双子とコトとキャンディ
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「障がい、能力、他人と違う、だからって目の前のことから逃げても、誰も助けてくれないのよ。余計駄目な自分になるだけだから、そんなことで、勝手に学歴とか仕事とか人生を棒に振るのって馬鹿みたいじゃない」
キャノの言葉が胸を刺す。
「それで、誰かのせいにしても何にも変わらない。惨めなだけ」
痛い。彼女は、けれど、それを、実践している。
コトはなにか、言おうとしたが同時に、頭痛が走った。
頭が割れるようだ。じんじんと脈打ちながら、痛み、それと同時に、コトの脳裏にはなにかが浮かんでくる。
海辺、断崖の家、二人の、少女の姿。
「白銀の……双子……」
そう、あの海辺に白銀の、双子が居た。
嵐の日に幼い、女の子たちが居て、
それで俺は、液体の入った瓶を────
「お、れは、なにを、言ってるんだ?」
なんの記憶だ、なんの映像だ、なんで今──
「え?」
キャノが目を丸くする。
双子、が、なぜか、やけに……
いや、違う、俺は。わからない。
「いや、なんでも、ありません」
コトは辺りを見渡した。いつもと変わらない日本の、いつもと変わらない町並み。夜が近づいているのか、既にだいぶん辺りは薄暗くなってきた。
路地裏。ちょっと、ほっとする。
と、同時に思い出した。
「あ! そうだ、キャンディさんがどうなったか確かめてないですね」
キャノは「あー、確かにどうせ暇だから行こっか」と言った。
「仲が、よくないんですか?」
余計な世話だがコトは聞いてみた。クルフィもそういえばよく、彼を避けて居るし(テンプレになってきた)
「んー、そうゆーんじゃないんだけど……学生んときにちょっと……ね」
同時に、頭上から叫び声がした。
「ほら、フレテッセ! 下! 早く行きなさい!」
ビルの屋根上に女子高生が、からあげと一緒にいる。キャンディは……居ない。
逃げられたんだろうか。とか考えるうちに、キャノがとっさに腕を引いた。
「え?」
倒れそうになりながら、少し体を傾けると同時に、背中をなにかがすり抜けて行く。
「喧しいって、の。はぁーああ……」
背後からは聞いたばかりのような誰かの声。それから……弾丸だ、と目の前に向けられた銃を見てようやく思った。
どうやらさっきの彼が追って来たらしい。疲れているのか、眼鏡の奥の目が異様に冷たく輝いて見える。
「フレテッセ、ターゲット・マーク」
コトたちはフレテッセに関わらないよう走り出す。まともに争っても目立つだけだ。キャノは、びっくりした、とまるで他人事のように答える。
「おい! 人の話しは、最後まで聞こうねー!」
背後から声がしているが、それどころじゃない。っていうか帰って寝たい。
威嚇のためか、何度か銃声が響き、弾が放たれているが確かめるのすら億劫だったし、それに……自分より戦闘経験があるのだろう彼女が撤退する以上、更に足手まといになる自分が何をすることもない、とコトは考える。
やがて角を曲がり、横断歩道に行くか更に脇道に入るかというところでコトの端末に連絡が入り、メリーさんの羊が流れた。
「……はい」
『その辺りに、魔物がいないか』
端末を耳に当てると、聞きなれた男の声が端的に訊ねてくる。
「はい?」
『隔離しているはずなんだが、逃げたようだ』
相変わらず情報が少ない!
「えっと、魔物? とにかく探してみます、それでどういう──」
コトは訊ねかえそうとしたが、そのときには、既に通話が切られていた。
「うちのお婆ちゃんみたいな切り方だ」
ふと、しばらく進んでからフレテッセが追って来ないことに気が付いた。
キャノも同じらしく、辺りを警戒しながら見渡して──と、いうところでちょうど背後から声が響いてきた。
だいたいこういうタイミングなんだよなと
、なんとなく残念なような期待通りなような。二人はしぶしぶ振り向いた。
「もう、振り向かない。さよなら。大好きでした……! ってね」
フレテッセは、弾を詰め替えながらゆっくりこちらを見据えて歩いて来ていた。
まさか、どこかに替えを取りに行ってたのか。しかもなんだか、目付きが違う。
「気持ち悪いこと言わないで!」
キャノがフレテッセを睨み付ける。
彼はあえて、コトたちを外してさらに奥、どこかのビルの方角に続けて発砲した。
「──おっと、当たると思った?」
寝不足でハイになっているのだろうか、今の彼は心なしか陽気な気がする。
「ダザン……ソメイユ、ク、シャルメ、トニマージュ」
キャノは何語かわからない言葉で、彼に話しかける。フレテッセはニヤリと笑った。
「懐かしいね、それ。人間用に噛み砕かれた言語だろう?」
弾が放たれた方角から、叫び声がする。
通行人に当たっていたらしい。
キャノは、なにか驚いたように目を丸くする。背後では、建物付近にいた男がすごい速度で体が燃え上がり、炭に近付いて行っている。
「あんたらを真似た魔法照射武器だ、先に見せておきたかった」
「……貴方たちは、どこまでも、異能力に被せる気か」
コトはなんだか腹が立った。
「居場所が無い人間はこうするしか無いんだ」
フレテッセは悪怯れる様子もなく、愉快そうに火事の現場を見守っている。
「あー、せめて力があったらなぁー」
社長に認めて欲しいのか、世界に認めて欲しいのか、彼にとって、力はなにを意味するのだろう?
なんだか、世間知らずの子どもみたいだ。
「居場所が無いのはお前たちだけじゃない……奪ったって意味がないんだ、どうして」
どうして、わからないんだろう。
どうして、解ることが出来ないんだろう。
迫害されて来たのなら、忌まれて来たのなら、そう考えるのは甘いのだろうか。
──お風呂壊さないでよ!?
──怖かったんだから!
──地震起こすのやめてくれる?
(居場所が揺らぐ。簡単に揺らぐんだ。
ちょっとしたことが、なにかを壊す……)
左右を確認して横断歩道を渡り、走り出す。
通行人が心配だ。
誰かが通報したらしく、救急車と消防車が向かって来ていた。
俺も、早く、彼のところに行って──
コトが混乱しながら向かおうとする中、キャノがその肩を掴んだ。
「でも!」
振り向くと、彼女は悲しそうにコトに告げる。
「私たちを真似た武器なら、私たちが疑われる」
.
キャノは首を横に振った。
「奴らはいつもそう。自分たちの名は汚したくないからって、無理矢理に発想を準備して、真似をしたものを作って、こちら側が悪いみたいに押し付けて世間に流す」
ほら見て、と彼女は遠くに見える液晶ディスプレイを指差した。
「悪事をみんな相手に責任転嫁してアピールする、そういう文化が出来上がっている人たちも居るの」
そこには、白っぽくも銀の髪をした少女──が映されていた。ライブ映像ではなく、何かの再現映像だった。舞台は山奥の森、民家の立ち並ぶ場所。
『彼女』はそこでキツい目付きで何やら大声で喚き散らしている様子。言い方は悪いが、キャノよりはいささか派手さに欠けた顔立ちだったのでさほど似てはいない。物真似、だろうか。
「──えと……」
音声は、ここからだとよく聞こえない。キャノは耳が良いのか、それとも知っている番組だからなのか、番組の内容らしきナレーションを呟いた。
「『魔女狩りが起きるまで。魔女はこうやって人々を欺き、奇妙な術で人々を操り災いをもたらしたのです』」
「『──教などが主流の国々では、神に背くもや人々を惑わすものを悪魔と表し、そして主に悪魔と契約した者のことを、魔女と呼んで忌み嫌いました』
『そのとき××村や込神町付近に現れたのが、透き通った白い肌に、真っ赤な目をした銀髪の魔女!』」
(頭痛が、する……)
コトはなんだか変な感覚に見舞われて頭を押さえる。
「ほら、また責任転嫁」
キャノは無表情で画面を見上げていた。見慣れている、けれどあまり見たいものではない、そんな感じに、どこか辛そうに見えた。
「人間を殺したのは、人間だったからよ。普通は見分けることなんか出来ないのに、人間から探した。なにかを殺して安心したかったからにしか思えないわ。単に私たちを殺せなかっただけ」彼女はぶつぶつと独り言を唱える。映像は初期の魔女狩り文化の話のようだが、それを、魔女狩り、と言うことに思うところが彼女にはあるらしい。
──あまり口にする者はいないが、実は初期の魔女狩りは、多くの人間が見立てられて殺されている。言われてみれば『魔女狩り』という名前でありながらに人間殺しの口実のために見立てたものだった、と考える彼女たちにとって、あの文化は責任転嫁も良いところだったのか。
(なんか、日本でもそういう事件あったな……)
彼女と映像とを見ていると、なんとなく、感じたことを口にしていた。
「──魔女って、やっぱり、目が赤かったりするんですか」
「うーん、真っ赤な目をしたら魔女って、特に、悪い魔女っていうのは、昔よく、流行ったんだけれど、別に全員じゃない。
ただ、やっぱり、偏見はあって……それでも……こうやって、みんなの前でライブとかして活動していたら、少し、風向きがマシになるかなって、信じてた部分もあるんだ、けどね。難しいなあ」
その繊細な『特徴』を、こうやって、大衆に向けて悪い印象で流して、あの不気味でひきつった演技で塗り重ねようとしている。変えようとした彼女の努力そのものを嘲笑っている。そのことに慣れてしまうだなんて、なんて残酷なのだろう。
「──人の心がないな。違う部分で、やれば良いのに」
気が付くと、救急車が通り過ぎていく。消火活動はまだ行われているようだった。
……そこで、コトはふと『指名手配犯』を思い出す。呑気に遊んだり一緒に居たから忘れかけていた。確かに火災現場に指名手配犯が出てきたら大問題だ。というか、今は見つかって無いのだろうか?
(2021年 09月09日 17時46分 9/1223:40加筆)
考えているうちに走って来た方向から右、すぐ脇にある建物の裏からなにかが響いてくる。もしかしたら、こっちに彼らが居るのかもしれない。
(それか、あの女子高生?)
コトは考える傍らで、どうにかして遠隔で、火を鎮められないだろうかと思った。
術が働いているというわけではないが、模造品はそれなりに力を保って居る。
出来ないだろうか、そう、あのときみたいに──
とりあえず念じてはみるものの、何をどうすれば良いのか咄嗟にわからなかった。
歩道の途中で隊員の必死の消化活動が行われている。
どうしよう、どうしよう……
「なかなか消えないねー! 助けてあげましょうか?」
おろおろしていると背後から女性らしい声がかかる。コトはキャノが言ったのだと思い、え? と振り向く。
すぐそばに居たのはモーシャンだった。
そして、彼女が話しかけているのはキャノだ。
「その話なら、断ったわよ?」
ビルの裏道。薄暗い中、いつになく刺々しい言い方でキャノは応えているが、表情はよく見えない。
「でも、もう一度、聞く」
「はーい」
「仮に──私がそちらに付いたら、他の子はどうなるの?」
「他の子ぉ? 関係ないじゃん」
モーシャンはあっけらかんと答えた。
「じゃあ話はおしまい。周りを蹴散らして、みんなに酷いことをしてまで私をつかせたって何も良くない」
「えっ、ちょっと待って話は」
「私にだけは公の場で恨みを買わないようにしてるけど、
そのときは代わりに周りから嫌がらせをしてるのも、知っているんだから。
それで信用出来る人に見えると思う?」
「そんなの、別に、私……、それに」
「そっちはやめないのよね? それで会社が媚を売っても、何にも響かないけれど」
キャノはなにか言いかけたモーシャンから目をそらして少し屈むと、軽やかな音をたてて金具を外し、ホルスターからマイクを出して──声を使った。
あああ、と甲高い声が周囲にハウリングする。
衝撃波が火の方に向かったが、それは消えない。
「んー、おっかしいなぁ……普通のだとこれで消えたりするけど」
人工魔法は普通の魔法と違う。あのときにキケルを止められたのはそのためなのだろうか?
火は止まらなかった。
奥の方に見える身体はかなり損傷が進んでいる。見ているのも辛くなるほどだ。
「ちなみにだけど、モーシャンは、どうやって止めるつもり?」
キャノが聞くと、モーシャンは「火を打ち消す効果がある銃を使えばいいじゃない」と言った。「確かフレテッセが持ってたし、私が話して来てあげても──」
「え、フレテッセならさっき向こうで」
「あまり時間がない」
キャノたちが話す中(どうやら知り合いらしい)コトは、ぽつりと呟く。
こういった人工武器の制御が効きにくいのは、力が誰のものでもないから。だけど、だからといって消せないものでも無いはずだ。
……そういえば、からあげが見えない。
「──ん?」
(なにか、今………)
コトが思いそうになっていた、その瞬間、今度は車が数台続けて近辺にやって来るのが見えた。捜索が始まっている。
俺たちの? 「いや、魔物の捕獲か」
「もういい。たとえそれがあなたの条件になろうと他の子の対応もやめない……
」
モーシャンは話し合いがある程度まとまとまったらしい。
「貴方たちは、ジミの土産!」
言うなり、片足で強くアスファルトを蹴り、その回転の反動に合わせ反対の足をこちらに鋭く向けた。
「やぁっ!」
蹴りがキャノの方に向かって繰り出される。突き飛ばされた彼女は、どうにか受け身をとって着地する。
表情はよくわからないが、地面に投げられて痛そうに見えた。
「……アイドルの炎上事件ってさぁ、あれ、あんたなの? 一瞬ファンの男が後から疑われて話題になりかけたけど。まーた案件」
モーシャンが彼女のもとに移動すると、見下ろしながら聞いた。キャノは何も言わない。
「あれ魔女狩り組織を疑ったり、陰謀論がいまだにうるさいんだよねぇ。消しきれなかったしぃ……あー、嫌だ! あんたらを利用した利益から上役に流して換金する黄金パターンがこっちは出来てるんだよ」
やがてモーシャンの独り言が始まったのを良いことに、キャノはゆっくり起きあがりながら、手のほこりを払った。
「本っ当に貴方たちは、見立てるのが好きね。私を放火犯に見立てて、一体なんの意味があるのか知らないけど……、なに、黄金パターンとかいうのの為に見立てる必要があるの?」
「あんたたちに最初から救いなんかない!
幸せなんか訪れない!
黄金パターンは崩れないんだ!
だから黙って、靴を脱ぎなさい!」
顔を紅潮させたモーシャンが叫んだ。
再びキャノのほうに向かう。
キャノはちらっ、とコトの方を見る。
コトは黙って駆け出した。
(9/1520:31)
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「俺の出番はなかったみたいだな」
ニッ、と笑ってキャンディはその場所に着地した。少女が一人佇んでおり、傍らには雑に縄にかけられた魔物が眠って居る。
キャンディが屋根の上を跳んで逃げて居たところ、真下で乱闘を目撃した。
グガナイヤと、リュミエールルが何故街中に居るかはわからないが、戦っていたのは知っている少女だったのでひとまず参上してみたが、そのときには戦いは既に彼女の圧勝で終わっていた。
「あんな雑魚。別にたいしたこと無い。当然だ」
そこで先程まで魔物を捕獲していた少女はしれっと答えた。少年と話すときよりもいくらか淡々としている。
「なぁーんだー。昔はゴースト」
キャンディが何か言いかけ、少女は咄嗟に遮った。
「昔の話はするなよ」
じろっと睨む彼女の傍らでキャンディはくすくすと笑う。
「……笑うな」
強くなりたいのは、弱いから。
いくら強くなっても足りない。
「ごめん、だって。今後の予定は?」
「魔物は捕まえたし、連絡はしたし、あとは見回りして帰るくらい」
キャノとキャンディと少女は幼馴染みだ。
キャンディは彼女が居た魔女学校には居なかったが、色々とあって、ある場所で知り合った。
キャンディは、ふーん、と適当な相槌を打つと、相変わらずの穏やかな笑みを浮かべた。
「──わかってるよ。言いたいことは」
少女は淡々と呟いた。
だからたまに、苦しくなる。
自分を見ないで欲しい。
自分がどこに在るのかわからない。
(どんなに鍛えたところで、思い出が全て書き変わるわけではないし、それに……)
うつむきながら歩き出す。
夜が近い。薄暗いために辺りが遠くまで見渡せない。空気が冷たい。
「まっ、無事でなにより」
キャンディはへらへらしながらすぐ隣を歩いていた。
戦っていた魔物──リュミエールルはゴースト系によく似た青白い肌をしているので、キャンディは心配だった。かつて、怖いものを目撃してはその場に蹲って居た幼い少女の面影が見えた気がしたためだ。
そのときにリルたん、とふざけつつ呼んでいた。
今の彼女は、あの頃と違うと頭ではわかって居てもやっぱり、自分が守らなくてはと思ってしまう。キャノもときより彼女を子ども扱いするが彼女にとっては複雑なようだった。
「別に、騙しちゃいないだろ、コトは、今のお前を評価してる、俺らだって」
「だから、いつの話してんだよ……」
もう、と顔を覆う少女の横でハハハハ、とキャンディは肩を震わせて笑う。
「……数年? 数十年? 二度と会うことは無いと思ってたのに、人ってわからないもんだな」
「こっちだって……お前に会えるとは考えてなかったのに」.
「あ、そういえば、コトって」
「あいつがどうかしたのか?」
「いや……着替えのときに見たんだけど、あいつ腹の皮膚の色が半分だけ違うんだよな。普段服で隠れて全然見えねーけど」
少女はじとっとした目で彼を見た。
「まさかお前……『あのときの惨劇』に飽き足らず」
なにかを思いだしながら、彼女は呆れのような悲しみのような目をする。この子には何を言っても意味がないのかというような、そんな目だ。
「違う違う!! 違う何もしてない!」
「本当かぁ? 神に誓えるやつか?」
「本当だよ!」
「まっ、良いけど、それがどうした」
「いや、ちょっと……やつを……ルクレイツァを思い出しちまっただけだ」
少女は、表情を変えなかった。笑いも呆れも怒りもしない、これはこれで、彼には想定外だ。
「肌だけなら、居るだろわりと。怪我や火傷や水疱瘡で変わるやつも居るし」
「……あぁ……」
キャンディは言葉を濁す。なぜ自分でも咄嗟に言い淀んだのかうまく説明が出来ない。変な疑惑をかけられてまで、つい、言いたくなりかけたのは、そう、なんというのか……漠然とした……
──あいつは……本当に『一人』なのか?
二人居ると言う方が、納得してしまうような。そういう、不思議な感覚だったのだが。
「いや……、いや、待て……ルクレイツァは……ルクレイツェオと一緒に、どっか行っちまったんじゃなかったか」
キャンディが考えているうちにだんだん少女の顔が青ざめてきて、そんなことを言う。「だよな」キャンディもそれは知っていた。
奇人ルクレイツァのことは、キャンディでもあまり思い出したくない……のだけれど、思い出してしまったのだから仕方がない。
ちなみに彼女は魔法学者として教職についていたが『究極呪文を編み出すと大抵失踪する』という噂通りに失踪した魔法使いだ。
昔ながらの大きな帽子をかぶっており、杖を愛用する。体は至って普通の体型をしているが、一度腕を失くしており、その辺のモンスターから腕を引き抜いて移植しているため、片腕だけが太くて、指が6本(モンスターの指が一本親指の横に追加されているが、なんか細胞分裂により生えたらしい)で、褐色だったりする。
「待て、fable……お前は、……変わらず、私の話を聞かない……」
「いいかね、fable……炎、というものはだ……」
少女は一人で彼女の物真似を披露する。動揺が隠せないらしい。
「あいつ……fable が珍しいのか、私にばっかり絡んで来やがって、本当に嫌味な奴だった」
ルクレイツァも編み出した究極呪文というのは、魔法使いが人生で一度は編み出したい究極にして最強の呪文形態なのだが……
同時になぜか編み出すと失踪するとも言われていた。それは狩られた噂だったり、機密に触れた噂だったり、はたまた本人が強い魔力の狂気にあてられて狂ってしまうからという噂があるが、確かめた者は居ない。フェイブル家もそういった名門であり、同時に、歴代が何年かに一人ずつ失踪していた。
それでもなお、その名声は消えない。
「……で、具体的に、どうだったんだよ?」
ちょっと気になるのか、少女はキャンディを睨み付けるように問い掛ける。
「え、何、感触か? いや、モンスターらしさはなかった。人間と変わらな」
「──」
引いている。ちょっと引いている。
「冗談だ。具体的には本人のプライベートと俺のプライバシーがあるから、見る機会があったら見せてもらえ」
ちぇっ、と少女は唇を尖らせたが、諦めたらしい。特に食い下がりはしなかった。
キャンディもホッとしていた。
──あいつは、本当に『一人』なのか?
なんてなんだか、聞いてはいけないような気がして、踏み込めない。へらへら笑って『何を言ってるんですか?』とか小馬鹿にしてくるだけだろう。
「誰か、ちょっとは俺に優しくしろよなー」
「……。『きゃーっ。キャンディさぁん!今帰りですかぁー? あのぉ……実はぁ話したいことが』」
ぼやいたキャンディの横で、めったに見たことのない笑顔で少女が優しく(?)話しかけてくる。
「悪かった、悲劇は繰り返さない」
少女はさっさと歩いて行く。どうやら魔物は置いておいて良いらしい。
(9/164:37/9/1722:54)




