侵入者と業火の魔女
お菓子の家の魔女みたいなものが居なくなった後、システムルームを目指してフロアを歩いて居ると、あちこちのモニターが、ベヨネッタを表示した。
『祟り神!』
『そうなんだろ! あ、神じゃなく悪魔なのか!?』
『だから殺したんだ──人殺し!』
響き渡る声。
モニターに表示される誰か。
業火の魔女、に対する挑発と暴言。
彼女自身は聞きなれた言葉になにも思わなかったけれど、コトが一番辛そうにしていた侮蔑の類いだなと感じた。
他の種族を都合よく悪者のように引き合いに出し、それを用いて気持ち悪いまでの執念をばらまく。
人種差別、に関しては拘る連中が多いくせに、それ以外の種族を平気で貶そうとするのが特徴的だった。
歴史上でみると、人間は他の種族よりは種族戦争を経験した日数が浅い。地球上で高度な文明を持つ生物の、一般的に目に見えるほとんどがヒトガタになって生まれたようなものだから。
「……ッフフフ」
魔女は唇を弧を描くように歪ませ、笑った。
「懐かしい言葉だな」
そろそろ来るような気はしていたけれど、想定よりは早かったか。
テネがちらりと彼女を見た。
「あれは、姉さんの、お友達ですか」
リルは「知らない奴だ。
けど、昔、ちょっとな」と言う。
「人を殺したんだ」
「そうですか」
テネは冷静に応えた。
リルは不思議そうに続けて言う。
「でも業火の魔女なんて、表向き魔女狩りも終わった昨今じゃ、随分と久しい言葉だけど」
今の世の中、異形の存在自体を認めない者だって居るのだが、正体を聞き出そうと必死になっている辺り、実は信じてくれているのかもしれない可能性を思うとちょっとだけ嬉しさもないでもない。
「今さら村のことだの誰が死んだだの持ち出す理由が、あいつにあるのか……」
ベヨネッタが最近出てきた集団だとして、お前のことは調べたという辺りにこの件に当事者意識はなく他人事な印象は受ける。
しかも、ネタが古い。
「まるで攻撃したいが為にネタを無理矢理覚えてきたような……」
それが、ちょっとちぐはぐで、気持ち悪いというか。
『──川ちゃんキノコちゃんのところでも!暴力を振るったようだな!』
「おー、新しいネタきた」
「曖昧だなぁ」
横で眺めていたキャンディが吹き出す。
「フレテッセと言い、ハンター側に出処が怪しげな情報が出回ってるんだな」
リルがモニターを見上げていると、キャンディが「あいつって──隣国の成り損ないだろ?」と口を挟んだ。確か、モーシャンがそのようなことを言っていた。
「例えばだけど、隣国から来たスパイが、例えば込神町に馴染む為に非合法で個人情報を調べていて……
外国だから精査しきれなくてっていうのはあるんじゃないか?」
リル、も頷いた。
「本拠地がこのタワーだと思ってる辺りは、社長が絡んでそうだしな」
──海外からそこまで来ている、そうまでして、このタワーまで個人情報を洗いに来ている、という行動力にはちょっと驚いた、が。
(なんだ、私自体に挨拶に来たんじゃないのか。ちょっと寂しい)
「とりあえず、下降りておじさんを探しに行こう……」
テネが言い、誰かがボタンを押した。ちょうどそのとき、端末に着信がある。
キャンディは慌てて通話に応答した。
『――侵入者が! 下に、エントランスに来てるみたいです! よくわかんないけど、挑戦者だとか、本拠地がどうとかって』
(4月25日9:30加筆)
・・・・・・・
同時刻、
「アハハハハハ!!」
報告を受けた大魔女もまた笑った。
面白いものを見たとばかりに、愉快そうに大笑いする。
「来たわね……ベヨネッタ」
4月25日AM9:30




