※ 【放送依頼】アイスと作られた存在
―──魔族たちは人間を惹き付ける特異なフェロモンを持っている。その作用で操られているのではないか? とあのアイドルの娘を見ていると思うんだが、近辺の粒子を測定していた限りに置いては、どうやらそれ由来ではないことも起きている可能性が出てきた。
密閉環境での粒子を観察していたが、指示言語以外、生命活動域においても微量に熱を放出していた。
――――お前のいうことは相変わらず漠然としている。体質? なんだ、それは、指示言語が間違って契約と結びつくという話ではなかったのか
――――焦るな。だから、今研究しているのだろうが。そんなものはない、という態度を取り続ける上にも内密でな。
体質と言ったのはそう……今、こう、いろいろ難しい理論を飛ばしているが、簡単に言えばエネルギー耐性の話なのさ。通常の人間を、制限装置に繋ぐとする。
それは過去の製造実験の事故からもわかるようにすぐに停止するのだが、
ごく稀に、通常よりも遅い速度でリミッターを停止させる人間が、居たことがわかっている。それで、私は何度も設計の計算をしなおしたのだが、どうやっても数字にはまらない存在があったのだ」
――――皮下待機魔力のエネルギー循環、それが保護膜となって、制限装置に影響を与えたと?
――――そうかもしれない。私は、そう思っているんだ
◇◇◇◇
「あなたの夢、あなたの希望、それはあなたのものだから。あなたを――守りたかった。彼女の言葉は真実です。そこに悪意はありませんでした」
ぽつり、ぽつりと、景色を眺めたまま、無為にひとりごちる。
「それでも、時間は残酷で、待っていてくれない……」
――――ある時間。
タワーがよく見える高層ビルの一室では開けた大きなガラスの壁の向こうに、今日も青空が映っている。
本棚にある古い資料を纏め、今後の展開を考えつつ、アイスは今、来客を待っていた。
下手に何か始めると集中しすぎて来客もそっちのけになるし、約束通りならもうそろそろ着くはず。
「まったく、彗星のように現れて、全てを攫って行こうとするようだ」
鳥が鳴く。雲が流れていく。
最近増えて来た制御装置が、また飛んでいるのが見える。
あれらを一日中見かけることになる生活とあっては、やはり休日でも構わず、現実について考えざるを得ない。
(私も、青い空に混ざって、溶けていけたら、それこそ、アイス《氷》のように美しいのですけれど)
「こんにちはー! 河内です」
インタフォンが鳴る。河内がチャイムを鳴らした。
「あー、はい、どうぞどうぞ」
アイスが言いながら、玄関まで歩いていき、ドアを開ける。最近此処に雇った『監視員』の黒服の一人である。
結果をすぐに知りたいので余計な挨拶は不要と言って置いた為か、さっそく単刀直入に報告をされた。
「最近の『あちら側』のテレビ放映作戦などによって、『対象』への1~2等親との接触と、同じ効果が表れてしまっているようです」
違法な《本の持ち出し》で魔力の暴走、魔物の出現数が増えているらしいという報告は、日に日に増えていたが、此処に来てついに放送も加わった。
差し出された端末には、タワーを経由した衛星カメラの映像が数枚ピックアップされて映っている。
それから、各家庭の魔力数値の変移をあらわした個別のグラフもあった。放送日と、彼の周りで起きている些細な暴走の日付が重なる。
「やはり、そうでしたか……魔力が高いとその言語の呼び出しだけでも、親族に影響を及ぼすというのは」
笑うべき場面では無かったが、なぜだか口元がにやけた。
(誰かさんにそっくりだな)
「どうか、なされましたか?」
「いえ。このぶんだと、あれらの放送依頼も、委員会の仕事になりそうだと思って」
「はあ……」
「彼らはいくら規制しても、いくら表に出るのを制限しても関わって来て、ついにはプライベートにまで押しかけますからねぇ。
『単なる規制ならまだしも、自分たちは禁じておいたそれを裏から横流して利益を得たい』というのだから。横暴が過ぎますよ。駄々っ子にも困ったものです」
駄目なら駄目で皆辞めるべきだし、良いなら良いで良いわけなのだが、それすら守らないのだから、ああ言えばこう言うの体現には不満に思っている。
(放送依頼を以て暴力装置と化している現状は、経過観察としてはしばらく眺めて居たかったのですが、それだけでは危ないのでしょうか……)
アイスは最近、ある理由があって【作られた存在】について調べを進めていた。
本来は、街頭でよくパリュス党が言うような、「奇跡を持って生まれた私たち」等のキラキラしたイメージでもないし、クローン技術のことでもない。
魔法が発展し、人間たちにも広まり出した頃に生体実験の為に、あるいは、魔除けの為に意図的に作った特定保険用人間。
《身代わり》の子どもの意味がある。魔法は言葉を縛るまじないのため、その言葉を表す子どもを意図して産むことで、悪意を《人権を盾にして》ひっ被せたというわけだ。
いくつかの当時、誘拐や人体実験などを行っていた【新興宗教】の中では特に、子どもを量産する為に宗教間内でのそういった行為が為されていた。
摘発されたものもあれば、それを逃れたものもあるだろう。
生れた子どもはただの風よけ、あるいは存在していながらに親に縛られ、存在を隠蔽されたり、実験に回されている。
以前あるカルト宗教が解散した際、摘発により、非人道的な行為として挙げられ、当時は有名になったもののひとつだ。
「通常、犯罪者などは身元が特定されれば、呪いに利用される。しかしその効果を、何割か血を分けて生んだ子どもに向けて薄めさせる。古来から行われた姑息な逃げ道です。まぁ、一時的ですし誕生日や血液型も揃えば使えないんですけど」
振り返った先のテーブルにある、パリュス党のチラシを見る。
「奇跡を持って作られ、生まれた私たち」という内容が表面にあり、裏面には魔女狩り、誘き出し活動について書かれている。
最近はすずめのキャラクターなどで、親しみやすさを出そうとしているところがあり、皮肉にも逆にそれらが喋る哲学がよりおぞましくもあった。
「椅子、いりますかね?」
玄関に立ちっぱなしなので、椅子を薦めてみる。河内は、首を横に振った。
「いりませんよ」
「そうですか」
淡泊な奴だ。
それはそうと、と、アイスは改めて、思いだした。
観察させていた『対象』が、少しずつ覚醒を始めているという事。
どうやら待機魔力のときからの《期待》が確信になりつつあるらしい。
作られた存在。
《彼》は、どの意味だろう。
パリュス党も、私たちは作られた存在、なんて、そんな忌々しい言葉を無理に前向きに捉えて描かなくともと思ったのだが、
特定の保険――――どうやら、それのマイナスなイメージを意図的に誤魔化しているようだ。
「とすると、あそこも、黒なんですかね」
「でしょうね……子どもを《製造》している。摘発されていない団体が残っていた、ということなのでしょうか」
――――あるいは、わざわざ禁忌に手を染めたか。
「tita事件もあったし、しばらくの間、表向き、魔法を隠された社会を継続させたかったのですけれど、放送依頼とあっては……隠し通すのも難しい、か」
「あっちには狸が居ます」
「私、狸って嫌いなんですよ……ある住職に嫌われて居まして、何かと狸差し向けてくるんです」
「はぁ」
陰陽師とかまで差し向けて来たら余計面倒だけれど、あれは東京のときに一度頓挫している。
「とにかく、少しの間は、あちら側の放送依頼と執筆依頼が立てこみそうですね」
「独自性の確保が最優先されているのに。誰も、頼んで無いんですけどねぇ」
あなたの夢は、あなたの夢。他の誰にも触れられないし、あなただけのもの
その心だけが、真実だと――――
告げられる時間はまだ、残っているでしょうか……




