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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
【本編:幻影の魔女】
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飯テロ!? カボチャのオバケ










「夕飯何にしようかなぁ」

と、急に話題を逸らしながら、コトは慌ててみんなの後を追う為に歩調を早めていた。

そう、もうすぐ日が暮れて来るだろうから、あっという間に夕飯を作る時間になってしまうのだ。

 いつもの癖でそう思ったのに……

話題を間違えたかもしれない、とすぐに思った。なんだか最近は、夕飯について考えるとずしっと心が重たくなる。

「唐揚げ唐揚げ!」と大笑いして待っていた母の姿、あの女の子が南瓜を嫌がっていた事、様々な記憶が心に突き刺さる。

夕飯について考えるだけでも精神的に揺らぎが生じる。変な悪口よりも悲しくなった。

 きっと、ここ最近、家で起きている『怪奇現象』の頻度がやけに増えたことにも起因するのだろう。

(唐揚げっていえば、あの時の鸚鵡もそんな名前だったな。まさか、オウムじゃないよな)



 途中、コトの携帯が震えた。キャンディが先に歩いていくのを横目に、なかを確認するとメールだった。

『今日家に居ます。刺身にするから。カボチャの煮物と、ほうれん草のおひたし!あと、スイートポテトがあります』


(うちも、カボチャだ……)


なんだ、もうメニューが出来ていたのか。

──とか、安堵する気にはなれなかった。

 いろいろな出来事が積み重なり、不信感だけが募っていく。

今まで滅多に帰って来なかったのに。

母さんたちは──何をしてるんだ?


 コトがタワーに入り浸るようになるのと比例するように、母が家に居るのが急に増えだした。

そして当然のように魔女除けのようなメニューを指定してくるのだ。

 もしかしたら母さんは、小さい頃に俺としたはずの、俺の書いたものや作ったものには見ない触れないという、大事な約束──あれだってもう忘れていて、なかったことにされていて、守ってくれていないのかもしれない。


なぜそう感じたのかわからないけれど、

最後の、最後の砦──、

 それも、もう、無いのかもしれない。と、思った。


(ヨウ……って人と、カボチャの煮物には関係があるのかな?)



2022年10月29日20時35分─10/3018:39

















――――『ニュースの見出しが自分の周りに似てるとかじゃなくてね、もっと、こう……『身近過ぎる』っていうのかな。

 たった今ジュースを飲んでて、隣に知人が居たとして、相手は飲んで無いのにいきなり蒸せたり……もちろん、敵と戦ってるときに、

 敵が居ないのに天井を叩いたりしはじめるとか、近くで水の魔法を使ってたら、人が来て『なんか水を撒きたくなって……』とかって室内だろうとやるの。』


キャノが言っていた意識同調の内容が脳裏に浮かぶ。

その人個人の状況には関係なく同じように身体だけが誰かと同じ意識で動かされる、というのが魔力によるものだとして、



――――『書いた文字を、お前が解釈し、それを込めた食物を食わせることで、体内に取り込ませる。

憑りつくってんなら、消化されるまでの間、両親に力が憑りつくことがあるかもしれない』


 キャンディが言っていた言葉も思いだした。魔除けの為に考えられた何かの意味の在る食べ物を食わせることも、魔力を取り込ませ意識同調させる原因になっている?

そう言えば、昔からそうだ。具体的に証明できなくても、俺が何かすると、時々変なことが起きた。

本人たちは覚えてないって言うけれど、いきなり暴れだしたり、笑いだしたり、怒りだしたり、部屋を無意味にうろついて、ぼんやりしていたり。彼らが勝手におかしくなっただけと、そう思い込もうとしていたけれど、それでも、最近の頻度を見ていると、むしろ自分のせいで怪奇現象が加速している気がしてならないのだ。

だんだんと自分のことも、家族のことも、わからなくなっていく。

それが不気味で、恐ろしい。昔見かけた魔法使いのファンタジー小説のような特別感などは感じない。

 そこにあるのは今まさにこのままでは今までのアイデンティティが崩壊するかもしれないという危機感だ。

自分が知らないもので壊れていく不安。事情も知らない家族が目の前で常に意識に操られ続ける苛立ち、焦り、恐怖。


「おまえさぁ」

黙ったまま、道を車が通り過ぎるのを待っていたコトに追い付いたキャンディが、ふいに声をかけて来た。

「家、出たほうが良い」

 どきっと心臓が跳ねる。

「家族をどう思っているかは知らんが、魔除けで溢れてるような家に魔法を使える奴が住んでいても、たぶんこれから先ずっと悪い影響しかない」

 それはコトも薄々考えていた。真相がどうであれ『そこに居ないから俺のせいじゃない』と確実に言えるのなら、いっそ家に居ない方が心が休まる。

例え父や母が大したことに感じて居ないとしても、彼自身にはもうだいぶ堪えていた。

「そうですね。実は俺も前から考えて居たんです」

 風呂の水が溢れて来た時、バイトの時、土に埋められそうになった時。

  それを揶揄するような家族や周囲の人たちの反応。

家族は俺とは違う、俺はあっち側なんだと、自覚させるには充分だった。

 だから生前の祖母もあんな風に怒っていたのかもしれない。もしかすると、ずっと心のどこかで引っ掛かっていたんじゃないか。


「なんにしろ、確かなのはきっとこれからも、飯テロが続くって事ですね。そして、俺はたぶん、これからもそれが原因でトラブルを起こし続ける。

かといって俺の状況なんか説明したくありませんし」

 飯テロ以外にも問題があった。

家族が普段から面白がって見ている魔女狩りがどうのとか、そういう番組の話ばかり聞いて相槌を打つのが苦痛だという事だ。

どちらみちいつまでも家に居る気はない。進学か就職かしようと思っているけど、計画を立てておく方がダラダラと先伸ばさなくて良いかもしれない。

「緊急時とか、タワーかどっか、頼んだら一時的に住み込みさせてくれないですかね、あれって一応公共施設でしょう」

「それあいつと暮らす事になるぞ」

「…………うーん」

 そもそも彼が普段どんな生活をしているのかもわからないので何とも言えないけれど、なんとなく唸ってしまう。







――カボチャのオバケ!


 ふと、前方――キャノが居る方から、不穏な単語が聞こえた。

「かぼちゃ……?」

距離はあったけれど、カクテルパーティ効果というか、なんというか。

小走りで少し距離を縮めつつ呼び止めようと試みる。なんだか感慨深い。

誰かの為に声をあげるのも、夢中で走って呼び止めたりする緊張も、彼女たちに出会ってから、思いだした。

「あの!」

 やや追いついてきた辺りで、声をかけた。

キャノはきょとんと彼の方を見つめたまま停止している。

「あ、コトちゃんだ」

「南瓜が……どうしたんですか?」

え? と少し不思議そうにしたが、聞こえたんだ、とすぐ思い当たったらしい。

「なんかね、町のどこかで南瓜のオバケが出没するのが流行ってるみたい、って、お店でいろんな人が話してたの。もうすぐハロウィンだし、カボチャのメニューを出すかもしれないっていうので――――食べられなかったカボチャが化けて出るんじゃないかとか」

「それ、食卓に南瓜が並ぶ日に、でしょう」

彼女は目を丸くした。

「何を、言っているの?」

「飯テロ……」

「飯、テロ? が、どうしたの」

メシテロの事は知っているのだろうか。単語だけはすんなり聞き取って貰えたようだったが、それでも怪訝そうにコトを見ていた。

 当然のように横から出て来たキャンディがいつもより冷静に説明する。

「カボチャのオバケ……たぶん魔物を召喚する為に、南瓜を各食卓で晩餐にささげてる」

「待ってよ、何を言っているの。メシテロは、大昔にあった、企業食品に大量の呪詛を混入させたテロの事、じゃないの?」


 彼女が不思議そうに首を傾げるので、ふと、記憶の中を掻きまわす。

現代社会の授業で、そんなものを聞いたような気がしないでもない。

 確か、食品を食べた母親から各地で奇形児が生まれたり、一部の成人や子どもからも奇行に走るなどが見られたことで裁判に発展したものだ。

犯人の全容や詳しい原因はわからないままだったのだが、何かの食品の袋の隅に呪詛のような文字が残っていたことで、某国が企業を介してテロを図った可能性について述べられていた。ただ、認めたというわけではない。逮捕されたのは、会社に恨みがある鬱屈とした表情の日本人だったということだけれど、それにしてもおかしな部分があったとか無かったとか。

「確か、戦時中、あれで大量の人間が傀儡にされたって聞いたよ。やばいなーどこの魔女だろう、ってよく友達と話してたから」

「そんなのあったんだな」

しばらく黙っていたリル、が、どこか珍しそうに頷いている。この人はその時何処に居たんだろうか。キャノは恐らく人里に面したところに住んでいたのだろう。

「あらゆるところに呪いをかけまくってたってのは昔から聞くけど、食品なんかパッと見わからないやつもあるし、恐ろしいな」

それこそ食料が不足して来たときに重なったらひとたまりも無かっただろう。

「――で、食卓がなんだって?」


コトは、道の途中で女の子とすれ違った事、彼女は南瓜を食べると決められた日に必ずカボチャのオバケを見ている為、南瓜を食べるのに危険を覚えているという事、母親が絶対に献立を決めている事。

 ヨウという人物が関係していそうだという事を話した。




 戦後この国で現れた『魔女除け』の食文化。


――――今日は南瓜なのよ、南瓜を食べるようにとヨウ様も言っていた! やらなきゃいけないの!なぜ言うことが聞けないの?

有無を言わさない口調の母親。

――――今日は、ニンニクと、南瓜! 南瓜の日は南瓜って決まってるんだから

――――昨日、南瓜のオバケを見たもん。外で歩いてた! ちょうど、視たくないって思った日に、どぉして、南瓜食べないといけないの?

――――ヨウ様の命令だから。


「ヨウ……最近のタレントかなんかかな」


キャノがうーん、と考え込む。


「私もそんなに全員知ってるわけじゃないからなぁ。でも、テレビや雑誌に熱中してるってのはあり得るかも」

.

 なるほど、広告塔に影響を受けて無意識にそういった食品や商品の情報が刷り込まれるというのは効果的かもしれなかった。

 メディアの普及によって戦後からやり方が変わったのかもしれない。


「でも……逐一企業をチェックしてたらキリがないですよね」

コトはなんだか自分の事のように落ち込んでいた。

魔物が居ても、おかしなことが起こっても、子どもが精神異常を疑われるだけだ。

 あの子もきっと、ああやって騒いでいたって、余計に怒られるか、精神科に行かされそうになるだけだろう。

 知らない事も多く、自分を守る術も知らない子どもが、自分の目で見たものも感じたことも否定されるというのが、どれだけ苦痛を伴うのかと考えてみた。

 


 でもどこが何を作って何をしているかなんて、全部調べ上げたら何日も経ってしまう。

どうしよう……

 それに例え、南瓜のオバケとやらを突き止めたって、一時しのぎでしかない。

テレビや広告で煽られるたびに、同じように繰り返すんだ。

それとも、ヨウ様とやらを止めるしかないのか。そんなの、どうやって。

というかヨウ様が居なくなったところで、他の人に役目が回って来るだけだ。


 ため息が聞こえた。

「なんの為の魔法だと思ってるんだ」

リルが呆れたように呟いた。

「だって――自分が言ってること、疑われるのって、辛いじゃないですか」

彼女はそれこそ何を言っているのかというように瞬きした。

「だから……、その、呪詛が入ってたんだろ? ――キャノ」

「はいはーい! 『今度は』ちゃんと呼んでくれたねっ!」

横目で呼びかけられた彼女は、片手で勢いよく挙手した。

 辺りを窺い、人が居ない事を確認してから、手に持っていたハンバーガーの包み紙を浮かせる。

それから手のひらをスライドするように翳した。

「じゃ、支店長もちゃんと見ててね」

「……次ソレ呼んだら殺す」



 キャノが包み紙を指でなぞると透明な文字が、立体の形になってそこから零れ落ちて――――空間に並んでいる。

幻なのだろうか。向こうの景色が透けている。やがて彼女を取り囲むようにぐるりと一周し始めた。

「んー、薄いなぁ」

ぱち、ぱち、とブーツの下に付けているホルスターの金具を外し、マイクを取り出した。

彼女の息が吹きかかるとそれに合わせて文字たちが揺れている。まるで文字たちが話しかけられるのを待っているみたいでちょっと神秘的だな、とコトは思った。

 マイク越しに彼女が声を響かせる。

辺り一帯に、不思議な音がした。

アーーとしか聞こえないようでも、何か知らない言語でしゃべっていたようでもあるそれが文字を震わせる。

音に合わせて踊っている言葉たちの中で、ほんの僅かに透明な文字列の中で黒く淀んで落ちて来たものがあった。

 言葉だろうか? ぐしゃぐしゃになっていて、読めないけれど。

「……、お野菜と、チーズ……かな」

何をやっているのだろうか。コトの頭の中が疑問でいっぱいになる。

「成分表示を変換したんだよ。呪詛そのものは無かったけど、近くに術者は居るのかもな、それ、普段使ってない言語コード……まぁ呪文にもあるんだけど、それがあると、ちょっと黒くなるんだ」

キャンディが雑に教えてくれる。

「なるほど」

「こんな感じで一気に呼び出せば、町一体くらいならすぐ終わるよ」

 キャノがえっへんと得意げに胸を張った。

多すぎる魔力にもいろいろな使い方があるんだな、となんとなく納得する。

「でも、結局会社か内容物かだけで、それって同じじゃないんですか?」

「ただ変換したわけじゃないよ」

 リルが包み紙を手に持った。

「これも個体だしな」

と、よくわからないことを呟いて、両手で包むように持つ。

「うーん……なんて、言おうか」

彼女は空間から、ごく普通にペンを取り出した。どこにでも売っているマジックだ。



 そしてキャップを開けると、何もないはずの空間に向かって文字を描き始めた。 

ist el neqt ul etas mi letuoialwreals……

光が、浮いている……。筆記体になっていてほとんど読めないけれど。

そしてそれがすうっと空に溶けるように、消えていった。まるで、街に文字が溶けてしまったみたいだ。

それが終わると、いつの間にか浮き上がっていた包み紙が、キャノの手の平に戻った。

「魔法使いらしいだろ?」

ニッ、と彼女は笑う。そしてマジックに蓋を付けた。


「街に、何を」

「じきにわかるよ」



















・・・・・・・・・・・・・・・・




 言葉と神の繋がりは、古くから存在している。

コトバが力を持っていると言う考えには言霊が有名だが、

そもそも、なぜ力が存在するのだろうか? その答えの鍵は最初にヒトの言葉を作った者たちが神の存在を認識していた事にあるのだ。


 The connection between words and gods has existed since ancient times.

Kotoba is famous for the idea that words have power.

Why does power exist in the first place? The key to the answer lies in the fact that the people who first created human language were aware of the existence of God.


古来、文字や絵の多くは市民が情報を得るためのものではなかった。

神々に話しかけたり、自然に祈りを捧げたりするためのものだったので、呪術的、魔法の意味合いがあったのである。

これは最初からある程度の神性を持って作られたのが我々の使用している言語であるとも言えるだろう。

 In ancient times, many of the letters and pictures were not for citizens to obtain information.

It was meant to speak to the gods, or to offer prayers to nature, so it had a magical connotation.

It can be said that this was created with a certain degree of divinity from the beginning.

(There are many words that indicate a connection with gods or myths in the words that humans usually use.)


List of human languages

Ἀράχνη, Aráchnē

Latin word for spider aranea

⇒araignée  araña ragno…



2022年10月29日20時35分‐2022年11月2日21時55分‐2022年11月5日2時18分








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