ハリー・ヨウと飯テロ
「今回のゲストは、『魔法使いはハリー以外要らない』で主演を務め、『そんな、ロックハート先生が教えてくれたのは、暴れ牛の宥め方くらいです!』『お望みとあらば、どこまでも転がってやる!』――――など、数々の名台詞でお馴染みの人気俳優、ハリー・ヨウ!」
「こんにちはー! ロックハート城って検索したら真っ先に群馬県が出てきますね!」
「こんにちは。そうなんです。英国というところから大昔に移設されたみたいですよ! で、今日は何の食材を持ってきてくれたのでしょうか?」
「今回はね、南瓜とニンニクを使ったスープ作ろうと思うんです、今旬ですからね。硬くて火が通りにくい、とかなんか変なにおいがする、とかで、小さい子は結構苦手だったりするんですけど、なるべく食べやすいようにね、やってみようと」
「なるほどぉぉ。それでは作っていきましょう」
街中のモニターが一斉に再放送を映し出した途端、ビルの裏道に面した場所からでも、街中が湧き立ったような感じがした。
このモニターちょっと声でかいよな、とコトは普段思っているけれど、今は別の事に気がとられてしまう。
表通りが見える位置まで行って、モニターを見た途端にすぐ思いだした。
ヨウ様……ファンが呼んでいるヨウ様は、今やあちこちで名前を聞く人気の俳優、ハリー・ヨウの事だったのか。
今流れているのは、料理好きなゲストが持ってきた食材で、絶品料理を披露してくれる、という体の番組だ。
メニューがあからさまに南瓜とニンニクを推している。
途中、ハリー・ヨウ関係のCMが入った。
『魔法使いはハリー以外要らない』の新しい映画がやるのでその宣伝らしい。
折れそうなくらい華奢な身体、たぶん染めているくらい真っ黒な髪、甘いマスクの男性。多彩な演技で数々の賞を受賞していた。
『魔法使いはハリー以外要らない』は、少し前に社会現象を起こしたファンタジー小説で、オカルト系の書籍や掲示板では魔法統一戦争時代をモデルにしていると言われている。魔法使いは名門が各地に分かれており、『ハリー派』以外の魔法使いを消してしまいたい軍団に、主人公たちが立ち向かう話だ。
チラッ、と振り向いて『彼女たち』を見る。
それぞれ、つまらなさそうにモニターを見上げている。と、思ったのだが、
「これ、父さん出て来るかな?」
リル、は奇妙なくらいニヤニヤしながら呟いた。
「お父さん、俳優なんですか?」
「いや……普通の、言語学者。おっとりした奴で、何考えてるかよくわからん」
どこか、遠くを見ているような、そんな涼しい顔だった。
「へぇ、言語学者なんですね」
「魔法言語だけど。ほら、あそこで争ってる、名門、の一つだ」
「……」
「統一戦争は、本当にあったんだ。随分、昔にな。『此処で言う』ハリー派が、魔法言語を同じ規格に統一しようとしたんだよ。でもそれぞれ家に今まで馴染んで来た魔法があるわけだから、ハリーに組み込むのは猛反発があった。当然だ」
どれだけ力を持っていて、どこまで恵まれても、殺し合いが止まることがない。
ついには、ハリー派がそれ以外の魔法を滅ぼそうとする。
だからコトは小さい頃に友達と見た『魔法使いはハリー以外要らない』が苦手だったのだが、史実だとしたら、かなりの地獄を見ていることだろう。
殺し合いは基本、呪いを掛けあう、新しい魔法を強引に生み出して同じ言語で違う魔法を使わせる、術者を偽って契約を引っ掻きまわすことで磁場をめちゃくちゃにするなどが描かれている。磁場がめちゃくちゃにされた主人公の仲間がどうやって魔法を使ったらいいかわからなくなる場面は、耐性がなければ精神が崩壊しそうだった。
けれどもしそうだとしたら――――作者は、誰なんだろう?
と。しばらく、後ろに居たものの、会話に加わらなかったキャンディが、コト、と呼んだ。
「何?」
「お前、あれをどう思う?」
あれ、と指されたのはハリー・ヨウだ。
コトは、もともと画面越しからでもキャノが普通の人間ではないと感じて居たので、今回も同じようにどう見えるかに興味があったのかもしれない。
「……なんか、変な感じは、しますね。でも、彼自身は人間です」
ハリー・ヨウの背後に誰か居るのかもしれないが、画面越しでそこまで見るのは難しい。
「たぶん…………」
――――なんのために、生れるんだ? どうして、生れないといけなかった
――――遊んでていいのかって? お前、虹が、目の前にあるのに、何、そんな真面目な事を言ってるんだよ。
――俺たちは、どうせ生れたって、虹にされるだけなんだから。
『うわぁーなーんかいいにおいっ!』
画面に、唐突にカフカが映る。
食べる役らしい。
カフカも最近よく見るようになったアイドルだ。最☆強☆のアイドルになるために、家出までしてきたという。どうやら共演者のようだった。
『いやっほぅ! こんにちはぁっ! 今日も、食を通して会場の皆と愛を共有したいのでッ! じゃんじゃん飯テロしてくかんねー!』
(テンション高いな)
『おぉ、もぐもぐ……この美味しさ、闇が深いぞっ! 美味しいヤミー! 感謝感謝ッ!』
カフカが言うとなんだか別の意味で深そうな闇だ。
『またいっぱい食べたいな!!』
コトがぼんやり観ている横で、キャノが少し眉を寄せていた。
白髪同士?で思うことでもあるんだろうか?
カフカが……アサ様ってやつが……とかぼそぼそ呟いている。
そう考えてから――ふと、思いだす。
「あれ、そういえば、テネさんは?」
「こっちでいいの?」
そう問いかける人物が恐る恐るついていくのを、「彼」は時々振り向きながら確かめている。
テネは飯テロの話を途中まで聞いていたけれど、途中から、鞄から飛び出したフェネックを追いかけて街中に出ていった。
どうやら、気になる場所があるらしいが、怪我だらけで心配だった。
彼女たちは単体でも強いし、それよりはフェネックの方が気になる。
追いかけているうちにどんどん表通りに来ていた。
『あぁ、強い幻のにおいだ』
「ねこちゃん~、まだ怪我治ってないでしょう? 僕の鞄の中で寝てなよ」
ねこちゃん、ではなく、異界砂漠フェネックは鋭い眼光で彼を睨みつけた。
「ねぇー-、鞄ちゃ」
『なんだ。その呼び方は』
「えー、猫が嫌なら、鞄ちゃんかなって。あ。カナっていうのはどう?」
『カナ?』
「──気に入った?」
『どこで、そレを? 内部資料にしかないコウカの本名だ……なのニ、西側のやつは、ニシノといい、スパイの名乗りの常套句にまで』
「え?」
『なんでもない。それに、フェネックはどっちかっていうと狐だ! ……まったく、お前のようなやつに懐柔されるナンテ』
彼が鳩に襲われているフェネックを見た時、咄嗟に手近な鳩を追い払って彼を助けたのだが、フェネックの方も警戒して幻術を使った。
しかし彼はきょとんとしたまま、同じく幻覚を見せる花を生み出して搔き消してしまった。
ねこちゃんに触りたいから、という、あまりに幼稚な理由で。
『どこかに集めているのか?』
民家の屋根にひょいっと飛び乗りながら、フェネックは不思議そうに辺りを見渡した。
テネもそっちを見てみる。
その間も周囲のあちこちの民家から、微小な魔力の気配と、幻の気配があるが、それらはみんなどこかに向かって集まっているようだった。
2022年11月7日0時02分




