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【音闇クルフィ】  作者: たくひあい
ミライとめぐめぐ
144/241

母とめぐみ


■■■■■■



――やめて……


悲しい声が聞こえてくる。


――やめて。一番姿が似ているアナタニだけは、見られたくないのに



――私の為って何? 

貴方が来た瞬間に目を逸らす、嫌そうになる私を監視し続けるのが貴方の考える私の為?



――貴方が来た瞬間、一番嫌そうにする。何度でも。

貴方が私を傷つけて居るって伝える為に……








 悲しい声が、聞こえてくる。

わかるよ。

私は、心の中で呟くしか出来ない。

わかるよ。

×××××もそうだった。

心配している、と言って、大事なもの全部、壊して行った。

一生消えないものを、更に消えないように、消えないようにと踏みにじって行った。

活動をする、そう言って、世界に更にばら撒いて行った。




「自分はもうそこに居ないのに。縋るように。欲求を満たしたいだけにしか見えなかった、でしょ?」




ただ心配したいだけ、自分のプライドしか考えてない。

「人の気持ちなんかどうでもいいんだよね」


   ××××ったら、そう私に嫌そうにされることにさえ腹が立って、

自分がその立場で居られない事、拒絶される事にだけ、腹が立って


「嫌そうに顔をゆがめたら、事件が悲しいんだと、思われちゃった――

でも、それだけじゃなかった。でしょ?」


同じ生活をした、同じように境遇を持つような、なのに違う。

――同じになっていたかもしれない相手の、

自分の今とのあまりにも残酷な「格差」。



それを悪い事もしていないのに世界中にばらまかれる。

心配している、と言えばそれだけで済むような高いところから見下ろして、『同じこと』をする。



 壁に描かれる彼女は笑っている。

楽しそうに歌っている。




「こんなに写真、集められていたら、

誰も見てないなんて嘘だよ」

「心配なんて、嘘だよ」


「これは、フォルダから持って来たの。ネットワークを介さなくても普通に置かれていて――」


2023年11月15日18時24分








◆◆◆



「あの子――来ませんでしたね、お見舞い」

ある病室。

 ついさっき目を覚ました女性が、ぼんやり窓を眺めながらため息を吐いていた。

腰にはコルセットが巻かれている。

「そうですね」

白衣を着た男の声が、ベッドの脇に立ち彼女に返事をする。それから尋ねた。

「しかし、息子さんには貴方の話をしなくても良いのですか?」

男からの意味深な質問に対し、彼女はあっけらかんと笑う。


「いいのよ。別に。今のあの子見ると、なんだかあの人を思いだしちゃうし」









「なんだか不思議ね――私と貴方が出会ったのは、コンビニに行った帰り道……そう考えると、ふふっ。変な感じ」


男の話に明確に答えることなく彼女は笑う。彼は今の彼女からは、幾分か普段のキビキビした彼女からの棘が抜けているような印象を受けていた。










 二人が出会ったのはある夜。

夕飯の材料を買い足しに行ったコンビニの帰り道――――

それはまだ、コトが何も知らずに魔法に目覚め始めたばかりの頃。


「ちょっと、いいですか」

 昼間に彼女がコンビニから出て、駐車場で一人で居るところを見計らい、彼は訪ねてきた。

「え?」

「私は、とある機関の者です」

スーツに身を包んだ、まだ若そうな……30から40代くらいの男性。


「――――機関の、と、いうと」

彼女は嫌な予感を覚えながらも、すぐに邪険にも出来ずに彼を見つめる。

「えぇ、……さんが、関わっている組織の」

「夫の。ですか」

 結婚する前、ただの会社勤めと聞いていた彼は、同時にある組織に関与していた。

彼女がそれを知るのはコトが息子になるより前――

彼女自身、普段の生活のなかで時折彼らの暗躍する影を感じることが日常にあった。

そして、そこに夫も加わっていることを知る。


「夫になにかあったのでしょうか」


 いつかこういった事態もある程度は、あり得なくはないと心構えが出来てはいた。けれど……やはり、いよいよ彼が、家にも滅多に帰らない彼が何かやらかしでもしたのか。



「正確に言えば、あったのは息子さんです」

「え?」

「実は、息子さんに魔力の兆候が出始めているんです。それが街のシステム上でも明らかに周囲を逸脱した規模で計測されている――それ故に、既にさまざまな組織に目を付けられている状態で……」

「コトがですか!?」

信じられない。信じたく、ない。

けれど……


「――魔女の血が、まだ潰えて(ついえて)なかった、なんて」



 けれど……自分もそうだった。

魔法を使う、なんてことはなかったけれど

祖母も自分も霊力が強いと言われていて、幽霊や、不思議なものを見ることが多々あった。学生の頃から何度か大きな組織に目を付けられていると感じることもあって……


祖母からは魔女の血の話をされていた。

これが我が家の宿命である、と。

 彼女は厄介事の空気を感じとり、自らが魔女にはならないように、平均的な生活を心掛け、魔除けを身に付けて生活を送った。


(だからこそ彼は『あの組織』に関与していることを隠してまで私に子どもを作らせたのだ。)




――やっぱり、子どもなんか生まなきゃ良かったのかもしれない。真っ先に彼女の脳裏によぎるのはそんな言葉。



だから――彼女は嘲笑した。

「混血による発達障がいのようなものでしょう。魔女が現れたとき、再び魔女狩りが始まるだなんて、あの人も組織も大袈裟です」

けれど彼は、笑わなかった。



「発達障がい規模のものは、周囲の基準よりもよくできる、という程度です。しかし彼は違う――あの力は周囲を逸脱している。

あまりにも影響力を持っています。

それに脳の障がいも見付からなかった」


「ギフテッド――ね」

答えを覚えている、ではなく、潜在的に答えを知っている。

「こればかりは、精神論ではなく、脳の発達の診断書が出るわけですから――」

「――なんで……あの子が」

自分が、遠ざけて遠ざけて来たものを、優に越えて……誰からもそうせざるを得ない程に特別だなんて。

(なぜあの子が! 私は、駄目だったのに!!)


 何故なのか、そのときの彼女の内に湧いたのは我が子に対するえもいわれぬような嫉妬だった。

「まだ、あの子は子どもで! ろくに家事も出来なくて、組織なんてそんな」

鼻で笑うように彼女はそう続ける。

 

 その影響力をもってしての組織への勧誘にちがいないと思い込んでいた為、咄嗟に貶すような事を言ったのだが……

「えぇ、なので、息子さんのことで貴方にお願いがあります」

彼が言ったのはそんな言葉だった。

「――わたしに?」

彼は、息子ではなく、母親に言う。



「――あなたが、めぐみになりませんか?」「めぐみに、なる……?」


息子の名前はコトだ。

なのに、めぐみになる、とは?

呆然とする彼女に対し、彼は柔和な笑みを浮かべたまま当然のように言った。


「要は囮ですよ。指示は電話で出します。言われたように発言し、言われたようにしてください」



 息子の名前はコトで、めぐみになるという指示の意味が分からない。




「既に、あなたの家は各組織の監視下にあります。盗聴、盗撮されているのでなにか行動すると筒抜けですから、囮はちょうど良い。あぁ、そうだまず合図を決めましょう、1時半に洗濯物を出すとか、部屋で牛乳を飲むといった」



 急にどうしたというのか。自分に接触してくる程に組織間や息子に問題が起きているのか。

混乱したまま彼女が俯き、黙っている間にも、彼は調子づいてきて喋りつづけた。




「待って、めぐみって、あの……」

「えぇ。あの国家が絡んだ事件の」

「今の子には、めぐみ、さんのことなんて。もう何十年も、ずっとずっと昔の話ですよ」

「確かにコト、さんは。新しい世代の人間。しかし『めぐみ』だ」

「どういう意味ですか」

「某国の……あの独裁国家の組織のクローンたちにとっては、違う。

既に洗脳によって彼を当時の『めぐみ』だと……今を、当時の状況のままだと思わされている。外の情報を遮断したまま――夢を見せられ、当時の感情だけを植え付けられているんです」



『あの独裁国家』

 この国に隣接する国のことだろう。

国民を従順にするべく外の情報を遮断しているという話は有名であり、

永遠に自立意思を持たせない為だとか世界征服の為にクローンの研究をしているというニュースも以前聞いたことがあった。

  しかし、他国の文化や言葉を研究するという名目で他国から国民を拉致してくるという話、それに準じた工作員を各国に送り込んでいる話もあり、何度か拉致問題が話題になってもいた筈だ。


「だけど、突然めぐみさんが出てくるなんて」


「それは我々にもわかりません、ただ、彼女にも何か特別な意味があるのは確かです。あちこちで、某国が不審な動きをしているという報告が上がっています。

 その中の計画の一つとしてコト君のような一握りの人達に目を付けているのではないか、と。そのような人達を『めぐみ』と呼んでいたという報告もあって――」

「えぇ……」

 まるで同じ時代の話をし続けるボケた老人のようだ。

幹部の中に、居なくなった彼女の存在に拘ったまま歳をとった人物が居るのかもしれない。

「つまり、あの子の代わりに『めぐみ』に成れというんです? 機関の為に」






 彼女の内心は戸惑い、恐れ、嫉妬、あらゆる感情が綯交ぜになっていた。

コトの父親……あの男に関してもそうだ。

自分が、遠ざけて遠ざけて来たものを、優に越えて……誰からもそうせざるを得ない程に特別で。

(私は、駄目だったのに……)





「いいえ、彼に成ればいいんですよ。息子さんに成って。母親としてではなくあなたが実権を握ればいい」



 息子を組織に関わらせず、自分が『コト』になってしまえばいい――?

そしてそれは『めぐみ』として機能する。

コトはいつもぼーっとしていて、なにか考えているんだか居ないんだか。

自分の身一つも守れないんじゃないか。


 あの子なんかより、ずっと先に生まれて苦労してきた自分になら出来るはずだ。


実権――親が手綱を引けばいい。

それはなんだか魅惑的な言葉だった。


 それに。あの男と――組織との子どもだと、コトには伝えないまま、知られないままで居たい。……思い出すと今もイライラする。コトのためではなく、

自分の存在価値や、子どもさえ居なければ結婚しなかっただろうという実感がのし掛かってくるから。


「で、でも、そんなの、バレますよ!」

「上のお偉方には、貴方くらいの年齢の方がウケが良い。

……彼らが実質的に世界を動かしているのですから、彼らさえ騙せれば良いのです。

めぐみ役を交渉すると言いさえすればある程度の融通を効かせるでしょう。我々の力ならテレビも新聞も、全て牛耳ることが出来ますから、多少バレたところで、どこにも流出しません。

貴方はギリギリまで息子さんのフリをして、いざというときに代わりに出る、その為の存在です」







■■■■■



「そう、言われたときは出来そうだと感じたんだけどなぁ」

「申し訳ございません。彼らが、此方の想定を上回っておりました。まさかこれほどまでに力が強いとは」

「いいわよ、私が決めたのだし。でも、諦めないんだから!」


「ですが。彼らの呪いに関わってから事故に合われ、謎の体調不良……もしかすると次に、呪文返しにあえば命を落とすかもしれません。それでも続けていただけるんでしょうか」



2023/1116/1107

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