水色の端末
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コトが深呼吸をし、一旦冷静になっていると、ナナカマドが水色の四角い端末を渡して来た。
「これを」
「……これは?」
手に持ってみると、最近の薄型端末に比べればちょっぴり重い。
此処のオリジナル製品だろうか。
「ビルとの中継用端末だ。先日ようやく端末ショップの修理から帰って来た。中に入るときにこれで連絡をしてほしい」
「はぁ……あの、この形状、今どき珍しいですね」
何気なく言うと、彼はそうだな、と短く答える。
「少し、いろいろと付いていてな。どうせ使う機会はないだろうが」
「変身したり、ビームや召喚獣が出てきたり!?」
ミライちゃんが適当な事を言う。
「しない」
ナナカマドは淡々と答え、それから改めて言う。
「起動用のロック掛かっているが、このメモの番号通りに押せばいい」
――また、メモを渡される。
コトはわかりました、と大人しく受け取った。
……そう言えば、他の皆はもうタワーに居るのだろうか。
「かっわいい水色、だね!」
ミライちゃんは嬉しそうだ。
「これ、ミコに渡すよ」
コトは、彼女にメモと共に端末を預ける。
彼女は目を真ん丸にしながら「え? あ、コトがそう言うなら、預かっておくね」と言い、さっそく手順通りに端末のロック解除をし始めた。
やがてその間にナナカマドがどこかに行くのも気にもとめずポチポチ、とボタンを押して、次に自身の端末を翳してなにかを設定している。
「何してるの?」
コトが何となく聞いてみると、彼女は着メロの設定をしていると言う。
「着メロ?」
「ピピッて音じゃ味気ないでしょ?この端末には入ってなかったけれど、私の端末に入っている曲を入れておいたよ」
「ちなみに何」
「大好きなバンドの『夢は見続けるもの』」
「……知らない、そんな曲、ある?」
コトも新旧問わず、音楽などをときどき聴くことはあったが聴いたことがない。ミライちゃんはにんまりと頬笑む。
「ふふ。だろうね。知っているの、今は私だけだもん」
「なにそれ」
「全員、殺されちゃったから」
「──え?」
聞き違いだろうか。今、なんだか不穏な単語が聞こえなかったか。
ミライちゃんは再び笑顔になると言う。
「おっと、なんでも無い。でも、ずっと昔の、それもすごく狭い世界の曲だから知らないと思う。友達との思い出でね……アルバムすら無いまま──みんな消えちゃった。
私が記憶から再現して打ち込んだの。だから、私の端末にしかない曲なんだよ」
水色の端末のスイッチが押され、曲が流れ出す。
単純なフレーズが繰り返される、賑やかでどこか切ないメロディ。
ミライちゃんの端末にしかない曲。
ミライちゃんの思い出。夢は見続けるもの。ずっと昔の曲。端末にしかない、ミライちゃんの端末を見ていなければ誰も知るはずのない曲。
「良い曲だね」
コトは率直な感想を述べた。
ミライちゃんははにかむ。
「ありがとう……この曲はね、夢は、何度見ても良くて、寝て起きて、何回でも夢を見て……傷付いても夢を見続けることが、夢そのものなんだよって。曲なんだって。だから、夢は、夢だけど、見続ける現実があって、夢があって……えっと……だから前を向いて歩き続けることが、夢そのもののプロセスっていうか」
「明るくて、ポジティブな意味が込められているんだな」
なにかを続ける……ネガティブにも聞こえなくはないが、ミライちゃんたちにとってのこの曲には前向きで明るい意味が込められていた、
そう思って聞いてみると、確かに曲調自体もひたすらに前向きさが現れているように感じられる。
「そうそう……!そういうこと。
いきなり、どうしたのかって感じだけど。端末にこの曲が入ってると、なんだか、帰って来られるような気がするんだ! 怖いことがあっても、私、夢を見続けるんだ」
ちょっと寂しそうに、だけど目一杯の笑顔でミライちゃんは言う。
きっとそれは、彼女なりの覚悟なのだろう。
どんなときも笑顔を絶やさない彼女は、自分に夢を見続けることを課している。
「私たちだけの、約束、だよ」
誰にも知られない意味の込められた、彼女にとっての勇気。
そのとき、目の前のエレベーターが開いた。
「──お? 二人とも、お揃いで」
2023年9月21日21時18分




