血族と体質
「暇な時間にある程度、調べたんだが」
歩きながら、そう言ったのは、リルだった。
「込神町は、古くから異端を受け入れる町だった、というか……この辺りは元々遺跡が多い土地みたいだな。未だ解析されないものも多い。
それと、いくつか文献を当たったんだけど、かつて森があった辺りは妖精の取り替え子なんかをウロに預ける文化も合った」
「この辺、森だったんだ」
テネが珍しげに辺りをキョロキョロと見渡す。妖精の取り替え子というのは悪い妖精が子どもを取り替えてしまうという古い伝承で、主に奇形や忌み子をそう呼んだ。
ファンタジーの話ではなく、人間の文化の用語だ。
「で? つまり」
「土地を異文化や他種族の介入が占めている時代があったということなんだけど、歴史書にはあまり残ってないな」
「そんなの、何処だって一緒でしょう? 昔は何度も戦争してたんだから」
テネは不思議そうに彼女を見た。夕陽に照らされる長い髪は、光の加減で淡く金色に見える。
「なんて、言ったら良いのかな」
少し先を歩きながらも僅かに歩調が緩まる。
彼女は何か、迷っているようだった。
「異端を受け入れる町というのは同時に、異端を恐れる文化も在る場合が多い。だから生まれてきた『妖精の取り替え子』を森に捧げている」
テネは、ハッとした。
「此処に力を持つ者が……魔女が居たと?」
障がいや奇形や忌み子は在っただろうが、見方によっては、その何割かに混血の異形が生まれていたかもしれない、と見ることも出来る。
「たぶんな。魔女かはわからないけれど、強い力を持つ者が、この森の主が居たのだろう」
「──今は」
「わからない。ただ……会ってみたいよな、ってさ」
「なぜ、急に」
「思い出したんだ、コトが言っていた……逢須が居た輿手鏡村は山奥にあって、雪で埋もれたと。
でもヒトではなく神と呼ばれた何かなら、まだずっとどこかに居るんじゃないかって」
テネは、ぼんやりと、彼女の横顔を見ていた。なんとなく、言いたい事がわかる。
だけど──
「逢須の名前──」
日が隠れ、辺りがやや薄暗くなる。
先ほどと変わらぬ歩調で歩きながら、ぼそっと彼女は呟いた。
「え?」
「だから逢須の名前。アイス──誰が付けたんだか、その神様の居るっていう山の名前なんだと」
氷の『呪い』で、常にあちこちを凍らせ、村で忌まれていた彼は、その雪山と同じ名前。氷の名前。
自分を縛り付ける呪いへの皮肉なのか、はたまた、それを自らに背負うことで愛そうとしたのか。確かに彼の強い魔力が、ある意味まるで『山そのもの』のようだった。
──先祖が何を考えていたかは分かりませんけれど、この名前で呼ばれると、神様の一部になっているみたいで、なかなか不思議な気持ちになるんですよ。
「支店……いや、リル──なぜ、コトの話なのに逢須の話を?」
そもそも森の話をしていた気がしたが。
目の前の車道を車が走っていく。
「逢須が関係あるからだよ。本人は自覚が無いが、コトは憑依体質なんだ。たぶん……代々。片鱗を何度か見た。
昔だったら人柱に捧げていたかもしれない」
リルが端的に答えると、少しだけテネは目を丸くした。
「へぇ……まだ、神降しが出来る血族が残ってたんだ。戦争のときに廃れたのかと思っていた。だから神族みたいなにおいがするんだね!」
少し待ってから、キャノがやってくる。
そして多少の世間話の後で間に入って来て言った。
「神族には、次元を行き来する者の他に、血族を辿る者が居るでしょう?」
「あぁ──そうだね……」
「あいつには魔力がある。私に匹敵するくらいに……異常だ、人間なのに──それで──勝手に、あちこち探したんだ」
「……過程はあとで聞くよ。それで?」
「母方の祖母が、輿手鏡村の出身だった。
そこでずっと拝み屋みたいなことをされていたらしい。神と交信して、人々との間を取り持つ役目だな。
母方の家系に、『逢須』が居たかもしれない」
テネには話さなかったが、まだ、リルたちはコトがあの結界に触れた理由を考えていた。そもそもどうしてアイスの結界があるのかから不思議で仕方がないけれど、せめて、彼の結界内に弾かれない可能性があるとしたら、同じ波長を持つ血が流れているというくらいしか思い付かない。
アイスが結局『何者』なのかは、同じ学生であっても分かり得ぬままだったけれど、
血族を辿って現れるというのは考えられた。
「じゃあ、やっぱり、あの子、魔法使いなの?」
「──かもしれない」
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