気持ち悪い水性ペンと櫻子さん
数分後…
「メテト様?」
「でちたちはゲシュタルトの民──概念的亜空間外殻層、ゲシュタルトを通って来たでち。そしてこれがでちたちの身体」
ミライが事情を話して欲しいと言ったところ、わりとすんなり事情を聞くことが出来た。
「ふむふむ」
数年前にある事情で開いた概念経路……呪文の流れ道にたまに生まれるバグのようなものらしいそれが、タワーに生じた。
結界の綻び、共通点のような点在するポイントで、マモノが抜け穴に出来るらしい。
メテト様たちはゲシュタルトから、この共通点を広げ、地上を支配する目的で、
ベツセカイにおけるゲシュタルトを支配する王──テールロネスの命により送り込まれている。
蝙蝠のような羽としっぽを持ち、人型のキメラである。
しかし、ゲシュタルトを増幅させ、共通点を広げるには物量作戦を組み込むことが必須。それでも成功率は低いのだが……
少し回復したコトが、ニワトリさんを抱えたまま、
「それで、野望はともかく、今んとこ、メテトってのは何しに来たんだ?」
と聞いた。
「実は……、ベツセカイでも……いや、仲間でも無い奴に話すことは無い。これはでちたちの問題」
何か言いかけて、でちは顔をそむけた。
「じゃあ友達になろう、そしたら皆の問題になるかな?」
ミライちゃん、ははりきって挙手した。
でちは唖然として黙っている。
「用が済んだら絶縁するからさ!」
ミライちゃんはウインクした。
「極端!!」
でちは突っ込んだ。
「でも、まぁ、なんでもいいんだけど、私も探すよ、此処広いから、みんなで行くほうが安心でしょ?」
ミライちゃん、は改めて言う。
「それにさっきの人、怪我してたみたいだし、手当てしなくちゃ」
「怪我、してるのか?」
コトはぎょっとしたあと、何かに思い当たったように「そうか……俺……」と言ってややしゅんとなった。
「なんでだろう。心がなくなっていくのに自分じゃ止められないんだ。外にどんどん溢れだして、身体が勝手に動いてて」
「コト……」
「監視カメラに抜かれてたら危ないかもな。俺も覚えてないのに、貼り出されそう」
「……」
ミライちゃんは何か考えていたが、やがて
「不思議な偶然だけど──、あの人、ちょっと櫻子さんに似ていたな」と言った。
「え?」
「昔のご近所さん。趣味が合うのかな、図書館で会うといつも私と同じ本、借りてたんだよ」
「櫻子さん? 櫻子さんという人はどんな方でちか」
でちが唐突に興味を持ってたずねる。
「えっとねー、図書館行くと何故かいつも私と同じ本借りてて、手で三角みたいなポーズをするのが癖で、冷静で……『馬鹿だな』とか言ってて、」
呑気に語り合いながら、廊下を歩きだして────ミライちゃんは叫んだ。
「うわっ、水性ペンを水に浸したみたいになってて気持ち悪!」
水性ペンを水に浸したみたい、は言い得て妙だった。景色のあちこちが奇妙に歪んでぼやけて、変なグラデーションになっている。
────気持ち悪い
「いきなり立ち上がったから、まだ情報処理が追い付いてないんだ」
コトはコトで、似たような風景を見ていた。
「多少回復してきた、からなのかな」
でもこれはこれで、どこに焦点を置くべきかわからない。幻覚というより、心が不安定
で情報の最終的な軸が安定しないといった方が正確だった。
ニワトリさん、やメロちゃんが、率先してフロアを歩き始める。




