神族の本
……
「お前ら、上から何を聞いて来たんだ?」
ナナカマドは珍しく苦い表情で送話口に凄んだ。
あまり怒る方では無い彼も『今回』に至っては苦い表情でいるしかなかった。
報告書が分厚くなる……というのもあったけれど、彼にとっても譲ることの出来ない問題だった為だ。
魔法を使った観光客を呼ぶ計画の打診などが魔法省側にあったらしいというもの。
コトに告げた処理しなければならない業務というのも、
……それに乗じてあちこちの業者が急に契約に畳みかけに来ていた為だった。
「それとも聞かされていないか。関わる人物をこれ以上、増やすつもりはない、と言った筈だ。また、威信がどうとか言って無断で行動しているのか」
「ただでさえ明確な契約書も無しに、グレーな態勢が継続していたんだ……
──そこに置いて真っ黒なことをしたがるとして、
実際、頼んでも無いことを勝手にやっているだけだからな。
協力だなんだというのは、双方の意見と見解つまり利害が一致して成されるものだ。私は私のワケがあり、彼を止める責務がある。それ以上でも以下でもない」
「数量限定? さぁ、うちには関係がない。お前たちの自己責任だ」
「いつもいつも、あちこちに現れて同じことを言わせるんじゃない」「お前のプライドごときで、せっかく来てもらっているのになぜ神性を下げるような事を言う?……あぁ、私は神の方が大事だ」
投げつけられた罵詈雑言を無視して一度通話を切り、デスクに散らばるぬいぐるみの山を見る。
何体かは疲弊して居るので休ませていた。
(南瓜……か)
机で寝そべっていたくまさんを抱え上げ、そっと撫でながら、少し、昔のことを思い出す。
幼い頃から、不思議なモノが視えていた彼は中々周囲に馴染めずに怯えて居た。そんなときでも一番の友人で居てくれたのは、異形の者だった。
恐ろしいものが来ても平気だと思うようになり、次第に心が落ち着いた。
陰陽だとか魔術とか関係ないただ畏敬の念を抱く友人として見ていたい。
だから……
本当は、こんな風に、戦いの為に召喚も式を使うのも好きではなかった。
「君たちはよくやってくれているのに、注意をするくらいしか出来ずにいるのがもどかしい」
寄せ集めた式と要素の人以上に脆くて儚い魂。翔ぶことすら主の命に縛られる彼らが懸命に戦っている。
しかし『人間側』は道具としか見ていないふしが強く、南瓜が街中に溢れればすぐ「科学で量産に活かせないか」と言い出すし、タワーのシステムを壊そうとする。
『今回』もそのひとつのようで、
何が、種族間の隔たりを失くす機会だ――と彼は憤った。
彼らの命が、魂が、科学や量産の為の技術と捉えられるなどあまりに不毛で悲しすぎる。同時に、微かな命の欠片を式にしているのは自分たちなのだから、全く業が深い話だ。
彼自身にそれを命じることをよしとできなかった。
ときどき考える。「無用な争いに巻き込むくらいなら総てほどいた方が彼らの為になるのだろうか?」と。
(テネや、彼らの言った通り、争いが起きる可能性は大いにある……)
これから非常にまずいことが起きようとしているかもしれない。
決まった時間にジャックオーランタンが召喚され、ハロウィンシーズンの飾りとして呪文の効力が切れるまで役目を全うする……それ自体を破壊しうる計画。
それが、町の全体的な魔力制御も担っている込神中芯タワー内部への侵略。
もし、『本の紛失』にまだパリュス党や、何処かの団体が関わって居たとするなら……最悪な想定だったが、有り得る話。
(――神族から奪われた本、)
神族の本は、使い方によっては天変地異を引き起こす可能性を持っている。
続いて起きているのがタワーの襲撃。
(タワーに来ている奴は恐らくは『社長』が扇動していると言っていたか……)
南瓜をあそこまで具現化し得る魔力の源が未だ見つかっていないが、何処かで現存しているという事。恐らく、神族の本ではないか、とテネは言った。
少しでも幸せに生きて欲しい。
様々に愛され、うやまわれ、生れて良かったと思っていて欲しい。
もとより組織間のいさかいに加担する願いなどから生れては居ないのだし……
生れられない者の呻き、痛み、憎悪を、幾度となく聞いて来たというのに。
同じ苦しみの輪に戻すのは忍びなく、
(それに、コトやミライ……)
「あぁ、頭の中が、ごちゃごちゃする……」
――と。
「仕方ありません。マクロの世界では、アイは虫みたいなものですもの」
ふいに、声が飛び込んで来た。
「……あぁ」
いつもいつも、突然現れる人だ。
「ふふ、アイが虫なのか。無視されているのがアイなのか。面白い問いですが」
すっかり慣れ切った展開に嘆息しながら、彼は彼女を見上げる。
「また、会議を抜けてきたりして。怒られますよ?」
5月8日AM9:37




