夕飯
コトたちが帰宅した頃、少女たちも一旦、帰路に着くことにした。
テネのことは、そのうち見つかるだろうと皆判断した為、然程心配していない。
二人で歩く道中、夕飯の話になった。
ホテルの部屋ではさすがに料理が出来ないので、内設されたレストランか、人を呼ぶか、弁当……あるいはどこかの店で食べるのだが、いつもそれだけでは飽きが来てしまうのだ。最近外食ばかりだなとリルが溢したことで、料理をするのはどうかという話になる。
良い場所は無いかと言うと、キャノは『いつも調薬の為に借りている』すぐ近くの『貸し部屋』を案内してくれた。
本当に歩いて、さほどかからない2、30分圏内の場所である。
「薬を作っているのは知っていたが、キッチンを借りていたとは……」
「タワーの地下だと思った? 残念! 換気設備とかが心配だから、あそこではやらないよ」
キャノはなんだかウキウキした様子で答える。料理番組などの練習かなんかもしていたらしい。
あまり興味がなく、詳細は聞かなかった。
部屋は広かった。内装も同じ色味の棚、冷蔵庫、そして淡い藍色の飾りタイルと、映えるような観葉植物で統一されて、現代的というかお洒落な感じ……。
「最近ほとんど使ってなかったけど、掃除だけは頻繁にしてるんだ~」
とのことで、中もそれなりに綺麗である。
おたまや泡立て器などの調理器具一式はキャノが買ってきたものらしいが、それも無駄に充実している。
備え付けにはクッキングヒーターと、ガスコンロがそれぞれ存在していた。オーブンや、トースターの他に一般家庭にはあまり無い巨大な竈まであった。
到着時刻と、調理時刻を合わせても──
「まだ時間があるな……」
と、壁にかかった時計を見上げて呟く。
リルは鍋の前に立つと、先ほどから煮込んでいた鍋の中に唐辛子の瓶を振った。
直訳すると『赤い飯』を作っていた。 赤飯ではなく、家庭で一般的なあのトマト料理である。時間をかけて作られるが、今回はやや時短。
トマトを鶏肉と一緒に出汁やスパイスで煮込み、山芋(のような芋。今回は山芋)をすりおろして入れる。それに唐辛子を入れたりして煮込んだもので、各家庭により味が違っている。とろみと酸味のあるスパイスの効いたスープだ。
──今回、これを『ご飯に』乗せるのに、和風出汁を使用した。
「ここ、久しぶりに来たけど、やっぱいいね、生活感があって、落ち着く」
キャノはダイニングのテーブルに座って嬉しそうに頬杖を付いて彼女の様子を眺めていた。
「此処、タバスコとか無いのか?」
「あー、タバスコは、喉に障るから……」
「ふうん、まぁ、いいけど。じゃあ、出来た、っと」
テーブルにご飯と、サラダの乗った皿、パンの乗った皿を並べて居たので、
ご飯にだけ出来た汁をかける。
カレーのような扱いだが、カレーとは違う味なのでカレーライス好きは注意だ。
「この町、みんなお米食べてるの、凄いよね」
スプーンで頬張りながら、キャノはよくわからない感想を零す。
「お前人里に住んでたんだろ」
「そうなんだけどさ! でも、なんかご飯って特別な感じしない? 慣れてくるとずっとご飯食べちゃう」
リルは鍋を戻して、席に付きながら壁に掛けられた時計を見る。
(まだ時間があるな……食べて片付けるくらいの時間が)
「確かに腹持ちがいいよな」
自分が作っただけあって、とても美味しい。
リルが食事をするよこで、ふいにキャノが立ち上がり、静かにリモコンを棚の方に伸ばした。
上に置かれているテレビが点き、ドラマが映っていた。
――――あら、良いじゃない。誰を好きになっても。
……私の好きな人、物だから。
――――物!? いつからなの!? いつから好きだったの!?
道端で恥ずかしそうに親友に打ち明ける主人公。
そこに人ごみを掻き分け、意地わるそうな女の子がやってくる。
――――すずめは、そーいうの、馬鹿だと思います。
主人公を見下すようにせせら笑う。
――――物なんて、動かない! 喋らない!
自分自身に語り掛けてるだけでしょお? 虚しくないんですかぁ?
主人公に酷い言葉を浴びせるすずめ。
主人公は表情を変えることなく前を見据えていた。
――――ふーん、植物人間にもソレ、言える?
――――え……
――――入院費で家計を圧迫してまで、モノに語り掛けてばっかみたい! 自分自身に語り掛けてるだけでしょ? って、もう、意識なんかない、死んでるんだよって。認めちゃえばいい。未来の為に臓器移植でも協力してやんなよ。
――――…………
――――物と、人に、大して違いなんか無いよ。
「では、こちらのおもろくて美味い店を紹介していきたいと思います! 」
突如チャンネルが切り替わる。
キャノが変えたらしい。リルはちょっとびっくりしたけれど、なんだかしんみりとした空気になりそうだったので同時に安堵もしていた。
(皿でも洗うか……)
立ち上がるリルの横で、テレビがグルメ番組を流している。
面白くて美味しい店を取材するという趣旨の番組だ。
今回はヨウ様も行きつけの店に案内するらしい。
――――こんにちはー! 此処に、お勧めってあるハンバーグを……
近頃、何かと映っている『カフカちゃん』が、リポーターらしくある定食屋に入り、店主にマイクを向けていた。
彼女は何かとグルメ系の番組に出ているせいか、アイドルというよりもメシテロキャラのイメージがついて来ている気がする……
怖そうなお爺さんが眼光を光らせた。
――――なぜ、ハンバーグにする必要がある!
カフカが「いやいや、なんで!?」と苦笑しながら、他のメニューを選ぶ。
――――だ、だって、お勧めって書いてあるじゃないですか。ハンバーグ。
じ、じゃあ、こっちの、豚肉の生姜焼きで
怖そうなお爺さんが眼光を光らせた。
――――なぜ、生姜焼きにする必要がある!
――――だ、だって、お勧めって書いてあるじゃないですか。書いてあるから頼んでるじゃないですかぁ
ドッとVTRの流れている会場内が沸く。
「最近、あまり面白い番組無いな」
キャノがぼんやりと、誰にともなくぼやいた。
リル、はそもそもじっと画面を見続けているのが性に合わない為、そんなにテレビを見たことが無かったので、何とも言えずに天井を仰いだ。
テレビは今や『旧世代の象徴』のようになっている。持たない若者も増えており、観るとしても殆ど報道や天気予報の為の物と言った印象だ。
それは今や当たり前のように行われている偏向報道や政治的な圧力の影響でもあった。
――――カボチャの煮物を……
――――何故、南瓜の煮物を選んだ!?
――――もぉおおおおおおっ!!!!!
11/2615:32―2022年11月30日16時31分




