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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
【本編:幻影の魔女】
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虹の忠告

・・・・・・・・




『チルドさんは買い取り拒否しても、ときどき私の家具とか勝手に持ってこうとするから、見かけたらあなたも気を付けるのよ』と謎の忠告を貰いつつ、

 ドアを閉め……きしんだ廊下を歩いた。

前にも、の続きは、買い取りの拒否の有無にかかわらず彼女の私物から勝手に売り物になったものがあるってことなのか。


「さて」

彼女たちは何処にいるだろうかと考えてみた。屋敷の外に待っていてくれるだろうか。

少し長く喋り過ぎたので、もしかしたら自宅に戻っているかもしれない。

 

 そんなことをつらつらと考えながら、外に出て、真夏の日光を浴びた。

「あつ……」

辺りを見るが、彼女たちは見当たらない。

「……やっぱり、帰っちゃったのかな」


まぁ、いいや。

とにかく、俺も帰ろう。ついでに、コンビニにでも寄ろうかなと、改めて、コトは歩き出した。

ぼんやりする時間、何もしない時間が苦手だ。

何か常に手を動かしていないと、どうでもいいことばかり考えてしまう。


 道の途中で、買い物帰りの親子連れとすれ違う。小さな女の子と、母親のようだが、女の子の方は、母親の腕を引っ張ったまま何かに抵抗していた。

「いー----やー---だー---!!!」

「今日は絶対南瓜を食べるのよ!」

「南瓜、嫌い! 食べたくない―!!」

「駄目って言ってるでしょう!」

ぴしゃりと雷が落ちる。好き嫌いではなく、良いか悪いか。

 戦後この国で現れた『魔女除け』の食文化だ。

食事を選べるのは、あるいは食べ物があるのはそのものが贅沢ではあるが、その環境に居ながらも嫌な食事を選ばせられるというのは同時に理不尽という思考を人間に植え付ける。

「今日は南瓜なのよ、南瓜を食べるようにとヨウ様も言っていた! やらなきゃいけないの!なぜ言うことが聞けないの?」

母親は有無を言わさない口調で、南瓜を食べたくない少女を責め立てている。

こんな、街中でも。 

(ヨウ様?)

「だってぇ……」

「いい? 今日は、ニンニクと、南瓜! 南瓜の日は南瓜って決まってるんだから」

「昨日、南瓜のオバケを見たもん。外で歩いてた! ちょうど、視たくないって思った日に、どぉして、南瓜食べないといけないの?」

「ヨウ様の命令だから。いう事聞けないと悪い魔女に喰われてしまう!口に押し込んででも食わせるから」

「やめてよ。南瓜のオバケを見た日に、南瓜を食べたら、また南瓜のオバケに怒られる……!!まだあちこちに、居るんだよ。南瓜見たくないよ、前もすれ違って睨まれたんだから、どうして今日なの」

「南瓜のオバケなんて居ません!! 縁起の悪い!」

本気で嫌がっているらしい。女の子の叫び声が段々悲痛なものに変わる。横を通り抜けながら、複雑な感情になった。

縁起の悪い、とは、魔女が南瓜に憑りつくと言う言い伝えだかハロウィン関係の伝承だかのせいだ。魔女狩り大戦の名残、とも言える。

「…………」

うちの母も、そうだった。今はほとんど仕事に出ているので干渉がマシになっているけれど、何かにとらわれたかのように魔除けの食品ばかり食べさせようとするのだ。

コトはこっそり、飯テロと呼んでいた。南瓜のオバケが何かは知らないが、それを食べた日に不幸に見舞われることがわかっていながら、南瓜を食べることが家庭で決定しているのは可哀想だった。ヨウ様はタレントか何かなのだろう。

料理、っていえば。

「キャンディさんも。いない、なぁ」










――――ねぇねぇ

 ぼんやり、ぼやけて、殆ど声以外朧げな記憶が蘇って脳裏を埋め尽くす。

 

 戦後の話の断片を聞いて思いだすのは、学校に通っていた頃の、特に面白みもない日々。

そして、毎朝頼んでも無いのに勝手に話しかけて来ていたあの子。


 ――――ねぇってば!


溌溂とした雰囲気で、俺の机の前に来ては、その日採れたての話題を聞かせてくれた。なんでだったのかはわからないけど。

それでもなぜか、声しか思いだせないでいる。

夏の昼間の空のように、じっとりとした暑さにぼやけて、溶けていくようだった。

(薄情。だなぁ)






――――大人になったら、恋が出来るようになるって、本当かな?

――――恋って……総理が禁じただろ? 


――――他人を好きになること。

大切な誰かを想うこと。この前ね、卒業した先輩が教えてくれたの。

大人になったら、禁止されないんだって。


――――他人を想うことだって今もやっている。

それ以上の感情があるとは、思わないな。あったとしても、大人になったときに理解すればいいじゃないか。



――――違うよっ! もっと、特別なものなの! その人にしか抱かないような、特別なものなの!

――――『恋』の実物を見たことあるのか? 本当にその人にしか抱かないなら、どうして同じ親を持つ違う家庭があるんだ?

そんなの、嘘じゃないか。結局恋なんか存在していないんだ。昔の人たちの妄想だよ。特別なんかあるわけない。欲求があるだけなんだ。それを美化してる。


――――うぅう、意地悪!! でも、そうだって、お母さんが…

その方が、夢があっていいじゃん!!


 ――――夢、か。

みんなが好き、みんなが仲のいい友達、それが俺たちの教育なんだから、誰かを選んだりしたら、また戦争になってしまうだろ? 

誰も好きにならない、何もかも好きになる、そうやって、感情を一定に保つことで、俺たちは健康に生きていけるんだ。朝、先生が言ってたばかりじゃないか。


――――でもでも、私は、私たちが国にささげた、恋っていうもの、どんなものか、知りたいけれど。お父さんやお母さんにだけ許可される感情が、どんなものなのか。

国から禁止された恋というものが、どうして幸せと呼ばれたのか。


――――それは、そのときでいいじゃないか。

――――今度図書館行ってみようよ! たまに、発禁図書が紛れてるって噂だよ。


――――俺はやめとく。

――――えぇー! なんで?なんで? 

私たちが、お父さんとお母さんによってどのように作られたのか、知りたいと思わないの? そこに、もしかしたら、




 もしかしたら。もしかしたら、なんだっただろう?

恋は今や病気として認められ、必要な際には薬や媚薬である程度コントロールが効く時代になってきた。

その程度の、管理できる程度の欲求。だから、

「心なんか持ったって、どうせ虹にされてしまう。この世の中は……『誰が』生まれたかなんだ」











 コンビニに向かって歩く。

その途中で、脇道の方に奇妙な雰囲気を感じ取った。

なんていうのか、そう……じめっとした――――そんなに感じたことの無い空気ではあったが、それでも、あまり良い予感はしない。

嫌だなぁ、絶対なんか巻き込まれるなぁ、と、思いつつも、好奇心が疼いて止められないまま、道を逸れて、足が細い路地裏の方に向かって行く。



 昼間なのに、やや薄暗い路地の隅っこに、ポツンと屋台が置かれているのが見えた。

売っているのはたい焼きのようだ。(しかも1万円……高っ)

その屋台の陰で、誰かが俯いて泣いているようだった。

「やっと……っ、うぅ、ぐすっ。」

 辺りには特に客はおらず、彼女の無く姿だけ目立っている。

嫌だなぁ、絶対なんか巻き込まれるなぁ、と、思うのだが、その本人を観察してみる。体つきや仕草からして、女性のようだけど……

「縁もゆかりもない込神町で、やっと、管理職にっなったんですぅぅ!!」

「…………」

「落選に落選を重ねてっ! やっとっ!それなのにひぃっ!! 風が吹いて、変な女が入って来るじぃっ!! うぅ……同僚わぁ!!冷たいし、ガラス割れるしぃ……!! アーーッ!!ア゛ーハーア゛ァッハアァー!!」

 聞き覚えがあるぞ。俯いていて顔は窺えないが……

彼女は涙をぼろぼろと零しながら、小さな子供のように泣きじゃくる。

「あの……」


「あなたにはわからんでしょうねぇ!!ぐすっ……私ら所詮企業の部品なんて、誰もおんなじだおんなじだ思って……! ……あれ?あんた、どっかで」

「お久しぶりです」

コトはひとまず挨拶することにした。話してしまったからにはいきなり不愛想にする必要も無いだろう。

涙を腕でぐしぐしと拭いながら彼女は慌てて接客用の笑顔を見せる。

「おう。久しぶりー! ねぇ、これ買わない?」

「1万もあれば、駄菓子がいっぱい買えるので。ゲームソフトも買えるし……」

「ふーん、あんた、変わってるね」

「ちなみにこれ、食べたこと、あります? 1万円の味ってどんな感じ?」

「いや? 売ってるだけ」

無いんかい。

首を傾げたバニラちゃんにずっこけそうになった。

「…………ですか、えっと、その」

 話題が無い。わ、わだいが。堕天使の堕天の経緯でも聞いてやろうかとちょっと考えてみたけれど、なんだか口に出すのも面はゆいというか、面白いと言うか。(?)

「こ、この辺の路地裏って、昔、リュック背負った蛍光カラーの人とかが、変な薬売ってたんですよ、あまり、治安良くないか……な。と」

「ほーん……そうなん」

「え、えぇ」

思いっきり話題の広げ方を間違った気がする。バイト先を悪く言ったみたいになってしまった。

「あ、あ、あの、えっと……ち、違うんです、あ、あなたが何をしてようが、売ってようが、俺には、関係無いんですけど、その……! ほ、ほら、あの、」

俺は、何を必死になっているんだ。失礼しました、と早く通り過ぎてしまえばいいのだ。

「許可とか、そういうの……で、大丈夫かなぁ、みたいな。こわいお兄さんが歩いてることがあって」

「え? 許可?」

「何でも無いです、それじゃ!」

 もういいや、何かあっても、どうせ、他人だし、とこの際無理やり切り替えて引き返すことにした。区域によっては治安が良くないのは本当だ。今はそれほどでもなくなったけれど、怖いお兄さんがたまにやって来て、「申し訳ございませんが誰に許可を貰って営業なさっているのでしょうか? 手数料が発生しています。延滞料金も合わせてお支払いをお願い致します」と、乱雑な口調でいう事も、以前はたまにあった。

まぁ、言っているのが、受験や進級等で落ちこぼれたクラスメイトとかのパターンもあるので、これは特に触れたくない話題なのだけれど。



ズキ、と頭が痛んだ。

「う……っ」

――――俺たちはどうせ、虹になるんだ。

――――生れたって、虹にしかなれないんだから

――――それなら、俺たちは、何のために……


(俺は……何のために、あの場所を)





「ねぇー! お兄さんって、あの、金髪のイケメンのことぉー!!!」

踵を返して歩き出すコトの背中に、バニラちゃんの絶叫が響く。

「えー! 誰ですかー!!!」

一人だけ心辺りがあるが、だとしても、なんだというのか。

「ほら、あの、飴玉みたいな髪飾りとか、イヤリングとか付けてて、耳の大きな彼!」

「…………」

思い違いでなければ、キャンディのことなのだろう。

「メアド聞き忘れたのぉー!!!電話番号とかー!!知らないー!!?」

アイツ電話持ってんのか?

「知ってるんでしょー!!なんか、反応がそれっぽい!!」

「彼、見かけたんですか?」

数歩戻って、仕方なくたい焼き屋の前に近づく。

「そうそう、さっき、此処で会ったよ? もうすっごいイケメン! なかなかあんな美人には巡り合えないよね! 地元の子じゃなさそだし! モデルとかかな?」

「はぁ……知らないですね」


 なんとなくではあるが、コトは彼の容姿をいじりにくかったので、適当な相槌を打った。

 それは、自分が極力大人しく目立たないようにしてきたことからの勘なのかもしれない。人によって、褒めて良いのか、悪いのか、何を評価すべきなのか、しないのか、その線引きがあるような気がして、そして、それは彼にとってあの極端に目立つ容姿にあるような気がした。

 自分が、どうでもいいことを知らずのうちに理解してしまうときのように、そしてそれが他人によっては疎まれるものであると、認識しているときのように。



 でも彼が、なぜここに……?

「で、知ってるの? なんて名前?」

後々俺が何か言われてもなぁと思い、一応はぐらかすことにした。

「……電話の存在を知っては居ると思いますけど、持ってるかまでは知らないですねー」

っていうか、あの人普段どこで何してるんだ? 

コトも、彼については何も知らない。

「は? ウケる。いまどき、そんな人、いる?」

「たぶん」

何か、冗談でも言おう――――と、して、ふと、肌に痺れるような感覚が纏わりついた。神経性のものではなく、外側から……気配を伴って、足音のように伝わってくる、これは……

(魔法……?)

近くに、誰かいる……

「また、置いてくー!!!」

 走り出したコトの後ろでバニラちゃんが叫んでいる。

しかしすでに目的地に夢中な彼には何も聞こえなかった。


2022年8月26日0時00分‐2022年9月7日10時11分‐2022年9月14日2時12分加筆



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