同情して!カフカの事情
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高いところから街を見下ろすのが好きだった。
日焼けしたくないので被っているローブの下でなければ冷たい風が顔に当たって、もう少し心地よいのだろう。
(せっかくの青空なのにな……まぁ、しばらく仕方ないよね)
鳥籠をぶら下げて、屋根の上を歩いて居る少女は、手に持っていた端末で
あるアイドルの関連記事を表示して大笑いしていた。
「レレレレ~♪ 炎上、炎上、大炎上! カメラマンもスポンサーも協力してくれたし、なかなかうまく行くもんね」
「カフカ様……聊か、やり過ぎなのでは?」
後ろをついてきた、同じようなローブの少女、(便宜上、部下と呼んでおこう)が困ったように彼女を見上げる。
「うるっさい」
カフカはフードを脱ぎながら少女を睨みつける。
そして、ビシッとモニターに映る白銀の少女を指さした。最近ちょっと指名手配されているアイドルだ。
『カフカ』はある、切実な可哀想な理由のために、彼女のスポンサーの買収、イベントの炎上や妨害、変質者の送り込み、彼女が目立つところならどこでも送り込んでやっていた。
(しかし、最終的に意図的に火災を起こして指名手配までさせるなんて、どう考えてもやり過ぎている、と、カフカの周囲は思っている)
「いい!!? 『あの女』はね! 私の持っていたものを全部横から取っていったの!!だからしょうがないのよ!!!!」
『カフカ』にはどうしても、彼女が許せない切実な理由があった。
なので周りの批難を感じ取ると、どこであろうと勝手に演説を始めるのだ。
「みんな、キャノちゃんの話ばっかりする!! 私の方が先に売り出したのに!」
またいつもの語りが始まった。と、慣れた部下がメモを取り始める。
「箇条書きにするんで、少し待ってもらえます?」
・私の方が先に売り出したのに、それ以上に売り上げた。
・キャノちゃんが出てきた途端に、憧れていた海外ドラマも彼女を起用した。
・大好きな作家が、私の話は聞いてくれなかったのに、キャノちゃんのイベントには参加するっていってる
・ずっと好きだった人が、キャノちゃんのファンだって言った。
「信じられる? 私の好きなものばっかり、奪ってく! 今まで頑張ってきたこと否定されるみたいに彼氏も仕事も奪うんだよ? カフカの方が先に売り出したのに。わかる?」
わ、わかんねぇ……
部下Aは首を首を傾げた。
「カフカ様、彼氏居ましたっけ」
「これから彼氏になるって決めてる人が居るのよ!!」
これから決めてる人!!!????
なんだその新しい概念。
「なるほど」
「私の方が先に目を付けてて、私の方が先に好きになったのに、なんであいつなの? いいよね、整形も、ダイエットも大した努力もしないで振り向いてもらえて、どうしてわたしが好きになったものはみんなキャノちゃんの方に行くの?」
「そ、そうですね」
そういうところじゃないのかな。と、言えなくて、部下Aはとりあえず目を逸らした。カフカ様が努力しても手に入らないものを、みんな彼女が持って行ってしまう、ということらしい。
「私だって、白髪にしたのに! 私だって歌えるよ! わたしだって可愛いのに! 見た目も似てて、可愛くて、あいつなんて大したこと無いのにね? 事件も起こしてるし」
「そ、そうですね?」
見た目と、歌と、雰囲気が似てれば同じように好きになってくれる、と言うのならとっくの昔に海外ドラマだって、他の仕事だって決まってるだろう。
カフカは基本的に性格の方に難があり、『表に出していない前科』が、内部では回っているのだ。だけど彼女はずっと、他の人のせいだと思い込もうとしている。
そして自分の地位を守りたいがために、あらゆる手を駆使し、工作員を雇ってキャノを執拗に槍玉にあげているのだった。
「私も海外ドラマに出たかった……」
「お、おう」
やべぇなこの人、と部下が転職を考えていたときだった。
「あ、あいつ、また、来た!」
じっ、と、今居るビルと向かい合う別の建物のビルから、こっちを見て居る動物。
耳が大きいので猫みたいだが、
「幻獣-フェアリー種のフェネック……」
2022年7月28日16時34分




