの阿鼻叫喚を眺めている。笑っているようだった。

「別に難しい話じゃない。ハリー・ヨウの出る番組を見ていて、夕飯を決めたもの、を指定する。あるいは」

キャノが間から答えた。

「《同一結界内》で幻影属性を用いて南瓜に触れた者の一定の魔力値を全て、術者の元に還るように送る。持ち主がわからなかったからね」





「な、なるほど」

 それは町一体を操れる、あるいはそれ以上の魔力が継続的に続かなければ使えない力技だった。

町全体に確実に効力が行き届くというのがそもそも一般人や一般的な魔法使いには不可能だからである。

――――彼女たちだからこそ、というわけか。


「で、そろそろ行くか?」


声を掛けられて振り向くと、キャンディとコトが立って居た。

いつの間にか、兄貴たちはどこかに居なくなっている。さっきの騒動で撤収したようだ。

「うわぁ……群衆恐怖で発狂しそうです」

コトが嫌そうなコメントをする。


「なんだよ~南瓜、そんなに嫌いか?」

「いや、こんなに魔物が居るもんなんだなと……日常でほとんど見ないはずなのに、信じられない」


コトが唖然としているのに、キャンディもテネも驚いていた。

「結構いるけどな」

「そうそう、魔物、わりとそこかしこに歩いてるよ。いつも僕らが狩ってるから見る機会無いのかもね」

「そういう、もんですか……うーん……」


なんだか腑に落ちない様子だが、テネたちがいつも魔物を見かけているのは事実である。

 辺りを見渡し、キャンディが指を鳴らす。

南瓜の何割かがニンジンに変わった。

「これならどうだ」

「何が!?」

しかし、すぐに南瓜に戻ってしまう。

「あぁ……」

「南瓜を指定してるんだから、ニンジンは別枠で頼む」

 リルが真顔で答えると、キャンディは、あ、そっか……と小さく納得した。

ニンジンにしてしまっては南瓜に対しての効力が変わって、各家庭に召喚されなおしてしまうのだ。勿論そんなことは無かったけど。

ちょうど、コトの電話が鳴った。


「はい」

上着のポケットから端末をだして応答する。着信はやはりあの男からだった。


《 要件はわかるな 》


ちょっと怒っている低い声。何に対してなのかはそこから読み取れなかったが、何か怒っているらしい。

「はい」



《 検体回収が来る前に片付けておけ 》



「は、はい」


 検体回収!?

と思ったが、そういえば、いつぞやにそんな言葉を耳にした気がする。魔物が逃げ出したとかじゃなかったか。

いや、そもそも、どうして、誰かが、魔物を回収して――――

 ハッと、前方を見た時、みんなそれぞれが舞台の方に向かっていた。南瓜と戦っているらしい。

ただ、コトには『今、この場』を見ていても、まだひとつ解消されて居ない点が気になっていた。


「コトは、どうする?」

フェンスの向こうを眺めたままでいると、キャンディが戻って来て聞く。


「でも、それだと……」


「此処の南瓜、切り刻んだら、対象物の効力が書き換わる! それからだとこいつら好きにしていいってさ!」


「!!」


 あのクリニックで見た、緑色の『人だったもの』を思い出す。

キャンディは恐らく、あれのような変換を扱える。






「俺も、行きます」




 進んでいくコトの頭上で、一斉に鳥が羽ばたいた。



2022年12月4日18時54分

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