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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
炎と少女
4/230

偶像(手配中のアイドル)


<font size="5">21:00</font>


 この世界で最も力を持つ、《要素系》の呪文に関しての制約は厳しい。特に、《火》は、恐れられているなかで有名なものであり、つい最近も、芸能人の坂下なんとかが、それを使ったと逮捕される報道があったばかりだ。今年から税金を8パーセント下げるというニュースを見ていたとき、同時に飛び込んで来たので琴も覚えている。

「妙だ……」

「……なにが、妙なんだよ?」

 疑問そうに呟く琴に、クルフィが反応する。ようやく着いたかと思えば、焼肉屋が本当に燃えてしまった。一瞬のことだ。誰かの意思を持ち、動かされているらしい炎は、消化活動で容易に消せるものではなさそうで、消防隊の拡声器かなにかでの、緊迫した声が、しきりに辺りを飛び交っている。

どうしたらいいかわからず、現在、二人は影に隠れて立ち尽くしていた。






「いや……魔力制限が、この近辺だけ、弱まってて……店って、特に、そういうの、厳重なはずなのに」

「わかった! あれだな!やり放題だな! ヒャッホー!」

 特に話も聞かず、クルフィははしゃぐ。魔力の制限が、少しであれど、なくなるのなら、それは大暴れしても大丈夫という思考である。

「あ、ちょ、ちょっと!」

 琴が、走り出した彼女を止めようとするが、彼女はすぐに足を止め、姿勢を崩した。先ほどまでの痛みが残っているのを忘れかけていたのだった。


「おおっと。そうだそうだ。魔族によくあるのが、回復し忘れで死ぬってやつだ……あるだけ使っちまうからな!」

「なにを主張したいんですかあなたは……」

「ちくしょー、歩いてもMPが回復しない!」

「……やるんですね、そういうの」












<font size="5">21:15</font>

 なんてふざけていると、突然、周囲がざわつきだした。


「なにかあったのか」


クルフィがキョロキョロと首を回す。


「みたいですね……」


 琴も顔を上げて周りをよく見てみた。多くの人の視線の先には、火の中を平然と歩き、屋根にのぼる誰かの姿があった。


「あれ──このひと……」

「ん?」


その人物は、逮捕されたはずの、元国民的美少女アイドル、坂下花菜奈(さかした はなな)だった。

 くるんくるんに巻いた背中くらいまでの銀髪を、ひとつに高々とまとめ、さらにそれを二つに分けてお団子にして、伸ばしている。

……よくわからないスタイルだが、とりあえずそれだけやれるくらい、髪が長い。

アイドルしか着られなさそうな、綺麗な布やスパンコールをあちこちにふんだんに散りばめた、輝くドレス。腰が細い。ぱっちりした目は、意思が強そうだと、琴は思っていた。歩きにくそうなブーツをはきこなしている。彼女は、よく響く甲高い声で挨拶。


『こんにちはああーん!』


 アイドルが、大音響(逮捕されたはずなのだが、今はマイクをつけているらしい)で、焼け続ける焼肉屋のてっぺんから声を上げるのだから、誰もが、唖然としてしまうしかない。

リアクション出来ない。

クルフィはドン引きしている。


『んー、にゃ!? リルっちのにおいー!』



「あいつ、なんでここに……」



 クルフィが、思わずその《舞台》から目をそらした。知り合いだ。屋根の看板を照らすライトが上向きだったなら、きっと、ますます舞台らしかっただろう。



「知り合いですか……あの、アイドルの坂下なんとかって人」


琴は、アイドルって、実物を見ると印象変わるなあくらいに思いながら、聞いた。名前がよく思い出せない。



「坂下ぁ? あのお気楽娘はそういう名前に変えてアイドルやってたのか……」



少しすると、はにゃにゃーん!!

などと、気の抜けた応援が飛び交い始め、ファンが集まってきた。クルフィは呆れて俯く。琴は、なにこの人、と上を見上げたまま固まる。目が合った。かと思ったら、彼女が見ていたのは、琴の隣にいる人物だった。


『リルっちー! そこにいたんだね!はにゃにゃだよ! 愛して』



 クルフィは最後まで聞かずに、指でねじるような動作をして、マイクを捻り壊す。引き寄せるには、人が多くて出来なかったが、壊すには数メートル先の距離で足りた。



「なあ、なーんも聞こえないよな、コト?」


「あ……えっと……」


 どう言おうかと思って、ちらりとうかがう。すると、彼女の目が、なんというかマジな感じだったので、琴は、必死に頷いた。まだ死にたくはない。


「あう……リルっち! 僕ちゃんと、そいつ、どっちが大事なの!」



 マイクが無くなったが、みんながシーンとしているのもあって、わりかし声が聞きとれた。クルフィが、聞こえない聞こえないーと、彼女が見えない位置に回ろうとするので、琴も聞こえないことにして、その場から離れようとする。


 その間に坂下花菜奈は「僕ちゃんと、リルっちは将来を誓ったよね!?」と叫ぶし、彼女のファンが口々に何か言ってざわついているし、クルフィは聞こえないと呟き続けるし、消防隊が『危ないので下がって!』の放送を、最大音量でしなければならず、現場は混沌を極めようとしていた。

「……なあ、コト」


 顔が見えないので、何を思っているかわからないが、クルフィが、ライトが消された看板を見上げたまま、琴に聞いた。淡々と。

その、今までと違うトーンに、琴は少し戸惑いながら答える。


「え、あ……はい」



「あいつ、どう思う」


看板のそばで、手を振っている少女を見る。

二十歳を過ぎたらしいが、とても、そうは見えない。人間年齢にしてはいけないのか。と琴は考える。

人間として売り出していたアイドルだったが、テレビで見た、最初から、琴は少し違うということを見抜いていた。



「どうって……あれは、えっと……とても、その……今ある炎を使っているようには、見えないっていうか。あの炎からは……違うものを感じるっていうか」



「私も、そう思うよ」


「じゃあ、これは、いったい……」



 とにかく、火を消さなければならないだろう。意思を持つ火は、自然に燃え広がりも、自然に消えもしない。ただそこに有り続け、近づいたもののみを、燃やす。

クルフィが叫ぶと、しっかり聞こえているらしい坂下が反応した。髪がふわ、と揺れる。



「おい、なんとかバナナ」

「昔みたいにー、キャノって呼んでくれなきゃ、やーだー! けど、わかった!」


 坂下花菜奈は、何気なく服の下、というかブーツの下に付けている靴下のガーターの辺りから挟んでいたらしいマイクを取りだした。ホルスターかよ、まだマイク持ってんのかよ、とクルフィが舌打ちする。



「みなさん──おやすみなさい!」


 小さく息を吸い、彼女がそう、マイクに語りかけると、キイイインとハウリングし、周囲に波が響き渡った。琴は一瞬、倒れそうになったが、しかしそんなことはなかった。クルフィは平然と、彼女を見上げる。


 周囲にいた、ざっと数百単位の人間が、それぞれ、眠っていた。立ったまま。近くに寄りかかっている人もいるが、総じて眠っているように見える。


「……これは」



 琴が唖然としていると、ストン、と看板から降り立った彼女が、近づいてくる。あの歩きにくそうなブーツで、よくそんなことが自然に出来るものだと思った。


「にひひ、僕ちゃんが得意なの、催眠だからね! ねー、リルっち」


 彼女は、クルフィに抱き付こうとした。しかし見事にかわされた。琴は、なにか巻き込まれないように、そっと距離を取りはじめる。しかし、『自分だけ逃げんな』とクルフィに睨まれて、やめた。

 

 しかし今は、細かいことは置いておこうと、琴はとりあえず通話ボタンを押す。


「はい……」



『そこにいる、キャノに会ったか』


 その男の声が、出るなりぶっきらぼうに要件を切り出した。予想出来ていた琴は、特に何も思わない。


「まあ……はい」


琴が返事をしながらちらっと、右側を見ると、隣は、なんだかわからないことになっていた。正しくは、クルフィが頬擦りされている。うまく押しやれないのか、もがいている。

(クルフィが、正気を失いかけているなんて、ただ者ではない気がする……)

一瞬、クルフィと目があった。


「わ、わわわ、私は……獅子を撃つのに、全力を用いることができないんだよ!……っ、ぎゃあああ!」


 よくわからないが、加減が苦手で、か弱そうな人には、手が出せないということだろうか。と琴は考える。



「──っていうか、なかなかいませんよ、獅子を全力で狩りにいく人類」


 兎と獅子が逆転している。というか、なぜその例えにしたのだろう。





自分が何しに来ていたのか、忘れそうだ。


 ちょうどそのとき、琴の携帯電話が鳴った。『メリーさんの羊』(ギターアレンジ)だ。やけに、ここでは場違いに陽気だなと、琴は考える。そろそろ変えようか。



 遠くから優しい笑顔だけを向けておこう。おれは関わる余地が無さそうだと、琴はとりあえず笑顔で手を振った。



 そのうち、押し倒されてもおかしくないかもしれない、と思ったが、いや、違う。じゃれているだけだ。緊迫感もないし。そうだそうだ。あんまり目が合わないうちに、通話に戻る。


『今回は彼女に、協力してもらうことになっている。うちに、所属しているんだ、一応』


「……火を、使ったのは……誰ですか?」



『暴走だ』



「発散されないエネルギーのみが、この場に溜まってしまったと……そういうことですか」


答えではなく、指示だけが告げられる。彼もなにやら急いでいるらしい。


『自分を、まだ人間だと思っている、変異者を、見つけて、そいつから──その《意思》の代わりとなっているものを、回収してくれ』


「わかりました」


琴は、少し動揺したが、努めて短く、悟られないように返事をした。


『ああ、それから』



「はい……」


『そこに来ている、彼女のファンの人間が、怪しい』


どういうことかと、聞こうとするころには、既に通話が切れていた。


(一方的だなあ、どうも……)

<font size="5">21:20</font>


 火は、一点ずつで、数ヶ所、集中して燃えていた。煙を吸わないように少し離れた場所で話す。


「なんつーか……キャノは、その」


 珍しく歯切れが悪いクルフィを新鮮に思いながら、琴はどうしたものかと思っていた。彼女に妙になついている(?)キャノは、琴を品定めするように眺めている。


「……視線が痛い」


呟いた言葉を、彼女の説明に頭を悩ませていたクルフィが拾った。


「あ、何か言ったか、コト」


「いえ、その、キャノさん……どうかしましたか……」


「むむ、コトちゃんかー、僕ちゃん、どうして一般人がここにいんのか、わかんないんだけど」



──と、いいながら、琴ではなく、クルフィに肘打ちする。クルフィはそれを頭だけで避けながら、ため息を吐いた。



「あんたこそ罪人としても今をときめいてるんだろ? なんでここに──」



「……そりゃあ、リルっちが来るって聞いたからだよ。僕ちゃんは火の術に関係ないし。いくら僕ちゃんのライブ会場がリアルに熱く燃え盛ったからって、ひどいよね」



「なるほど、リアルに燃え盛ったらそりゃあびっくりだよな……っていうか、そのしゃべり方、もうやめていいぞ」


「うん、わかった。ああ疲れた」


(うわ、突然淡白になったな……)


 琴にはなんの説明にもなっていない気がしたが、それよりも、優先すべきことを聞いた。


「あの……キャノさんのファンの中に、この暴走を起こしている人がいるかもしれません」


 琴が言うと、キャノは頷いて、寝ている人たちを見回す。



「うん。そう思うよ。前から、そんな気がしていたの。少しでも、暗示に抵抗できる力があるなら、寝たフリしてるんじゃないかな」


 突然、ずいぶんと話しやすくなってしまった。これはこれで、どうすればいいんだかわからない。……今まで散々テレビなどで見たあれは、ただのキャラ作りだったのだろうか。と、琴は考える。生きるって大変なんだなあと、少し同情に似た気分だ。

その視線を感じたのか、複雑そうに、彼女が言う。



「愛想をふりまくのに、普段、あのくらいテンションあげてないと、持たないんだ。まあ、もうそんな必要ないけど。リルっちとは地元が同じなの」



「わかりました……」


 説明について問い直す空気じゃなくなってしまったが、とりあえず寝たフリをしていそうな人を探すことにした。クルフィは既に、どこかに走っている。

後を追おうとしたら、キャノに呼び掛けられた。彼女の方に首を向ける。

真剣な目をしていた。



「──あんたさ、一般人って、どういう種族かって意味じゃなくて、職業的な話だったんだけど。もしかして、あのファンシー男に仕えてるの? ここに来たのもそういうこと? そういうことでリルっちが連れてきたなら、信用する」


それは、強く、意思を感じるしゃべり方だった。

なんだか、印象が変わった気がした。

アイドルに興味はないけれど……


「……はい。そういうことです」


 ファンシー男に触れなかったのは、なんとなく、その方が無難な気がしたからだ。



 クルフィを追いかけようとしていたら、待って、と言われた。


彼女が、マイクのスイッチを入れる。琴は、またあれかと耳を塞ぐ。


「──ってことでー、起きてるクズは僕ちゃんのとこまで来なさい!」


 キイイイインと、反響がこだましていくが、誰も、起きない。クズって、ファンじゃないのかと琴は思ったが、こういうのを喜ぶ人間もいるそうだ。ただ、琴には理解できそうになかった。 


一瞬、バチッ、と静電気みたいな音が、マイクにわずかに跳ね返った。しかしそれだけで、誰も起きていない。困惑する琴に、キャノはお構い無しで、どこかを目指して行く。


「方角がわかった。行くよっ、琴ちゃん!」

「あ、待って……」



 どこにだろうと思いつつ、横たわる人の山で埋まる駐車場を走って、最終的には、クルフィが一人の男の首を掴んでいる現場に遭遇した。


「強い反応がある。こいつだ」


……クルフィが、無防備な人に、かつあげかなにかする、犯罪的な図にしか見えないと、琴はつい思った。男は、まだらに禿げた60代くらいで、紺のスーツ姿だった。キョロキョロと、視線を動かして戸惑いを隠せずにいる。


「あの……」


男がおどおどと、喋り出した。クルフィは苛立っている。


「あ? んだよ。まだ息が出来るうちに、早く火を止めろ!」


「……これは、私が──?」


「そうだよ、早くしろ」


チッ、と吐き捨てるクルフィに、琴は、別の意味で、はらはらしていた。この人は一般人だ。そりゃ急に、こんな暴走を起こしてしまったのかもしれないがだけど、普段は善良な市民だろうと、思った。


 男は突然、気味悪く笑い出す。それから、ぶつぶつと呟いた。


「……私にも、使えたんだ……ははっ、私にも、使えたんだ。家内にフラれて……いいとこないと思ってたけど……格好いいじゃないか」



 聞いていたクルフィの拳に、静かに力が入る。だが、ぐっと堪えていた。


「こんなもん──」


 そんな力のせいで、彼女らは迫害されて、恐れられてきた。きっと、それを、格好いいなんて言われるのに、思うところがあるんだろう、と琴は考えた。だが、彼の状況も理解し、堪えているのだ。

人間だった、はずなのに、突然、こんなふうに──



「……制限されて、持つだけでお前でも即刻捕まっちまうような、こんな力が──いいところ?」


誰かが、後ろから、キツいトーンで叫んだ。キャノだった。今までの声とは比べ物にならない、怒りがこもっていた。


「許せない、許せない、許せない、許せないっ! お前みたいなクズ! 武器だよ、人を殺せるような、武器を、いつ、感情が跳んで制御が効かなくなるかわからない武器を、抱えて生きるんだよ! 頼んでもないのに、寿命を代償に、磨り減らして!」


 男が、一瞬、驚いたような顔をしていた。だが、本人になにかを確認することはしなかった。拒絶を感じたからだろうか。



 クルフィが、ふと冷静になる。今は彼女の方が、不安定で、危険なのだろう。うわーん、と泣き出してしまった。クルフィは困ったように頭に手をやりながら、視線を泳がせている。

そんな風に考えたことなかったな、と呟いたのが、琴にだけ聞こえた。


「あの……」


そっと、クルフィのそばまで出てきて琴は彼に声をかけた。男は、気弱そうな少年を見て、態度を変える。


「なんだ、ガキか……お前の連れなら、何とかしてくれないか?」


「……あ……」



 卑しい目。


(あれ……? なんか、どうして、だろう……)



それを見た瞬間に、何かを、思い出した気がする。どうしてか、説得しようとさっきから選んでいた言葉のならびが頭から次々と抜け落ち、冷淡な感情が溢れてきて──



「聞いてるのか? おい、迷惑してるんだ、私は」


「止めろ……さっさと」



 それは、今までにない、感情を排した声。男が怯む。

冷たい空気が、辺りを包んでいた。感じたことのない、嫌な空気。どろどろした波。


「なんだよ、これ……」


クルフィが身震いする。キャノは怯えて、思わず彼女の背中に隠れた。

なにが起こっているのか、誰もわからない。

「なあ、止めろよ。早く。死ぬ気でやれ。……俺はお前なんか、助けない……出来なきゃ殺るだけだ」


それは、その場の誰より冷えきった声だった。ひい、と男が怯え、それに合わせて自信をやや喪失した火が少しずつ小さくなっている。



 ひんやりした空気が、男の表情を固めていく。琴は無意識なのか、意識的になのか、彼女にかわってその首を掴み、男の頬を強く殴った。細身からは想像のつかない力だ。男の口から何かの塊が吐かれた。

琴は手を止めない。



 吐かれたのは気味の悪い、まがまがしい黒色の何かだ。それは、やがて煙になり、空中で消える。火も、同じように徐々に消えて無くなり、さっきまでの現場は、焦げた跡だけが残っていた。


(あれは……)


 クルフィはそれを見て何か考え込む。地面に小さな欠片が降ってきた。それはほとんど輝きのない、透明な玉だった。


 キャノは琴を呆然と見ていたが、やがてまた、変化に怯える。








終わっていない。琴は無表情で男を蹴りあげて──転がったのを見て、笑っていたのだった。


「ねっ、ど、どうしたの、あの子! おかしいよ」



 何度も何度も何度も、重点的に腹を蹴っている。ボコ、とそれに合わせて嫌な音が聞こえた。異様だった。キャノが顔をしかめる。クルフィも戸惑いを隠せずにいた。


「もう、終わっていいぞ、コト。帰ろうぜ、な?」


クルフィがコトの腕を掴み、声をかけたが、届かない。


「……消えろ」


「どうしたんだよ? それ、人間だぜ?」


「──には、価値なんて」


「なあ、おい」


「……え?」



 ふと、我に返った琴が、目の前で倒れている男を認識した。目を見開き、固まる。彼の前で、痣だらけで、シャツの腹の部分に重点的に靴跡や土汚れがつけられた男が、失神していた。



「ひどい怪我、誰が……こんなことしたんですか……!」


言ってから、靴跡と、自分の靴を見比べて、頭を捻る。クルフィが恐る恐る聞く。


「まさか……お前、覚えてないのか」


琴は首を傾げて、気まずそうに、男を見ている。


「ええっと、はい……まあ」




琴はぼんやり立ち、さっきと比べ物にならないほど、穏やかで、頼りなかった。














<font size="5">22:00</font>


 結局なにが源だったのか、よくわからなかった。クルフィは、たぶんそれ、琴が壊しちまったわ、と言ったが、それしか言わなかった。それぞれ、怒られるのを覚悟でタワーの地下に戻ったが、男はご苦労だった、と言った。にこやかに、労っている。



「あの、おれ……」



 琴は、なにかをいいかける。誰も触れない。クルフィは戸惑ってはいたが、そのうちすぐに、琴にこれまで通り接していた。過去に、力を使いすぎた自分が、わけがわからなくなり、拒絶されたことを、思いだしての判断だった。あのまがまがしく、黒い波にも、覚えがあった気がする。


 入り口に立ったままだった三人に、男は思い出したかのように、中に入るように言って、付け足した。


「それよりも、制御装置リミッターが外れていた原因が、わからないのが問題だ」


一体なにが、それよりも、なのか、その場に居た者はそれぞれ予想したが、やはり聞かない。クルフィが一歩動いて、上着のポケットから小さな玉を取りだし、男に向けた。



「──たぶん、これ、欠片だぜ。あそこの制御装置の。今日見つけたんだ」


 琴は、複雑そうに俯く。人間として暮らしてきた者は、リミッターの形状など、詳しく知らない。テレビでのニュース報道から想像するに、なにか埋め込まれる装置のようなものらしいが、普通に暮らしていれば関わりのない装置だった。

男が、なにか考える顔で、それを受け取る。手のひらに収まるサイズだ。


「これは……セルの一部分だな、恐らく」


クルフィが怖い顔になる。琴は、それはなんなのかと聞けずに、ひたすら俯いていた。自分が何をしたか、ぼんやりとだが思い出してきていた。



「──理性がほとんどないあのような男が、一定の、安定した炎を扱えるんですか?」


 黙っている二人にかわるように、キャノが深刻そうに、男に聞く。取り乱していた彼女は、今はだいぶん落ち着いていた。


「それが──不思議なんだ。こんなケース、聞いたことがない」


「誰かがリミッターをいじるだけじゃ、あんなことは出来ないですよね?」



「……あの男が……犯人じゃない、とか」


 琴が恐る恐る呟き、それから、はっとしたように口をつぐむ。誰も、答えない。話を戻すようにクルフィが言う。


「リミッターを外したやつと、男が、別……」



「待て。外れていたのは、セルの一個に過ぎない。たったそれだけでは」男が低い声になり答えた。琴は、話がよくわからなくて聞いてみた。


「セル?」


「セルというのは、リミッターの内部にある殻のある玉のようなものだよ。魔力を外気や魔女たちから抽出し、閉じ込めてもいる。

それとは別に滴定器と呼ばれるものがある」


クルフィがやけに冷静な声で解説してくれた。

滴定というのは標準液を中和するときの量を定めるために行う行為のことで、ここでは『魔力』の源となる成分をリミッターが抽出し、無力化、計測すること指す。




「おれ……あれは、押さえ付ける力みたいなの自体が、弱まっていると、思いました……なんていうか──」



 琴がそう呟いた。瞬間、他の三人の表情が、固まった。それから、いやそれは、とか、まさかそんなことが、と口々に言い出す。動揺している。



「……つまり、リミッターは、故障してなくて、正常だからこその、外部からの──制限解除? リミッターは一定量の魔力を制限してるけど……」



「外部から制限を解除するには一定量をある程度越えてしまう魔力か、それとも、リミッター自体、無効にするか、撹乱するような、力か──」



「制限の仕組み。一度、源のサンプル、エネルギーになっている成分の登録が、必要不可欠……そこからの引き算……?」


 キャノとクルフィが口々に言って、考えている。琴は、理解が追い付かない。男は、黙ったまま、彼女らを見守っている。


「……つまり、どういう──」


琴が口を開いて、聞くと、二人は同時に答えた。


「「意味がわからない!」」


「……はあ」



そういわれてしまうと、仕方がない。



「お前──あの男に、何を感じた?」



男が、ふと思い付いたように、琴に聞いた。

どういう意味がと測りかねていると、力の感じとか、印象とかだと言われて安堵する。



「……あれは、炎の感じじゃ、ありません」


「それは、どういう意味だ」


「炎だけど──なんていうか、火の要素、みたいなのじゃなくて──作られた、火っていうか……だから意思っていうより、なんていうのか……気持ちの悪い感じの……」



「作られた火、か」



なにか言い争い始めていたクルフィとキャノが、そのひとことで、ピタリと動きを止める。


「──今日は解散だ。ご苦労だった」


 そう言い残し、男は考える顔をして、出ていった。




00:00


「……リミッターに使われている《もの》が、気になるんだよなあ」


手のひらで、透明な玉を放り投げながら、クルフィが呟いた。空には月が輝いている。


夕飯は、三人とも近くのレストランで適当に済ませ、(こんな夜中に開いているところもあるらしい)あとは少し遊んでからの、帰り道だった。


(ちなみに、夕飯代のクルフィのぶんは、すべてキャノがすごく自然に払っていた。こういうことは、昔からあるのだろうか……と、琴は複雑だった)



「もしそれに仮想魔法が使われているのなら……」


そんなクルフィが言う。真剣な顔をしていた。ちなみにさっきはでかいハンバーグが乗ったチャレンジメニューとかいうのを、易々平らげていた、恐ろしい人物である。


 夏の夜は寒いな、と髪を下ろしており、そうすると、なお小顔に見えて、大人っぽかった。



「なんですか、それ」



琴は問う。キャノが答える。


「仕事中に、ちょっと聞いたことがある。ひとつの魔法から、波を真似て作った力だよ。


リミッターへの本物の要素設定量が足りない場合、代わりに使うことがあるらしいの。偽物の要素を作成することはそれを使えば可能かもね。あくまで機械の話であって、使うような人間は聞いたことないけど」






 セルの内部を数値として計算するには、リミッターの内部にもまた基準になる成分が必要だった。魔法を魔法で押さえつけているのだから皮肉な話だ。

 人間には使役できないが、ちかしい成分が作れることはわかっているらしくそれが、設定を上回る魔力であるかの基準を定めるのに使われるらしい。


「力自体を押さえつけるしくみとして、吸収して無効化するだけの……その……中和する力が必要では」


コトが聞くと、クルフィがそうなんだよなと呟く。なぜかどこか弱々しい声でもあった。

 聞く限り彼女たちも、詳しい構造は知らないようだ。


「術者にダイレクトにかかるんだから、

暗示系統……代々からの呪いに近いものかもしれないな。


依り代が国自体の規模なら出来なくはないだろ」




 そのときふと、コトが思い出したのは、持続系の力はどこかで解除しなければ、いつかは力尽きることだった。


「リミッターには寿命が?」

「ああ、あるよ!」


キャノが楽しそうな声で言う。


「でも、定期的に管理されるから、滅多に、使われなくなったリミッターには出会わないけど」


クルフィは夜風に長い髪を靡かせながら、くすくすと笑った。


「リミッターをこわそうとしたやつも居たらしいぜ」

キャノもふふふ、と笑った。


「あぁ、なんかたまに聞くね。でも……捕まっちゃうから、みんなそんなにやらないみたい、あぁ……あまりおおっぴらにこの手の話をすると、まずいか」


そして少し寂しそうにした。


「以前もそう。民間をスパイと断定しての蹂躙虐殺が行われた。

 一般市民の情報を抜き出しているのは企業側なのに――企業が戦争を仕掛けたの。魔女狩りの頃から、何も変わっていない」





『リミッターに、使われているもの』


『持続的なもの』


『人間が、取り込む場合がある』


国規模の依り代……



 考えれば考えるほど、それの正体が、

教わらない答えが、

不気味なものだろうことが、コトにもなんとなく理解できてきていた。


知っては、戻れない気さえする。





 彼女は、買ってきたアイスを食べながら言っていた。ちなみに、炒飯を食べて、ラーメンを食べて、オムライスを食べていた。わけがわからない。魔力があるほどに、もしかして腹でも減るのだろうかと、琴は不安になる。ちなみに、彼はちまちまと、うどんをすすった。



今のように難しい顔をしていると、今までテレビで見ていたのよりも、ずっと琴には、好感が持てる気がした。

今日の夜は、蒸し暑い──と思うが、クルフィはどことなく寒そうである。

彼女は風邪でも、ひきかけているのかな……と琴は気になってしまう。



「……そこから着想を得て、試しているやつがいるのかな……それとも、事故か? 人間に取り込まれるような事例は、今までなかった」


観察に気付いたのか、気まずそうにクルフィが付け足す。


「はあ……小麦粉がないから米粉を使ったみたいな感じですね?」


「琴ちゃん、すごいざっくりまとめたねー」



──ちなみに、キャノが変装して泊まっているらしい、市内のホテルに向かって、三人並んで歩いている。あんまり楽しくない会話を、ほのぼのとしながら。異様な感じだった。



 どうやって逃げたのか知らないが現在指名手配中のアイドルと、魔族だった少女と、人間のはずの少年。

「鬼退治は……違うな」


琴は呟く。夜風が心地好くて、なんだか酔っている気分だった。


















<font size="5">00:00</font>



「……リミッターに使われている《もの》が、気になるんだよなあ」


手のひらで、透明な玉を放り投げながら、クルフィが呟いた。空には月が輝いている。


夕飯は、三人とも近くのレストランで適当に済ませ、(こんな夜中に開いているところもあるらしい)あとは少し遊んでからの、帰り道だった。


(ちなみに、夕飯代のクルフィのぶんは、すべてキャノがすごく自然に払っていた。こういうことは、昔からあるのだろうか……と、琴は複雑だった)



「もしそれに仮想魔法が使われているのなら……」


そんなクルフィが言う。真剣な顔をしていた。ちなみにさっきはでかいハンバーグが乗ったチャレンジメニューとかいうのを、易々平らげていた、恐ろしい人物である。


 夏の夜は寒いな、と髪を下ろしており、そうすると、なお小顔に見えて、大人っぽかった。



「なんですか、それ」



琴は問う。キャノが答える。


「仕事中に、ちょっと聞いたことがある。ひとつの魔法から、波を真似て作った力だよ。


リミッターへの本物の要素設定量が足りない場合、代わりに使うことがあるらしいの。偽物の要素を作成することはそれを使えば可能かもね。あくまで機械の話であって、使うような人間は聞いたことないけど」






 セルの内部を数値として計算するには、リミッターの内部にもまた基準になる成分が必要だった。魔法を魔法で押さえつけているのだから皮肉な話だ。


 人間には使役できないが、ちかしい成分が作れることはわかっているらしくそれが、設定を上回る魔力であるかの基準を定めるのに使われるらしい。


「力自体を押さえつけるしくみとして、吸収して無効化するだけの……その……中和する力が必要では」


コトが聞くと、クルフィがそうなんだよなと呟く。なぜかどこか弱々しい声でもあった。

 聞く限り彼女たちも、詳しい構造は知らないようだ。


「術者にダイレクトにかかるんだから、

暗示系統……代々からの呪いに近いものかもしれないな。


依り代が国自体の規模なら出来なくはないだろ」




 そのときふと、コトが思い出したのは、持続系の力はどこかで解除しなければ、いつかは力尽きることだった。


「リミッターには寿命が?」

「ああ、あるよ!」


キャノが楽しそうな声で言う。


「でも、定期的に管理されるから、滅多に、使われなくなったリミッターには出会わないけど」


クルフィは夜風に長い髪を靡かせながら、くすくすと笑った。


「リミッターをこわそうとしたやつも居たらしいぜ」

キャノもふふふ、と笑った。

「あぁ、なんかたまに聞くね。でも……捕まっちゃうから、みんなそんなにやらないみたい」





『リミッターに、使われているもの』


『持続的なもの』


『人間が、取り込む場合がある』


国規模の依り代……



 考えれば考えるほど、それの正体が、

教わらない答えが、

不気味なものだろうことが、コトにもなんとなく理解できてきていた。


知っては、戻れない気さえする。





 彼女は、買ってきたアイスを食べながら言っていた。ちなみに、炒飯を食べて、ラーメンを食べて、オムライスを食べていた。わけがわからない。魔力があるほどに、もしかして腹でも減るのだろうかと、琴は不安になる。ちなみに、彼はちまちまと、うどんをすすった。



今のように難しい顔をしていると、今までテレビで見ていたのよりも、ずっと琴には、好感が持てる気がした。

今日の夜は、蒸し暑い──と思うが、クルフィはどことなく寒そうである。

彼女は風邪でも、ひきかけているのかな……と琴は気になってしまう。



「……そこから着想を得て、試しているやつがいるのかな……それとも、事故か? 人間に取り込まれるような事例は、今までなかった」


観察に気付いたのか、気まずそうにクルフィが付け足す。


「はあ……小麦粉がないから米粉を使ったみたいな感じですね?」


「琴ちゃん、すごいざっくりまとめたねー」



──ちなみに、キャノが変装して泊まっているらしい、市内のホテルに向かって、三人並んで歩いている。あんまり楽しくない会話を、ほのぼのとしながら。異様な感じだった。



 どうやって逃げたのか知らないが現在指名手配中のアイドルと、魔族だった少女と、人間のはずの少年。

「鬼退治は……違うな」


琴は呟く。夜風が心地好くて、なんだか酔っている気分だった。


「今は、魔女じゃなく鬼、鬼狩りって言っているらしいよ」


キャノが小さく呟く。


「え?」


「ううん。何でもないの……憎む相手を、種族で呼ぶだなんて、古いと思う。それだけ」













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 ホテルに着くまでの間、二人がしみじみと、こんな話をしていた。



「……キャノ、今日お前の部屋に泊まっていいか」


「いいけど、シングルだから狭いよ」


「構わない。家がない」


項垂れたクルフィにキャノがため息を吐く。だけど嬉しそうだった。この人どこで寝るつもりだろうと琴は密かに心配していたが、宛があって良かったと思った。



 さすがに自分の家に連れ帰るのは、いろいろ問題になるかもしれないと思ったし、宿代を貸すほどお金もなかったから、密かに安心する。



「……まったくそそっかしいんだから。宿も取らずに旅してたの? 昔からだよね。肉が足りなくて生き倒れてたのを私が拾って、全部世話してさ───」


「感謝はしてる。世話になったよ、いや、今もか……また世話になるとは思わなかった。まあ、なるべくならなりたくなかったけど」



「なんで!? なんでなんで!」



「うるせーからだよ……頭痛い……」


「それ風邪だよ! 僕ちゃんは悪くないし」


「カメラないんだから、そのしゃべり方やめろ……」


 拾われて飼われてたのか、と琴は衝撃的な気分になったものだが、言えはしなかった。だから言いづらそうだったのだろうか。あまり深く突っ込むと、聞いちゃいけない部分まで聞いてしまいそうなので、気にしないことにした。

人のことなどあまり深くは知りすぎない方がいい。



「お前は帰るのか」



 入り口が見えてきた辺りでクルフィが聞いた。琴は頷いて、反対方向へと歩き出す。少し寂しく思ったが、家に帰らないのはまずいし、なによりもホテルに泊まるわけにはいかない。


 彼女は、歩き出した琴を、名前を呼んで、振り向かせて聞いた。



「大丈夫か?」



 心配そうに投げ掛けられて、琴は首をかしげる。


「あなたこそ、具合悪そうですが……」


「いや、私は大丈夫。──でも、コト。お前、もしかしたら」



 彼女は何かを言った。なんと言ったのか、琴は理解し難かったので、とりあえず聞かないふりをした。


「じゃあ、また──えっと……明日」



キャノが手を振っている。クルフィは何か考えている、難しい顔をして琴を見ていた。歩道を渡りながら、琴は彼女に言われた言葉の意味を考える。


朝が来そうだったが、どうでもいい。


(少し、ふらつこう。コンビニくらいなら、空いてるだろう……)

 琴は、複雑な顔をしながら、近くに見えたコンビニの明かりを目指し、まっすぐに道を歩く。駅の近くの通りは、ホテルや飲み屋、観光関係の施設でこんな時間も賑わっていた。ビルの液晶テレビが、さっきの焼肉屋の不審火についてを、もう取り上げている。



専門家の男が話すのを、ぼんやり聞きながら、あの人は本当にどうやって逃げたのだろうと思った。





 彼女の、叫んでいたところを思い出す。


(力を持つことが、必ずしも素晴らしいわけではないよな……)



 テレビでは、自分は人間で、人間はあらゆる要素を自分の外部のものとして扱ってきて、今では僅かにしかいないらしい魔族種との違いは、内側に組み込むかどうかだと、男が語っていた。



 そして、自分に組み込んだ物があるということは、外部からの影響も、同じように受けやすいらしい。

火を扱える物であっても、油断すれば燃やされて命を落とすことはあるらしく、過去にそういうことが多発していたようだ。


『火を扱えるなら、火では死ぬことがない』という、誤った認識が巻き起こしてきた惨劇の様子が、テレビに流されている。



 でも、誰も信じないような現代で、本気で扱っているわけではないだろう。どうやら、オカルト系の番組らしい。映る専門家も、ゲストの芸能人も、笑っているだけで、誰も本当には信じてなさそうに見えた。信じていようがいまいが、琴には関係なかったが。



 数百年前ほどに、各地であった《その出来事》は、後に再来の魔女狩りと呼ばれていた。彼ら、彼女らを殺してきたのは人間だった。それは、昔なにかの本で読んだことがある。家にあった、古い絵本だろうか。琴は、誰にも言わなかったが、それを密かに、ずっと信じていた。



「おれは、本当に、人間じゃないのかな──おれは」


 よくよく考えてみたが、違ったら、なんだっていうんだろうか。なぜおれは苦しかったのだろう。

びっくりはしたが、そういえば、今の生活が変わるわけではない。隠して生きることを選ぶくらいだろう。



 力がどうあろうがなかろうが、理解されないものは、無いも同じ扱いをされるのだと琴は思うし、自分も完全信じているわけではない。誰にも迷惑をかけないように、人一倍気をつかい、違和感や自己矛盾を抱えても、生きていける、それだけのこと。

そう。なにかのファンタジーみたいに、自分自身で、その力を誇りに生きられる世界でないと、こんなものは、苦しいだけだと、思う。

「だったら、見ないふりをしていたいのに」



 クルフィの言ったことばが、脳内に繰り返される。なんとなく嫌な気分だった。さっきまではいい気分だったのに。そう思うことで、自分自身が、また嫌いになってしまいそうで、考えたくない。



「おれって、なんだったのかな……」


ずっと、人間として生きてきたのに。何度考えても、答えがわからなかった。


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