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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
番外編1
25/240

『0…019071219…090…7770……468…1……』



 なんだか外が騒がしい。

さっきも変な機械に襲われたし、とキャンディは足元で黒焦げになったまま動きもしないそれをちらりと横目で見た。

なにかあったのかもしれないが、だとしてもいきなり出ていくべきかは様子を見よう。どうせ彼女たちもそう簡単にやられる奴じゃない。

 今でこそ呑気そうにしている彼女たちだが、大戦時は高い魔力のせいで戦士にならざるをえなかった者たちだ。

 民の多くが魔力を持つ時代というのは、幼い子どもでも誰でも、侮る理由はなく、兵隊やらなんやらにさせられるという意味であり

、そんな悲惨な幼少期について、あまり彼女たちは話そうとはしない。彼も勿論そうだった。

「──しかし、玩具ねぇ」


 実は戦時中は『子どものための武器』が普及する狂った時代だった名残から、玩具のような外観の兵器が多い。


「嫌な、感じだな」

 

 キャノが頭上から指示してきた修理はしばらくしていたが、黙々こなすのも暇なので、ある程度のところで、ついでにちょっとしたツテから流れてきたタワー付近の管理局の内部資料を端末で読み込む。

「0…019071219…090…7770……468…1……

ふうん、これが各基地への問い合わせで

644AC82A25DC079D07F0ADDA6897E4BB……こっからが……」


「ここは私の記憶を元に作られた悪夢。いわば私自身の仮想世界よー!」


「それでここの暗号化が……魔法配列の──」


 実は魔力を完全に数値化することは出来ない。だが代わりに元素を成分質量として表すことは出来た。実は制限装置の仕組みはそちらに重点がおかれるサンプリングとなっている。制限が難しいもののひとつは水だ。

体内の水分量をスキャンする際の、人体そのものに関わる事故なども起きており当時はかなり開発に手こずったといわれて居て──


「それなら、そこに入り込んだ邪魔者を私が迎撃するなど造作も無い!

他者に見せられた夢だとしても、ここを作り出した基点であり支配者はわ・た・し!」


「ちょっと黙ってくれ!」


と、言って振り向くと、派手な格好の女子高生?が飴を舐めながら立っていた。


「ったくう、あいつ、またどっか行っちゃった」

とか言いながらもペロペロペロペロ、と

ロリポップを舐めながら彼女は近づいて来て──こちらを凝視している。



(……あぁ、こいつもなりそこないか)

キャンディは少しだけ悲しくなる。

昔あった、ハンター側との戦いのデータを思い出した。「社長に命令された」と心を守っている彼ら特有の症状として、本来なら自分のものだった、と魔法使いたちに自身を重ね合わせての記憶の混同を見ることがあった。

 生まれつき魔力のある者には、彼らの悲しみはわからないが、それほどに脆くなった心で今にすがりついているのだろうということ、非道な人体実験をしてまで魔力を持ちたいという願いに底知れない気味の悪さと、虚しさを感じずにいられない。


「やぁ、お嬢ちゃん」


 とりあえず適当な笑顔で距離を測る。

魔法使いというのは、狩られるために狙われてきた歴史から、身を守るべく結界以外にも逃走や面倒な相手に対しての手段を持ち合わせることがある。 

 リルはすぐ周りを猫に変えてしまうしキャノは眠らせたり行動を変えさせてしまう。キャンディも何かしようかと思ってみたが、変に手の内を明かす必要もないし……

 

「ふーん……おにいさん、すっごくきれいな顔してるね」


「そうかい?」


「うふっ、社交辞令よ!」


「最近の娘はマセてるな」


ぱっつんとした前髪、短いツインテールの彼女はにいっと笑った。

「私、モーシャン! 親が隣国の人だけど、私は日本人なの! だからみんなからちょっと雰囲気違うって言われるんだけど、どこが違うのかなぁ? アジアって感じじゃなーい?」

「どうだろうな」


「せっかく美少女に絡まれているのに、つれないのね」


「あぁ……、俺さんたちの体は、魔力が無い人間には反応しにくく出来ているんだよ。

だから、人間との恋愛なんかそうそう起こらない」

「じゃあ、素敵な人間を見ても、恋を、したことがないの? それって可哀想」

「悩みを聞いてくれるとは、優しいね。

ガキだからだ、とか言い掛かりをつけるやつも居るのに」

「うふっ、そぉー?」


 やり過ごそうかと思っていたが執拗に絡んでくる。仕方ない、一旦修理確認はお預けだとキャンディはその場から立ち上がる。

 と同時にモーシャンは鋭い動きで回転し、腹部を狙ってきた。しかし彼女の靴底がキャンディに当たることはない。モーシャンが口を開けて驚いているときには彼は既に「あんまりヒネた技が浮かばなくてなー」などと独り言を言いながらモーシャンの真後ろに立っていた。

(特性上素早いので、単に移動しただけである)

「極力、今は大戦ごっこはしたくないんだ。なんか、悲しくなるからさ」


顔を真っ赤にしたモーシャンが翻るやいなや、うわああああと寄声とともに、キャンディに特効する。風を纏った制服の襟がひらりと舞って、羽みたいだった。

──懐をめがけながらも、彼女は悲痛に叫ぶ。


「私の、夢を返せ!!」



「夢?」


「そうだ! 私の夢だ!

お前らをずっと見てきた!

だから、入り込んだ邪魔者を私の指示で迎撃するなど造作も無いんだぞ! 

所有されてるんだ!

これが他者に見せられた夢だとしても、ここを作り出した基点であり支配者はわ・た・し! わからない?」


わからない。



「──残念だが、これはお嬢ちゃんの夢ではないよ。俺たちの現実だ」


 モーシャンが殴りかかったのと、キャンディが指を鳴らしたのは同時だった。

ピタリと彼女の動きが止まる。顔以外の体が動かせないことにパニックになる彼女を見ながらキャンディは手を振って歩き出す。


「これが、現実なんだ。お前の夢なんかじゃない、妄想にさ迷ってる人間には、わからないだろうな」


 彼にとってこれは現実だ。

しかし夢だと認識している以上は夢でしかない。

彼女とキャンディたちの違い、隔たり。

何を現実と捉えているかが人間と魔族の境目だった。



 さて誰かのところに戻るかな、と思っていたところで彼女の硬直が解けた。


「待て!」


すごい剣幕で走ってくる。仕方なくキャンディも走る。


「やっぱり砂糖を神経毒に変えた方が良かったか?」

 ……殺すか殺さないかで術が変わるために調整が難しい。

引き離しても良かったのだが、速さにはそのぶんの動体視力を酷使する。自分自身が道を見失い迷い兼ねないし道は狭いしで、比較的ゆっくり、けれど追い付けない程度に走る。

「お前もハンターか?」

叫びながら問い掛けてみると、彼女はそうだと答える。

「魔法使いになりたかったのか?」


「そうよ! 魔法使いになれば──女でも、魔女になれば! 私だって馬鹿にされないで生きていける!」


 魔法使いの中でも、魔女は格別だ。

膨大な力を持ち、一国をおさめることすらある。そういった者が女性に偏っている理由はわからないが一説では、女性の方が体内により大きい空洞──人間そのものの生命を宿せる程の器があることや、精霊などに好かれやすいことが一因と言われている。

 そういえば魔力を埋め込む実験は、女性軽視が深刻化している国で行われることもあったと聞いたことがある、と思い出した。

現実問題、魔法が使えたからといって、なにかの軽視が無くなるかといえば、今でもなお差別が続いているのが現状だけれど。

「だから……そのためにサンプルが必要なの。

待ちなさい! 可哀相なあなたの彼女にしてあげる」


ひゅん、と何かが投げられる。

また、縄か。幸い、外れて当たらなかったが飛距離が結構あるので油断出来ない。

あの縄、やっぱり術系統なのだろうか。


「無理だ。それに常識で考えろよ。心配しなくとも世界には人間以外にも生き物が居るだろう」


キャンディは朗らかに笑った。


「そいつらと友達になれば、いじめられて孤立だの、寂しいだの、お前らみたく人間のなかだけで言う暇はねぇのよ、見たところ普通そうじゃん」


言うとモーシャンはニッと笑った。


「おあいにくさまぁー。人間は人間同士にしか興味もないし、友達と思わない」


そしてキャンディ目掛けてまた縄を投げてくる。カウガールかなんかか。


「それじゃ、こっち側にはなれないな!」


 何度か投げられたモーシャンの縄が外れ、モーシャンがそれを回収していると、

突如、モォー!!と叫び声。そして──


「ツカッテイイ? キイタライイテイッテタジャアアン!!」


と変な音程の日本語が大声で降り注いだ。

翼を羽ばたかせる音がし、モーシャンのすぐ背後に鳥が現れる。


「イーヨー! テ、スズキイッテタカラソレニシタノニ!」


……鸚鵡だ。


「唐揚げ!?」

モーシャンが目を見開く。



「ナァンデ、アタチダケオコラレナキャナランノ? ハー!

ソンナンキーテナインダケドゥ……!」


「ど、どうして唐揚げが此処にいんの!?飼い主は?」


カラアゲはどうやら鸚鵡の名前らしい。

妙な言葉を習得している。


「ハー!? ソレナラデキルカッテキータラ、デキルトカ、ナンデイウンダヨ!? バカジャン!!」


「ちょっと、声大きい!」


モーシャンが足を止めて唐揚げと揉め始めた。キャンディはチャンスとばかりに駆け出す。


「待てぇ! この違反者ぁ!」

気付いたモーシャンがキャンディの後を元気いっぱいに走っていく。

唐揚げは、だんだん達者な言葉で話し始めた。

「贅肉さんを消費してあと100年は生きて行ける!! 贅肉さんは消費すればヨに出たホウガダイジ!」


ビルの間を抜け、曲がり角を曲がったりしていると、ちょうど道にコトが居るのを目にする。女子高生に追いかけられるの好きですね、とでも言わんばかりの真っ直ぐな目をしていた。いや、助けろよ……!と、言いたくはあるが、人間が増えてもどうしようもない。


(仕方ない、疲れるけど適当に撒くか……)


「はぁあもう思い出しちゃったし! あのときもスズキサンが適当なこと言うから失敗したじゃないの!」




(2021/7/309:28加筆─8/115:45)

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