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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
【本編:幻影の魔女】
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おまけ



昼。

 屋敷の外で待つ間、キャノは今「急に依頼が入って」出かけているキャンディに電話をかけていた。

リルはその傍でぼんやり、外を眺めている。

 屋敷、というものが懐かしい。なんだか年月が経ってところどころ綻びているけれど、それでも一応誰かが住んでいるだけあって、家としての風格は保っている。

「…………家、か」

実家のことを、少しだけ思いだしそうだった。

後ろでは、しんみりした気分をぶち壊すようにキャノが話すのが聞こえている。


「今、暇?」

「あぁ……まぁ、ひと段落ついてるかな、どうしたんだよ」

「ところで、私、前に言いそびれたことがあって、さ」

「あぁ」

「あなたから返してもらいたいものがあるんだ」

感情を込めずに言うと、キャノはすうっと息を吸い込む。

「えっ、なんか借りてた?」

気の抜けたような返事。

「私の純情!!!」


ビクッ、とリルは一瞬彼女の剣幕に圧倒される。

コトはまだ帰ってこないんだろうか、とちょっと思った。

「面と向かって言うと、殴りかかりそうだから……」

「…………」

リルは彼女をチラっと見た。おこだ。

「暇なときに、言っておこうと思ってたの」




 彼女に何があったのか、リルは知っている。

知っているけど、彼女の問題なのでただ見守るくらいである。

なかなかいう機会が無かったのか、そんなにまで言いたかったのか、

今かよ、とも思ったものの、どうせ、この手の話はいつしたところで大した代わりが無い事を知っているので、何も言わなかった。


「私のこと、どの雑誌にも、恋人とか、出てたこと、ないでしょ!?

今までずっとずぅぅぅっと、比較的クリーンなイメージを保ってるのに……っ」


「先日から、あんたが帰って来てからたびたび知らない女が先々で尋ねて来るの! どういう関係か、別れて、って 絡まれてるとこ見られて三角関係とか四角関係とか変な記事描かれたら、今まで築き上げてきた私の清純なイメージがっっ!」

(やれやれ……)

 なんでかわからないが、キャノとキャンディは微妙に、なんというか、

間が悪いと言うか、相性が悪いのか、昔からこうである。




「悪いわよっ!!」

向こうが、『それは俺が悪いのか?』とでも言ったのだろう、キャノが吠える。

「なんなの、あの女たち、私だって知らないのに! 誰も好んで不倫なんかしないのに、噂がぁぁ! ってゆーか、あの女わざとやってない!? さっさと振るか付き合うかしてくれない? 私関係ないもん」



(はぁ、やっぱり、私も中で聞いてくればよかったかな……)

 何かに憑りつかれてるのか?というくらいにキャンディが変な女性を引き連れてくるのもいつものことなのである。

「はぁ!? 待ってよ! なんなのそれ!」

突然キャノが叫んだので、今度はなんだ?と彼女を見る。

どうやらまたキャンディが何か言ってるらしい。

「関係ある? どういう意味!? 私はあの女に関わりたくないんだけど! ……してるわよ! 全部無視して、関わらないようにしてるけど、なんかですれ違うといっつも――――

もういい! こうなったら、なんかあったらあんたを盾代わりにサッと前に出すから!! あんたのせいでもあるんだから弾除けくらいにはなってよね!! 私もう知らないから!!」


「決着は、ついたか?」


キャノは目を輝かせて頷く。

「付いた。ちょっとスッキリした!」


「なら良いんだが……」

 彼女とは長い付き合いだ。

臆病だった彼女が幼い頃、強引な好意で大衆に晒され吊し上げられたことも、勝手に不倫に巻き込まれることも、それらがなんだかんだ言っても癒えたりはしないのも知っている。

 彼女自身、あまり愚痴を言わないが、

魔族からアイドルになるには差別と向き合いかなり努力しているわけなので、何年もずっと守って来ている清純派はそれだけ大変な偉業だっただろう。

 たった数日で不倫の噂が流れ、途端に整形とかなんとか出て実は本人が自覚してる以上にきつい。

 下積みの数年間を否定され、イメージ商売で一度イメージ付いたら損失もあるのに、彼も彼であまりにも軽すぎると思う。


 少しは自覚したらいいのだ。

 他人を好きになるというのは、無自覚な暴力でもあること、

軽い気持ちのいっときの好意や関心が、それ以上に他人を傷つけることがあること。



「なあ、とりあえず、なんか食いに行かないか?」

「そうだね、コトちゃんの話終わったかな」


 楽しそうに屋敷を伺う彼女を見ていると、なんだか、いろんなことを思いだしそうになるな、とリルはぼんやり考えた。

「どうかしたの?」

「いや……なんでもないんだけどさ」

「じゃ。昼買って来ようよ。ハンバーガー食べるでしょ?(決定事項)」

「決まってるのか」


なんで決定事項なんだろう。別に何でもいいけれど、ちょっと怖い。

「あとレモンのかき氷とー、クリスピー入りの……」

勝手に進んでいる話に、なんだか後ろ暗いものを感じるような、そうでないような。

「私甘いの苦手」

「え?ブドウ? ブドウは高くて、買えないわー」



(2022年7月30日1時39分‐2022年8月5日13時21分加筆)


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