前田さん
「さて、誰でしょう」
ミライ、ちゃんが腕を伸ばして、機械の方に手をかざす。
コトは呆然とそれを見送っていたが、ハッと我に返る。
待ってと言いかけて止める。
(――――あれ。どうして今そう思ったんだっけ)
機械に近づいていくミライちゃん。
彼女に気が付くと、増殖したAIを捌いて居たテネたちもそちらに駆けよって来る。今思ったけれど、そういえば、此処にリル、が居ない。何処かに居るのだろうか。
ミライちゃんの手が、機械に光を放つ。
「AI。すべてを集約し、具現となり、私の前に現れて」
淡々と、冷めたような言葉が彼女の口から放たれる。
光。
ミライちゃんが、
彼女も、魔法を使えるのか?
「……!」
機械が光に反応して、歪む。コトは眩しくて後ずさった。
ゆっくりと目を開けてみると――――具現化は成功していた。
「か。母、さん……!?」
歪な笑みを浮かべながら機械の前に出て来たのはコトの母親の具現。
それが、口から炎を吐きながらこの世のものでは無いような高笑いを続けている。視線は何処かをさ迷っていて、高い声でゲラゲラと笑い続けている。
「親子丼、だねぇ……!! アハハハハ!!!」
解って居た事だ。
最初に起動したAIが母親を模して襲い掛かって来るのだから。
親子丼が何をさしているのかはわからないけど。
「母さん……」
会話に制限でもあるのか、「フレンチトースト!!」とかしか主に喋らないけれど――――短めの髪、少し気の強そうなハキハキした目元。
やっぱり、母そのものだった。
彼女は、コードを掻き分けて歩いてくる。
やがてすうっと息を吸い込むと、左右に首を振りながら、先程のAIと比べ物にならない炎をコトたちに向けて放った。
咄嗟に結界を張る。他の人達がどうなっているのかまで確認する余裕はなかった。
『なによぉ!!!特異体質を研究する前田さんのこと、教えてあげないんだからね!!!!!』
結界の透明な壁の向こうでは、母の叫び声。まるで本当に言われているようなのがおぞましく感じた。
――――それに、なんだか急速に、人の言葉を話す回数が増えているような。
「何を言っているの? 母さん、前田さんって誰?母さんはその前田さんと繋がりがあるの?」
『前田さん、凄いんだから。あの、タワーシステムの田中さんのお友達なんですって!!』
突然知らない名前が登場するので、コトは更に困惑した。
田中さんって、それ確か……祖父から研究を引き継いだっていう人じゃないか。引き継いだが何を意味するか知らないが、
なぜ母は、祖父ではなく、田中って人の友人の前田さんの肩を持っているんだ? 話の筋からすればせめて祖父を讃えるのではないのだろうか。
だって、引き継いだだけで、結局俺の力が必要で――――
それなら俺は、田中さんや前田さんではなく祖父の残したオリジナルの話を聞いた方が良いわけで、でも、母さんたちは、違ってて……
自分が苦しめられているのが、
いったい何によるもので、なんのためなのか。
目の前の敵が、母だとしても、そもそも母とはいったい誰のことを指して居たのだろう。
「あの家が……俺をずっと見下してるのは、神様だけが、理由じゃないのか」
俯いて、足元を見る。結界が少しずつ薄れていっているのがわかる。
まだ火が消えてないのに……張り直さないと強い攻撃が来たとき強度が保てない。
悟られないように動かなくては。
「アハハハハ!! ネーミングライツが更新される!!アイス!アイス!アイス!アイス!」
足元の炎が中心部に引き込まれていくと巨大な竜巻に変わる。はぁ、やっぱり言葉の大半は食べ物なのか。と、考えるときには既に結界目掛けて竜巻が突っ込んでいた。
「……くっ!」
ここ最近学んだことだが、レベルの高い敵ほど、攻撃そのものではなくて結界の方から壊そうとしている。
一時的な結界でもそれなりの強度が無くては破れないというのに、恐れることなく向かって来るのだった。
バリバリと、皹が入る音がする。膜の表層を削っている。
テネたちは戸惑っているようだった。遠くから気配はするものの、なんだか狼狽えている空気が伝わる。
呪文を下手に使えない、かといって武器を使うのにも何か躊躇いがあるのか。
(2023年6月19日22時55分)




