キャンディとテネ
その頃のキャンディたちは…
「アハハハハ! キリが無いね~」
次々生まれてくるカゲを切り捨てながら、テネは朗らかに笑った。笑ってはいるけれど、表情に微かに疲労が滲んでいる。
それを踏まえて、キャンディは笑ってる場合かよ!と思った。いくら焼いても焼いても、鳩が生まれるんじゃ疲れるだけだ。
ここまで気が滅入る仕事となれば、笑ってでもいないとやってられないのも確かなので、その朗らかさに助かってもいるのだけど。でも、倒しようが無いというのは退屈で、つまらない。
「こんなもん、どうしろっていうんだ?」
振り回して、振り回して、焼いて、焼いて、焼いて──ずっとやっていると、実体の無い空間に虚しく演舞を続けるような妙な感情になってくる。
「ごめんよ、おばちゃんのでかいカトラリーくらいあれば、一網打尽なのに……」
「だから、それ使ったら別の状況が生まれるんだよ!!」
疲労と悲しみで強めの突っ込みになる。
──なぜ、彼女の背中にアレが刺さっているのか。キャンディは既にそれを理解していた。
テネは肩を竦めた。
「冗談だよぉ……頭が固いよぉ……この真面目君!ジョークのひとつも言えないと、カチカチのアメちゃんになっちゃうよ」
「う、うるせぇ」
テネの肩で毛繕いするフェネックが一瞬、ちらりと空間を見詰めた。怪我をしているらしく、毛並みが乱れている。
(こいつ……そこそこのレベルを持つ筈だが。黒魔術には弱いのか?それとも……)
「……よし、こうなったら、フォーメーションDQで行こう」
「なんの略!?」
キリッと振り向いたテネに気圧されているうちに、彼は懐から回収したナイフを取り出し、構えた。魔力を込めているらしく、淡く金色に輝いている。
そしてそれを5つ、宙に浮かせる。
「僕が譜面を創る」
テネの宣言と同時に、ナイフの周りに光の線が5つ生まれた。
「それの邪魔にならないように、周りのカゲを一時消してほしい」
「陽動ね……ハイハイ」
キャンディも回転させながら拡大したハンマーを改めて構えた。
「じゃ、作戦開始──!」
キャンディは飛び上がり、集まってくるカゲを捉えると大きく振り回した。
同時に鳩たちが怯えたように逃げ回る。
先回りして、近くには小さく、遠くには大きく。ぶつからないよう加減を調節しながら、順調にカゲを消していく。
「うん、お見事」
──その間、テネは、両手を広げて五線譜を作っていた。
キャンディに消されず残った一匹、五線譜の光に当たる鳩がちょうど、彼の投げたナイフで固定される。
「この子に決定ー」
金色に輝いたまま宙に貼り付けになっている鳩。
……シュールだ。
「次、どうしようかな」
「さっさと決めろ、よ……!っ、と」
勢いよく向かって来た鳩を咄嗟に殴る。
危うく五線譜に触れて消すところだった。
「じゃあ、この位置、ね」
「りょーかい」
さっきよりやや高めに丸いポイントが設置された。
向かおうとすると同時に、怒ったように五線譜に集団で突撃し始める鳩。バサバサバサ!と激しく羽が舞った。
「こっ…………わ!!」
力を調節しながら遠心力を利用してなるべく多くの鳩を引き込み、それから、いかづちを発動した。カゲは、レベルやパターン自体はさほど変わらないため、次々に消えていくが……振り回す方も少しずつ疲弊してくる。
「はい、休まない!」
「鬼かてめえ」
ポイントが追加されるたびに、上がったり、さがったり、しながらハンマーを振るうわけだが……当然、最初のポイントにも向かわなくてはならず、素早さが鍵になっていた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
5回繰り返し、キャンディに感覚が無くなってきた頃、再び、先ほど消した鳩が生まれ始める。
「よし、譜面の、完成!」
同時にテネがにっこり笑ってナイフを指揮棒のように掲げる。
五線譜の光が次々にメロディに変わる。
カゲは死滅した位置と同じ位置から再生するため、生まれてきた新たなものも巻き込んで何重もの連鎖、壮大なオーケストラのようにハーモニーを奏で───爆発した。
(こ、神々しい……)
連鎖に巻き込まれ、再生の逃げ場も失った鳩のカゲたちは光に消される以外無かった。
これでもう二度と、カゲは生まれないし、一件落着というやつである。
「ふぅ、どうにか終わったね」
テネは涼しい顔をしながらうんうんと頷く。
「なかなか名曲だった気がする」
「……ぜぇ……ぜぇ……」
その横で、体力を消費して何も言えないキャンディは、ひたすらに呼吸だけを繰り返していた。
「本体そのものが、どっかに行ってしまっているからねぇ。カゲだけがこうして、強い怨みを持って動いてしまっている現状は、僕も、誠に遺憾だと思うんだ。じゃあその本体はどこに行ったのか。これだけの鳩を、何が犠牲にしたのかっていうことなんだけど、聞いた事があるかい? どうも、どっかの誰かが、人間の、魔力も扱えない素人に黒魔術を教えてるみたいなんだ」
「………ぜぇ、ぜぇ……」
「魔術が中途半端、上辺をなぞっただけのような中身のスカスカな状態で発動しているのは、このためなのだろうね。しかし、どうして、黒魔術なんかが人間に利用されて居るのだろうか? あれは政府が禁じたはずだけど」
「ぜぇ……、ぜぇ……、はぁ……うぅ……はぁ……」
「もしかすると、政府にも裏切り者が居るんじゃないのか。制限装置のこともあるけれど、どうにも最近、あちこちの様子がおかしいのは、君の言う通りのようだ。僕も一度報告に戻るべきなのかな、あれ? キャンディ? おーい」
「…………」
キャンディは何も言えずに居たが、呼吸が整ってくると、やっと言葉を発した。
「フォーメーションあるんなら、もっと……はやく……はぁ、はぁ」
テネはしばらくきょとんとしていたが、やがて、「いやー、譜面づくり、どうしようか、ちょっと迷ったもので」としれっと答えた。
「お……鬼……っ!」
キャンディはとりあえずそれだけ呟く。
「まぁまぁ、片付いたんだし! 美味しいお酒でも探しに行かないか!」
「昼間から飲んだくれかよ」
9月16日金22:09




