ゲシュタルト
「どうかな?」
彼はそう言うなり翼を広げた。
いや、さっきまでそんなものは、と思う間に一瞬、女性の姿になる。
すらりとした背の高い凛々しい女性……
一体何を見せられているんだろう。
突然の性転換に何も言えずに居ると、彼女?は不敵に笑った。
「この姿に、見覚えは無い?」
「はぁ。特に無いかな」
「何!?」
彼はむきになったようにキャノにまくし立てた。目がギラギラしている。
「俺の方は、その姿に覚えがある。白銀の髪、真っ赤な眼。駅前でパリュス党が配っているそうかな活動のチラシは本当だったようだね」
なんかいらっとしたキャノは、特に何か言うでもなく、端末を取り出した。
侵入者が一人此方に居る、とでも報告しておこう。
「おーっと、待って、待って、俺は、電波ジャックが目的なのかという質問に答えていない」
「違うなら、私の足止め? 何?」
段々対応が雑になってくるキャノだったが、彼は気にする素振りも無く笑った。
「俺たちは、既に、君たちの中枢に入り込んでいると言っておこうと思って」
「はぁ……なんでわざわざ?」
中枢……具体的に何の事を指すかは知らないけど、
重要な機関に既に手が及んでいるというのか。
ただの脅しやはったりならいいのだが。迂闊に反応しても釣りかもしれない。
「ほら、こういうのって、活動が認知されるとこから重要なんだよ、わかる?
せっかく半日がかりで工作を組み立てても、怯えて貰えないんじゃ意味が無い」
それなりに苦労があったのだろう。
「大変ですね……、怯えて貰うのって、魔女もやるんですけど、アレ結構技術が居るんです」
キャノが同情すると、東成?は腰をくねくねさせながら悲し気に訴えた。
「そうなのそうなのぉ~。もう。ほんとヤンなっちゃう、言葉が違うと、ニャーニャー言ってるだけみたいになって迫力でないから、言語の勉強からだし」
「ぽかんとしますからね」
「込神町の風習も覚えなきゃいけないし……私、通りすがりにお菓子を貰うのほんと慣れなくって。たまに薬物のことがあるけど、それ以外もあるんだってねぇ」
「そうそう。今でもお年寄りとか渡しに来ます」
学生時代、魔女試験でも、怯えて貰う振舞いは習っていたけれど、
やっぱり、迫力のある言葉を覚えて、態度や、文化、風習をある程度知ってないと、脅すのも上手くいかないのである。
見た目がちょっといかついくらいでは、慣れてしまえば気にしなくなるし、
多少言葉遣いが乱暴でも、慣れればちょっと口が悪いだけみたいになってとても残念な気持ちになってしまう。
――そこでまず大事なのが、細やかな気配りと、情報収集というわけだ。
「最初は全然怯えて貰えなくって、せっかく半日かけて仕上げても、みーんな無視するんだもん、大変だったわ~! 酷い会社なんて、せっかく仕込んで売り込みに行ったのに、大爆笑して……秒でバレて警察が来たこともあるし。
怯えて貰えないと惨めで、惨めで、うぅ……」
「やっと認知されてきたってことじゃん!すごい!すごい!」
盛り上がってハイタッチする二人。
「じゃ、なかった!」
ハッと我に返る東成。
「貴方たちが大事に保護してる、あの少年――どうなるかしらね?」
ニヤリ、と彼女は笑う。
「……!」
「彼のねぇ、『戦力応援隊』になる事にしたの。お母さんも取り込んで」
それじゃあね、と
彼?は言い、再び翼を広げると、瞬時に男性の姿に変わり、歩き出す。
「……?」
さっきの言葉はどういう意味だったんだろう。
まるで鬼に金棒のような言いぐさだったが、
お母さんも取り込んで、なんてコトは望んで居ない。
だとしたら、勝手に――――
「中枢って、まさか……!」
キャノはぽかんと見送っていたが、ハッと我に返る。
開いたドアと共に中に入っていく彼の後ろに続いて、キャノも中に入ることが出来た。
5月6日PM2:19
――――魔法を使う上で、まず気を付けないといけないのは何かわかるか?
――――範囲指定をする……ですか
――――それも最も大事なんだが、実はもう一つある。
――――えっと……
――――唱え過ぎない事だ。
――――唱え過ぎると、疲れてしまうから?
――――いや、ゲシュタルトが崩壊するんだよ
「ゲシュタルト……」
――――この町は衛星もあるから、ゲシュタルトに狙われたらひとたまりもないかもしれない。
――――ゲシュタルトは敵? 味方?
――――概念で説明するのは難しいな。




