別世界
――今から2000年くらい前、地球は大きな災厄に見舞われ、
星を覆っていたゲシュタルトが崩壊。
物量作戦、言語汚染による概念崩壊、
概念規格を揃えなくては星の概念自体が崩壊したまま損失するという自体となる。
宇宙からの概念の大量放出が主な原因だったのだが、その際、大魔女が外部のゲシュタルトを画一空間に閉じ込め、
『ベツセカイ』として隔離する。
同時に、物量作戦を留めておく為の各コードを大魔女を柱に託す。これ自体はネーミングライツを極限レベルで使用するような術式だ。
閉じ込められた概念は永遠に別世界の中で生きることになり、何度生れてもその中にしか存在出来ないという高度なものだった。
しかし閉じ込められた概念は多すぎたどころではなく、年々何故か質量を増しもはや実体を持つまでに至り、『ベツセカイ』が別の星となって新たにゲシュタルトを形成。星として存在しているのだという。
ベツセカイでどう生きようと込神町には何の問題もなかったので放任していたわけだが……
近年において『ある事態』が引き起こされたことによりゲシュタルトの境目が乱れたときに生じる概念集合経路――
つまり、重なった一部の概念を通った道筋が、タワーの壁にも生じてしまった。普段は結界で封じてあるものの、
『あの作戦』でタワーの内部に穴が生じている今なら異空間を通ってベツセカイから流れ込むことが可能だ。
「なぁんて、話をしても、難しくてわからないでちね」
『でち』は、壁に空いた召喚ゲートからぱたぱたと翼をはためかせ、着地した。
彼等は込神町の裏、ベツセカイからやってきている存在で、此処で言うとマモノとかアクマとかキメラとか呼ばれている生命体である。
ツノのようなもの、背中には蝙蝠の翼のようなもの、街に降り立つときは身体はヒト型。
そして今は先に此処に辿りついている筈の上司――メテトを探してフロアを歩いて居るのだが……
何処に行ったのだろう?
と思いつつ、床を食い入るように見つめる。
「んー、この世界との境目によく落ちてる架空通貨ってのが、高く売れるらしいでちが……」
きょろきょろ、地面を見渡すが、土とは違う材質の床だし、そもそも架空通貨が何かもよくわからないし、見当たらない。
「前に、変な男の子がやってきて、別の世界に帰って行ったのを小人が見ていたとかなんとかって聞いたから、メテト様を追いかけるときは、みつけてやろと思ったでちが……」
――君ってやつは、実に馬鹿だな
メテト様のせせら笑う声を思い浮かべると、ちょっと背筋がぞくっとする。
「そりゃ、でち達、アレを貰っても、活かせる奴は多くないっていうのはでちも割と思うんだけど……ネジのコスパだけなら作らない方が良いですが、作れるのが今だけとなると作らない以外の選択肢はない」
改は今しか作れない、今後結界のアップデートで出番が増える可能性があるって所を踏まえて考えると少し頑張れば取れるものを取らない方向で推奨するのはケチで貧乏性のでちには怖くて難しいのだった。
「今回はネジ以上に共食い用のブツが微妙に重いんでちよね。突貫用意すると2万ほど吹っ飛ぶので良い子は慎重に検討しようね、という気持ちにはなります。まあ取らない理由には弱いんでちけど」
うーん、となにやらぶつぶつと考え込むうちに上階フロアが揺れる。
「うぉっ」
ずしん、ずしん、と地響き。
「こらー! またじいさんか!ばたんばたん力いっぱいドアを開閉してー!」
ぷんすかと怒ってみてから、ハッと気づく。そうだ。
此処はでちの居た世界じゃない。
……メテト様が上階で暴れているのだろうか?
吸血鬼族と魔女の戦いとかだったりすると下っ端のでちにはちょっと入り込めない空間かもしれないかもしれないかもしれない。
「ヴァンプと対面っすかねえ…こう、間合いがつかみにくいでち」
とはいえ環境にいるどのデッキもある程度速度が出るから箱掘りが早く終わるのは良い事ではある。
らちが明かないのも困るので壁際に行き、適当にエレベーターを起動してみる。
幸い誰も乗っておらず、居なかったのでいそいそと乗り込み、上階を目指す。どの辺にメテト様が居るのか今一わからないけれど。
原子力発電所でなんかすると言っていたので、此処のエネルギー変換がどうなっているか確かめているのかもしれない。
「とりあえず、最上階でちね……」
しばらく乗っていると、ふいにエレベーターが停止した。
まだ25階だ。誰かが止めたのか。まぁいい、相乗りなんかごめんだ。
一旦此処でフロアから降り――――
「って、なんじゃこりゃ!?」
あちこちに穴が開き、ところどころ氷漬けになっている。
一体何が暴れたら、この階が此処まで壊れるというのだろう。
「ミラ……イ……」
少年の掠れた声がする。
「ミライ……」
おお?
「コト、まだ、動かない方が良いよ」
少女の声もする。
「……だめだ」
「なんで、そこまでして」
「俺、もう、神様を手放さないって、決めたんだ」
崩れた壁の破片や、柱の向こうが陰になっていてわからないけど、
なんだか、動きにくいフンイキだぞ。
「力があるだけで好き勝手に言われて、蔑まれて――酷いよ」
何かが歩く音。誰かの震えた声。
「そのせいで独りになっても、偉い人や母さんたちが俺を否定しても、俺だけはそんな世界で、ずっと神様のことを守るんだって」
大事な恋人、つまり女神様を、コトはもう離さない!
という事? もしかするとプロポーズ的なものなのだろうか。
荒い呼吸。
壁の向こうがどうなっているのかわからないが、かなり燃え上がっているに違いない。神族まで居るというのか。
このタワーはなんてバラエティーに富んでいるのだ。
もうわけがわからない。
コト、と何か思案するような女の声と同時にでちは近くの壁材に足をぶつけた。
「痛ぁああああああああああああああ!!!!」
響き渡る声。
たぁぁ!!とエコーが掛かった気がする。
「え?」
腹部にニワトリを乗せたまま上体を起こした姿の少年と、
ツインテールの少女が、きょとんとでちを見る。
でちも予想していた恋人同士の逢瀬では無い事に目を丸くする。
「あ、あああぁああ、あれ?? メテト様……?」
「うわー! 蝙蝠男さん!」
「ヴァンパイアか? またか」
少年、の呆れた声に、でちは飛びついた。
「ナニッ。赤かったか?」
メテト様はキメラだが、蝙蝠のような翼があるので間違えている可能性もある。
(2023年5月11日16時28分)




