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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
【本編:幻影の魔女】
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東さんと、母の関係/パリュス党?のそうかな活動





 コトが夕飯の為に帰宅したとき、やはり家には母が居た。

最近母の帰宅が増えたのだが……なにも、こんな大変な時期でなくて良いのに。


「ただいま……」

まるで自分を見張っているかのようだ、となんだか少し嫌な気持ちになる。 廊下の途中にエビスナックと、女性ものの下着が落ちていた。拾うか一瞬考えてみたが、なんとなく触る気がしないので放置することにし、恐る恐るその脇を通る。前にも、似たように平然と下着などが投げ出されていたことがあった。

 こんなのが自分の母親のしている行動だというのには、あきれを通り越して悲しい。



──途中、リビングに向かう分岐点で、何やら潜めた女性の声を聞き、足を止める。

母親の?

いや、母親の、だけではない。

もう一回り低い、女性の声……

嫌な予感と胸騒ぎで、心臓がバクバク音を立てている。




  というのも、コトは幼少の頃からときどきある疑念を抱いて居たから。

母親が、女性が好きなのではないか──



 一緒にテレビを見ていても、この女優さんは美人だね、とばかり言うし、逆に男性の俳優には言わない。

 父さんと結婚してからも、あまり二人が仲良く親密にするのを見る機会はなく、どちらも仕事。ただのシェアハウスみたいだった。

保育園のお迎えなどで一緒に歩いていたときも、道で綺麗な女性を見かけると、なんとなく嬉しそうだし──




 コトは緊張を押し隠すように、そぉっと足を踏み出し、ドアの隙間からリビングを覗く。

 辺りは暗くてあまり景色がわからないが──ただ、ソファベッドに女性が二人、寄り添って居るみたいな様子がうかがえる。

友人というには、密着していて、様子が変だ。

「東さん……お迎えは、何時?」

母親の、普段聞かないようなうっとりした声。続いて、母親とは違う女性の声が笑いを含めた声で答える。

「もう、そろそろだね。リカちゃん、良い子に待ってるかな」


ひ、人妻──?

姉妹かもしれないけれど……

いや、それより、何だって?

情報が多い。父さんは今日は仕事で帰らない。

あ、待てよ、そろそろお迎えってことは、帰るのか、隠れないと──わわ、どうしよう。

外に出るか。

慌てて玄関に戻るコトの背後で、「あれ? 下着がない」と慌てる東さんの声がしていた。

さっき玄関に脱ぎ捨てたのか、と、コトの理解と、彼女の理解が重なる。


 訳がわからない。

やっぱり、そうなんだ。

母さんは本当は女性が好きだけど父さんと結婚したんだ。

あの嬉しそうな声だけで瞭然じゃないか。

あの姿、父さんの前で見たことがない。

 でも、母さんにそんな出逢いなんかあると思っていなかった。

どうして──東さんって、『あの』食品の人か?いや、それより、やっぱり、女性の方が好きなんだ、でも、俺たちに黙って、そんな……でも言えるか?聞きたくないよ。

信じたかった。わからない。わかりたくないけれど、わかるしかない。




半泣きで外に向かい、まるでまだ帰ってませんよと言わんばかりに家から遠ざかる。

家の死角になりそうな場所に身を隠さなくては。駐車場──は駄目だし、その反対にある囲いの影なら、見つからないだろうか。




「なぁにやってんの」

低い──けれど妙に色気のある声が背中の方からした。

「ひっ」

彼、は飛びあがりそうなコトを見て、クスクス笑っている。数秒、落ち着いてから振り向くとキャンディが好奇心に満ちた目でコトを見下ろしていた。



「あとで覚えてろ。驚かされるの嫌いなんで」

睨み付けるが、コトが何をしてるのかの方が気になる彼はもう一度尋ねる。

「気になるんだもん。何をしているんだよ」

「今からわかります、だから、静かに」

コトは自らの唇に手を当てて、静かにするようにと促した。彼も、その雰囲気を感じ取って黙る。玄関を見張っているのを悟るなり、一緒に玄関を見張った。

──ドアが開く。


東さん、がドアから出てくる。

「じゃ、ありがとう。またね」

母さんが「リカちゃんによろしくね」と愛想を振り撒いて見送る。

 短い階段を降り、東さんが、外に姿を表した。見たくないとは言え、見るしかない。理解したくないとはいえ、理解してしまう。

女性だ────

 髪の短い、凛凛しい顔つきの、『母さん好みの女優みたいな』女性だ。


 ポカンとしたまま、硬直するコトと、

なにがなにやらわからないキャンディ。


そのまま、奥の道に歩いて行った先で、彼女はどこかに電話をかけている。

それを見て、固まっているコトの肩をキャンディが軽く叩いた。

「え?」

 彼女の前に『アップルレッド』の車が停まる。あの派手な車、一種仲間の合図かなんかなのか。

玄関が閉まり、母さんが完全に去ったのを確認して、コトたちは走った。

 運転席の側からチラッと見えたのは、チルドさん────


『彼らが何をしているのか』、どんな連中に、母が落とされようとしているのか。

この時点のコトにはまだ知る由もなかった。

 ──ただ、

母は、裏切る人だった。




「……あれって」

 キャンディが小さく呟く。

コトを心配してはくれているみたいだ。

「あいつら、グルなのかよ──大丈夫か?」

「……ショックは、受けてますが……」

心配して聞いてきた彼に、コトはなんとか答えた。

「それより、相手がわかって、一歩前進しましたね。メシテロ解明の糸口になればいいんですが」

 手懸かりはある。リカちゃん、だ。

リカちゃんの家と東さんの家は繋がっていて、それが母さんと繋がっている。

「メシテロって響きと、さっきのやつが何か関係あるのか?」

「響きっていうか――――えっと、さっき、家に帰ったら、さっきいた東さん、が居て……それで、えっと、母の知り合いって多くは食品会社関係で……」


「あー、昔メニューが魔除けっぽいのばっかりだったとか言ってたような、それはその手の企業の系列製品がそうなってるってことだな」

自分でも何から話せばいいのかわからなかった。

「はい。人間の豊かな暮らしの為の食品と、栄養、魔法との繋がり――――を、調べてるところなんです。リカちゃん、はわからないけど、東さんはこれからリカちゃんに会うみたいで……」

「えっと、つまり? 東さんは職場の関係の人で、それと不倫関係って事か」

「そうだと思いますよ」


 母さんが、恋人を作って好きに生きるのなら、それだって、悪いことでは無かった。此処は、母さんと父さんの家なのだから。



外からしみじみと自宅を見上げて、考える。

此処に来るまで、さまざまな思い出があった。此処に来る前も。さまざまなことが思い出される。

 父さんと離婚か死別かして、しばらく女手一つだったという、母のこと。

 それから、顔も知らない父親の話を聞こうとしてやけに怒られた事。

 保育園に通うようになってから知ったのだが、親というものには父親と母親が在るらしい。

 誰がいつ部屋に置いたのか分からない、スーツを着たブロンドの男性を模ったキーホルダーを父さんと呼んでいた事。それはこっぴどく叱られた。

 てるてる坊主の事。水が溢れた事。ノートに書いていた、今思い出しても意味の分からないアレの事。街で何度も見かけた、友人は見えなかったっていうアレの事。

思い出しても――――

そう、ところどころ……謎な思い出ばかりが蘇る。

なにしてたんだ。幼少期。



(思い出すのやめよう……)


だんだんと、仕事をするだけの存在のようになって行って、恋愛をする姿を見られる方がむしろ安心するというものだ。

 


――――重いんだよ。


 あの頃ずっと、親の名前や存在すら話せない、ほとんど他人みたいな自分の為に、全て諦めて、働いているのだ、という、無言の重圧を受けて過ごして来た。

重くて、近くに居るだけで潰れそうにすらなる。重くて、逃れたくて、早く、母の再婚相手が居れば良いのにと、そればかり考えた。

だから、母がまた婚活をするといい、突然再婚したときも、ただ嬉しかった。

俺のおもりや仕事以外にもすることがあって、友人や恋人が居て、良かった、と自分のことのように嬉しかった。

 肩の荷がひとつ降りたと思った。

『俺のせいじゃない』と思える環境が、出来たのに。


それが、崩れてしまうんだろうか。




いや。

それすらも、彼女の責任だ。

俺が出ていけば良い。

母さんの責任で、母さんが生きられるように。


それをこれからする。


だから、


「後で、何か細工をされているのかだけでも、確かめに行きたいんですけど」

「わかった」

チラリと彼、を見る。

「……なんだよ?」

ちょっと怪訝そうだった。


「いえ、何でもないです」








まずは、夕飯の用意だ。


――――今日家に居ます。刺身にするから。カボチャの煮物と、ほうれん草のおひたし!あと、スイートポテトがあります


「これには、細工は無い、と思いたいけどな……」


 カボチャの煮物と、ほうれん草のおひたしという文字を見ただけで、なぜだか心がざわつく。

ドキドキと、心臓が音を立てている。本当に魔物を呼んでしまいそうだった。

体が、カチコチに硬くなり、家に進もうとしない。怖い、いやだ、やりたくない、ただ夕飯を作るだけなのにそんな悲鳴にも似た声が出掛かる。

何が嫌かとか何が怖いかとか自分でも分からないけれど、読み上げた時、喉の奥が重たい感じがした。心が、軋む。


(いや――)

喧嘩は同じ土俵でしか起こらない。

細工だろうとなんだろうと同レベルで居る必要は無いのだから、細工を真に受ける必要も無いわけだ。

 なぜだか、フレテッセの事を思い出した。



   家に近づき、今度はインターホンを押したが、誰も出なかったので、深くは気にせずに家に入った。

大方、さっきの片付けでもしてるんだろう。

中に入ったのはコトだけだ。というのもキャンディは普段から瞬間移動で部屋に訪れる。

『リルたちと違って、移動負荷は少ないからな』とのことだった。(魔力が多すぎるとその分の瞬間移動にも僅かに負荷が生じること等によるらしい)


 母はリビングには居なかった。台所の方で包丁の音がしている。





――――ふと、ローテーブルの足元に派手な絵のチラシがあるのが目に入った。

 雀のキャラクターが「正しいーただしいー理解をーりかいーを、お願いします!」と吹き出しで訴えるパリュス党のもの。


さっきは部屋の中までよく見ている場合では無かったので気が付かなかったのだが、なかなか強烈なチラシだ。

パリュス党というのは、少し前に駅で活動していた、~魔法の奇跡の力で立ち上がる奇跡の世代である私たち~とか言ってる人間の団体である。

魔女の警告・啓発・認知活動、と銘打ってあちこちで活動を広げているらしい。ポスティングも募集していた。

現代ではほとんど表立って魔女や能力者を見かけないというのに、こういった団体は未だに堂々と活動している。まぁ、信仰の自由だが。






そうかな? 活動に


('◇')ゞ「正しいーただしいー理解をーりかいーを、お願いします!



悪い魔女を排除、あるいは、善性の心に生まれ変わらせる為に、捕獲しています。


『そうかな? と思ったら』

■ ('◇')ゞすずめちゃんの、そうかな?ポイント!

・銀髪で赤い目をしている。

・ニンニクや南瓜が嫌い。

・光の反射を防ぐ為、睫毛が長く、独特の目をしている者も居る。

・魔力の象徴である髪がとても長い。切ってもすぐに生えてくる。

・魔力を呼び寄せる甘い声をしている。

・尖った耳や爪を持っている者もいる。


 「……わぁ」

ほとんど人種差別みたいなことが箇条書きで羅列してあり、すぐ下に、魔女にされてしまわない為に、と活動が紹介してあった。





~魔女の炙り出し、駆除活動を定期的に行っています~

多くのボランティアが、この『そうかな?』活動に協力しています。


■魔女はカメラに映らないので、そうかな? と思ったら、確認の為に端末をカメラモードにしてみよう。

 ('◇')ゞすずめちゃん:風景を撮っている、バードウオッチングだと言えば誤解されません。

  ('◇')ゞすずめちゃん:また、撮られて困ることがあるのかと聞くのも手。この手は非常に有効です。


■呪文を使う分呪文が苦手なので、こっそりニンニクや南瓜などを囁いてみよう。

 ('◇')ゞすずめちゃん:魔女は呪文を使うのと同時に、呪文を日常で使う事を避けています。言葉だけでも効果アリ!

 ('◇')ゞすずめちゃん:呪文は随時更新されています。

詳しくは、皆さんに配布しているクラウドアプリをチェック!


■電車の中で『そうかな?』が生じるときは、魔女裁判ごっこをしてみましょう。

('◇')ゞすずめちゃん:かつて火あぶりにされた魔女の、絶叫する様子を電車内で再現する活動です。あの魔女は未だに行方がわかりません。

動画サイトなどに上げると、snsで話題にしてもらえることも……!?



炙り出し中のみなさんを見かけても、驚くかもしれませんが、邪魔はせずそっと活動を支援してあげてください。



~クラウドアプリ配布中~

独自の『データベース』と、同期しており、いつでも、指名手配魔女の情報をリアルタイムで確認できます。

 通知をオンにしておけば、即座に起動し、本部と同じ最新情報を表示。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



何と同期してるんだろう、とか気になることはあるけれど、どうせろくなところではない筈だ。

集団戦略的に配布しているのが引っ掛かった。

同時に、ポイントを配布し、魔女狩りみたいなことを『平和の為』に信者にさせている?

(少なくとも、カメラには映ってるんだよなぁ……)と思ったが、別に言う事も無いだろう、とコトは台所に向かった。




2022年11/1616:02―2022年11月19日23時18分‐2022年11月20日19時58分

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