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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
【本編:幻影の魔女】
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幻影の大魔女の話







その頃。

 屋敷の中ではある程度の会話がまとまり、少し小休憩的に、そろそろ何か食べましょうか、帰りますか?などというところになっていた。

 それまでの会話をコトがざっくりまとめると『祖母がどんな魔法使いだったか』、エンジンにカラクリがあるかもしれない』それから、『当時の村があったであろう地域』のことが聞けた。

 わりかし有意義な時間だったかもしれない。



 じゃあ、俺はそろそろ、と部屋を出ようとした途中、珍客があった。

「こんにちはー----!!!!!」

と、叫び声。

はぁ、と幻影の大魔女はやや鬱陶しそうにドアの向こうを睨むも、「あぁ、ごめんね、開けてやってくれる?」 とコトに頼む。

「はい」

 押されたドアが、ギギギギ、と嫌な音と共に開いた途端、やけに目の吊り上がった縦にひょろ長い男が部屋に入って来た。背中に青い宝石のついた枝を刺しており、それが時折じゃらじゃら揺れている。


「今日も今日とて諦めませんよ! そっろ! そろ! この『ラブリーハーツ』に、椅子を買・い・と・ら・せ・て・い・た・だ・く・気にはなりましたか?」

「昨日も言ったけれど、あの椅子は、大事なものなのよ。いくらあなたといえども、おいそれとは、あげられないわねぇ」

「エニアさん。そーんなに、冷たくしないでぇ~ん! うちとあんたんとこは、いわば、家族のようなものじゃないですか。ね? 母親のようなまなこで、見てやってください」

「……?」


「ほら、コトさんも困っているでしょう」

突然話を振られて、意味も分からず彼の方を向く。

「やぁやぁ、こんにちは。魔法家具店を営んでおります。チルドと申します」

「ま、魔法家具……」

「魔力の込められた木や鉱石からしか作られない、特別な家具ナンデスヨヨ! 昔の魔法戦争のときには、家具が悪い魔法使いに悪用されることが相次いでいたので、家具そのものにもこのように、魔除け仕様が付けられたり空を飛んだりとするようになっております~!」

彼が頭を下げると、背中の宝石がじゃらじゃらと揺れる。




 確かに、戦時中は、家具が勝手に動きだしたり、意に関わらずに攻撃したり、空を飛んだりということがあったらしい。

いつだったか、父さんがそんな話をしていた記憶がある。

深刻な言語汚染、魔法浸食があって、呪詛の込められていない家具や食品を選ばなくてはならなかったという。

 食事であろうと、魔女の好む南瓜は食べられないとか、ニンニクを首から下げるとか……

庭に箒を置いておかない、とか。

何かあればすぐにすべてが悪い魔法に乗っ取られてしまう。

それを利用したカルト商法も盛んだったようだ。


「中でも椅子と机は高級品。かつて庶民はどこであろうと床に座ってそのまま食事をしていましたからね」

屋敷を見渡してみる。此処にも椅子と机はあるが、(猫足の、場所を選びそうな……)これと言って魔力のはっきりした気配は感じられないような……

「あぁ、それじゃありません、あの電波塔……タワーの中にある、椅子ですよぉ!」

「えぇっ!!」


単なる椅子だと思っていたのに。

「でも、あれ、魔力っていうか……」

「寝てるんですヨヨ。いつも、カバーがかかってたでしょう?」

「ねてる、って、あの椅子、まるで生きてるみたいな」

ずいいいいいっと、チルドの顔が近づいてくる。

近づいてくるな。

「ひぇ」

「えぇ。そう、魔法家具のごく希少なものだけは、生きているッ!!!! 

……ふぅ、別に、怖い話じゃないんです。チルく行きましょうね!!ね!!!」


後ろから、エニアさん、が口を挟む。

「チルく行くのは結構ですけれど、『ラブリーハーツ』に、椅子を買・い・と・ら・せ・て・い・た・だ・く・気になるも何も、今も、冷戦とはいえある意味戦時中ですもの。何かあったときにねぇ、あー、思いだした! 前にも確か、買い取らせていただくとか言って」

 チルドの顔がみるみる青くなる。慌てて走り出して、一旦振り向き、「あ、あ、あ、諦めませんヨーッ!!!」と言って出ていった。









「あ、引き留めちゃってごめんなさいね」

「では……俺は……」

これで。と立ち去ろうとしたときに、彼女がふいに口を開いた。

「外はどう?」

「外?」

「──えぇ……私はあんまり此処から動けないけど……最近、外の動きがおかしいの。それはわかる。魔物も増えているし。結界を、早いところ張り直さないとね」

「外?」

外?

結界の外という意味だろうか。

「あなたにつけたボディーガードはちゃんと役に立っているのかしら?」


やけに心配そうに聞かれて、なぜだか逆に戸惑った。つけた、って彼のことだろうか。

ときどき魔女化するときがあり、そうすると周囲に影響が出たり、狙われたりする。

それは、自分でも実感し始めたけれど。

だから、彼が、よく側に居るようになった

のもわかるけれど。

「──俺は別に……その……」

 付けてとも付けるなとも、何も言ってはいない。これといって目立った危険は、家の中の母親と、バイトで人に囲まれたときくらいで……あ、ゴリラに会ったな……

「今のところは大丈夫ですが、ハンターには会いました」

目を、合──わせそうになってあわてて逸らす。そんな仕草をいじらしく感じるかのように、彼女は目を細めた。


「報告は聞いた……以前、ハンターとして活動していた、山口……なんだったかしら? とかも、最近また動いてるみたいだしねェ」


 ハンター、山口、よくわからない。

日本語?

フレテッセやモーシャンは、隣国系の人たちだった。ハーフやクォーター、あるいは通名かもしれないし……


「……結界の、張り替えって──なんなんですか?」

「結界は主に循環、持続の必要な魔力なんだけれど……古くなると維持に段々と倍の負荷がかかる。だから数年に一度は呪文を新しく更新してるのよ。そろそろ結界を完全に張り替えなくちゃなーって」

「なるほど」

「ときに、またハンターやレジスタンスが活発化したってわけ」

「……なるほど」

「タワーの異変もあるし──あれがマシになれば、ちょっとは違うと思う。お願いするわ」

「はい」

「……ふぅ……だいぶ話したけれど……他に聞くことはある?」

「──あの──最後に、いいですか」

「ええ」

「人からあなたが、あの会社の直属だと聞きました」

「えぇ」

「どうして──此処を作ったんですか?」


2022年8月18日18時41分─8月23日PM7:15

















――――どこから聞きたい? 戦時中? 戦後、戦前から始める? 

歴史がありすぎるからとても一日では終わらないでしょうけど。

――――え、あ、あの……

――――ウフフフ、戦時中の話は、あなたの周りの、あの子たちにでも聞いてやって。近代の話が良いかしら。




 戦後も貧しさからか、いろんな組織が衝突し合っていた。

大きく国が扇動したものから、民族同士の争いに変わっていった。

 レジスタンスとかチンピラとか、まぁ、色々と……

企業も競い合ったり、武力行使したり、スパイを紛れ込ませたりして、

静かに、けれど確かに、戦争が続いていた。

そう、日本も。あからさまな武力抗争は無かったけれど、それでも誰かがいつも戦っていたのよ。あなたたちのように、若い子も。


 中でも魔法使いは重宝されてたわ。


「――――ここの文章、ニュースに抜き出されたりするのかしら? あまり外の世界で政治的に影響を持たされたく無いのだけれど……、前も、週刊誌に……」

こほん。

 少しでも何らかの魔法が使えると分かればすぐに奴隷として市に出されたり、誘拐されたりしていた。

 リルから聞いた? そうね。

人間を武器そのものとして扱う、人権そのものが武器になってしまう。

彼女たちの心はそのせいで深く閉ざされてる。私もそう。

 感情が魔力になるなら、心を持つことそのものが武器になる。

何を考えても、思っても、それは自分のものにならないって、どんな気分か、貴方も、心当たりがあるんじゃないかしら。

 

 私たちの言語の多くは、魔法と関わっている。

 平和な時代には、

魔法を使うときも、何か会話するときも、

私たちの言葉が私たちのものである権利があった。



戦争の本当の恐ろしさは、これを、この境界を、人間たちは侵略し、破壊しようと企てたこと。

 今ほどの精度ではないけれど、当時は『制御』装置、と呼ばれたプロペラ付きのキカイがそこら中の空を飛んでてね。魔力を感知すると狙い撃ちもされたのよ。安い数千程度のものだと、音声を認識する型のもので、言語を照らし合わせて撃ってきた。


 ――――いいえ。国家主導。

 特別な条例によって、総理大臣が、戦略的に空飛ぶキカイを許可してたの。

支持者からの献金で急遽法案が通過したって話もあるけど、戦時中ならよくある話よ。戦闘外のときでも付きまとう、ある意味卑怯なものよね。


 魔法使いたちが彼らから身を隠すためには、喋ること自体も制限しないとならなかった。何か思っても、感じても、新しい魔法を思いついても、魔法を使おうとしても撃たれるかもしれないと思うと、

 頭を埋め尽くす無数の言語や、映像に、ただ、叫び出すしかない。

魔法を使う民族にとってこれほど辛いことは無いわ。

殺し合ったり、気が狂ったり、自殺する者もいた。

声があっても言葉が持てずにもがきながら出来ることは何?

 心を失くすこと、それ自体に、憧れを抱くこともあった。



 魔法を使うとき、何か会話するとき、

私たちの言葉が私たちのものである権利、思想の自由、言語選択の自由。

「魔法は、私たちの、大事な心の一部」

 だから、終戦後、

均衡協定が出来た時、制限装置の開発に携わることにしたとき。

少しでも、この世界に、魔法使いの居た歴史やコトバを遺したい、そういう気持ちもあったの。この言葉は、我々の戦いの歴史。

言語統制、心の統制、身体の自由を奪われてきた人たちの歴史。






 人間たちと歩み寄ることになって、でも、どこかで支配や抑圧に不満を持った人たちが争ってて、だけど、我々が他人から浮かずにひっそりと魔法を残していければそれでよかった。言葉が増えるだけ、魔法も増えて、我々にも『心』が戻ってきた。

すごく嬉しいことだった。言葉の支配権が戻って来た。魔法も使える。



 私たちは重火器や特攻隊としてのものではなく、本当に、人間としての、本来の心としての尊厳を得た。


「でもね、魔法使いは、繊細な人も多かった。ただでさえ言葉の使い方とかで、派閥が結構あったの。それだけで、どこの出かわかってしまうし。やっと身に着けた魔法も無理やり統制に巻き込まれるでしょう、

せっかく強い魔力を持っていても、酷くなる諍いや言語汚染に耐えられず、遠い遠い世界に行ってしまう人も居て……って話は、一旦省略するわね」


 それで、開発の途中、もちろん人間と表向き協力するんだけれど、その中で、開発室で

 人間側の、戦犯の一人だったAの記憶を読んでみた。

才能にめぐまれず、何をやっても鼻つまみ者にされる、憐れな男だった。

無能と言う形で自らの存在を確立できずに居て悪になるしか無かった彼の思い出。見ていると

「可哀想だな、って、思ったの。最初は」

 孤独で、せっかく、五体満足で、言葉も心も持っていても、何も認めて貰えない人も居る。何かあれば、また、事件を起こそうとしていることも読み取れた。

「まぁ、本来であれば関わることなんて絶対に無い、永遠にその機会が訪れないタイプの人間なんだけれど――――才能が無い事にそれほどまで思い詰めている姿、危ないような感じがしてね。そういった会にも参加していたし。

可哀想だから、少し、自信を持たせてあげようと思ったの。

自信が付けば、暴れなくなるかなって。人間と無駄に争うのも大変だし、彼が野生化しない為の予防線でもあった。

 同じ場所の縁で何度か話をしたり、彼が自信を持てるように声をかけたり」



 ――――こんなことを思う気は無かったけれど、

事件を起こす人は、きっと、そういう星の下に生まれたのかもしれない。

彼は、それから独立して、ある会社を立ち上げる。

けれど、すぐに立ち行かなくなり、あちこちで問題を起こすようになる。

それで、まぁ、いろいろとあって。


「その際、彼は、信じられないことに『私も協力してくれている』と言って、私に非難が向くようにしたの。分裂工作ね……魔女が嫌いな人、人間が嫌いな人、何方からもいろいろと、裏切りだとか言われたかもしれない。でも、真意を言う機会が無かったのよ」


彼には、自信が付くことなど無く、自力で何か考えるということそのものが向いて居なかったのでしょう。まぁどうでもいいけれど。

 その……なんというか、努力そのものが出来ないという方だったみたいで。




「いろいろあったと言ってましたが、結局、Aと開発の話は」

「今度、『あの男』にでも聞いてちょうだいな。今も続いている因縁のひとつって感じかな」

「わかりました。……それで自信っていうのは、その真似している人が上手に作れるようにってことですか?」

「嫌な言い方」

「……すみません」

「物事には限界があるってこと、どんなに外側を取り繕ってもやろうと思えばメッキが剝がれること。盗むだけでは絶対に得られない力があること、彼にはその壁を超えられないってことをね――――体感して欲しかったの。何事も、敗北から始まるのだから。上辺ではない、本当の意味で、心の底から敗北して欲しかった。二度と何も出来なくなるように」

「……?」

「まぁ、いいわ。えーっとぉ……前提として、我々は言語汚染から魔法を守り、言葉と人権を得るために戦ってきたって話をして、

それから、終戦後に協定が出来て、戦犯Aは自信が付くことはなく止められないまま暴動を起こしまくって、その渦中で遠い世界に行ってしまう人も居て……」



はい!

これらを踏まえ、ここからが、本題です。

――――大丈夫? ちゃんと付いてきてる?

いつも話が長くなっちゃうのよね。




「問題です。長い事、言語汚染に侵食された魔女はどうなるでしょうか?」

「ど、どうなるんですか?」

クスクス、と彼女が笑う。

背中のカトラリーがかしゃかしゃと音を立てて揺れた。

「言語汚染と意識の繋がりが抜けきるまで、口から零れる言葉が、呪詛と呪文を行き来する。そうやって行くうちに魔物になり果てたり、魔物を呼び寄せたり――――最終的に、呪詛しか吐けなくなったら、そのときは……」


 辺りが一瞬、黒い霧のようなもので陰る。

しかしそれは一瞬だった。足元の骨をヒールでこすりつけるように踏みつぶしながら彼女は言った。

「殺すしか無い」

「そうなった人が、居るってことですか?」

「奴隷市で売られた子や、戦時中に人間に付いた子とかね。今でも相当な怨みを抱えている……そういう人たちも、居る」

「そう、なんですね」

 いつか、殺し合わなくてはいけないのだろうか。

なんだか、悲しい話だったが、きっと当事者になればそうも言ってられなくなるのだろう。


「言語汚染は魔法汚染。魔法汚染は空気汚染。そして、心を、原動力を破壊する。心の自由が、敵の侵攻で汚されることがあってはならない」

「そうですね」


 ここから先の話は言語化すると難しい理論になってしまうのだけど、

一言でいうのなら、


「そんな時代でも、唯一、神様の加護の中で心を集められる人が居た。彼らは汚染の影響を最小限に留めていて、人々は勇者と呼んだ。

 ――――最初に作ったのが、まぁ、そんな感じの、魔力を扱える、汚染を食い留めることの出来そうな『勇者』を集めた自警団だったのよ」

「なるほど」

わかったような、わからないような。

そのうち、だんだん力の回収も加わったということなのか。

「ってどうやって集めるんですか」

「神族は次元を行き来出来るから」

「…………?」

「そんな顔しないで。私は幻影を司る魔女。心の中、夢の中を、誰よりも守っているのです。勇者を呼んでくるくらい当然のことよ」

「……」

わかったような、わからないような。

????

いや、うーん。難しいな。

「神様の加護を受けているなら、神様の声も届くって思えば良いわ。神族の声も」

「なるほど」



「にしても、その辺最近みんな帰ってこないの……此処はもっと人数が居るって知ってると思うけれど。どこで何をしてるんだか。最近戻って来て会ったのはキャンディくらい」

「えええええええええええええ!!!」

「どうかしたの? 」

「い、いえ……なんでもありません。ほんとに」


「じゃあ、またね」

2022年8月24日1時54分


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