ベヨネッタと業火の魔女
――――そっか、
「俺の夢、叶えてくれないんですね」
叫ぶのにも疲れて、ぼーっと、壁に寄りかかる。
あれから、フロアには着いたけれど、すぐに皆を探しに行く気力がわかなかった。
酷く疲れて居るし、動揺していて、もしかしたらちょっとしたことで叫びだすかもしれない。
「なんで……なんで、嘘つくんだよ」
今まで、母さんたちが、『絶対に俺の事に関わらないでくれる』って、約束があって、絶対に、何も触らないって、約束してくれていた。
本人たちは大したものと思って居なかったかもしれないけど、俺には一番大事な約束だった。
神様の声を聞いたあの日から、
祖母に叱られたあの日から
俺はずっと、守って来たんだ。きっととっても大事なものなんだって、おいそれと他人に見せちゃいけないような、だけど確かに見えない誰かに届く声があるんだって感じていた。
母さんが約束してくれたとき、それが守れるんだってなんだか嬉しくて。
ずっと、
「ずっと、信じてたのに……!」
彼らは、そうじゃなかった。
俺を巻き込むことは、■■■■よりも重要だった。
■■■■■の理由なんか聞いてもわかるもんか。俺にはなんの関係もない。
母さんたちからも、守って、逃げて。
クラスメイトからも、隠れて、逃げて――――
それなのに。
みんなは揺さぶるようなことばっかりする。
母さんも、神がどうとかっていじる。
そのたびに、心が傷付いている。
そして、極めつけは、あの時見たデータだった。
■■■■がやったことなんて、本来はあれに比べたらいつも通りの数多くある■■■■のひとつに過ぎない些細な事。
──■■■■も、俺に関われば爪痕が遺せると思い上がって居たが、所詮は■■■■の意思の捨て駒に過ぎない。
ずっと不思議だったんだ。
俺との接点が──あの人だけだとしたら、どうして、わざわざ異能に絡めて工作する必要がある?
あの人の話だけなら、数秒と経たずにカタがついているはずの問題だ。
だとすれば、可能性が絞られる。
(母さんたちに『させている』のがそれだとしたら──俺の心を粉々になるまで傷付けることでチームを守るのが作戦って事になる)
ずっと、ずっと、俺は、俺じゃなくて、俺は、俺を実行するための俺だった。俺が何を思っているかも関係なく決め付けて、勝手に、あんな風に、広がっていた。
守るとか、隠れるとか、意志に関係なく。
定められているかのように、広がっていた。
(俺の意思、心は、まだ世界に残っているんだろうか――――)
なにか、を思い出しながら、深呼吸する。
少しだけ落ち着いてきた。
それに、
「彼女は……自分と、俺は、同じって言っていた」
何か、思いだそうとした。
けれど、それよりも早く、周囲にけたたましい警報が鳴り響いた。
――――な、に?
体を引きずりながらどうにか歩いて居ると、
辺りのモニターが侵入者を映し出していた。
「し、んにゅう、しゃ……そっか、さっきは、警報も、作動してなかったんだ」
ベヨネッタモードは、未だ残っているのだろうか。
あれ?
だけど、――――あれ?
「マオちゃん!?」
ぼーっとしていてあまり考えて居なかったが、マオちゃんってあんなに実体化していたっけ。
モニタ画面に大写しになっているのは、監視カメラの映像。
知らないみすぼらしい男性だった。
テロか? 脅迫? 愉快犯? ホームレス?
いったいなんの目的で……?
「何故殺した!!」
――――彼は、突如物凄い形相で叫んだ。
「何故殺した!! 皆の前で見せつけるようにまざまざとあいつを殺したってこと、『ベヨネッタ』は忘れて無いからな!! 此処がお前らの本拠地だとしたら、聞こえてるんだろう
――――業火の魔女!!!」
「え……」
それは確かに、聞いた事がある二つ名だった。
「呪いの事、調べてやる! お前の村も! キギの事も! お前の、人殺しも!」
彼女に関しては、別に驚くことは何も無い。あれだけの力があれば、いつだって簡単に他人を葬ることは可能だろうし、事情も何も知らないまま言えることもない。
そもそも彼女の青春時代は戦時中だったと聞いて居る。殺す為に魔法を使う兵器だったのだと、本人からも聞いて居る。
ただ……
彼女に執着している人物が此処を訪ねてくる状況自体に理解が追い付かない。表に全く出ていない筈の情報だ。それなのに、いったいどこから調べている? 村ってなんのことなんだ。
「ベヨネッタ……」
銃剣。榎谷。吸血鬼。太陽。魔女狩りに加担。
関わって傷跡をなんでもいいからつけておきたい。
アビィも望んでいる。
――――様々な言葉を思い出す。
それから、魔法使いのなりそこない、フレテッセの事。
『カメラの前で、有事まで好きに寝てていいはずなのに』
彼は、カメラの前でずっと対象を監視する退屈な仕事が存在することを明かしていた。補欠はずっとそれをしており、時々声がかかると殴り込みに出かける。
ボサボサの髪をして眼鏡をかけた、不健康そうな少年だった。
両耳にボルトみたいな形のピアスをしていて……
(自分たちの情報が何処かに伝わっているとしたら、怪しいのは魔女狩り組織……)
「こちー」
考えて居るとふと、あのニワトリのぬいぐるみの声がした。
廊下の奥から足元に突進してくる。
「……あぁ、無事か」
「こちー!」
「俺も、元気だよ」
不思議だ。こいつだけは視認出来ている。
恐らく高度な存在の持つ膨大な情報量が彼を視認させているんだろう。
本来の人間の許容できる情報量を超えている存在。
それが持つ意味は、わかってる。
彼女に会ったときから。
(わかってるけど……)
――――俺の心が、通常よりも心像を描けない、特定の情報、
自分の、心のデータすら
所有できないってことくらい。
心の中のものがあふれ出して、自分の中に決してとどまらないからこそ、
心の中に、自分の情報すら、何も存在出来ないからこそ、
『本来使うべきでなかった俺自身の領域まで、使用したから』
情報量を受け入れられ、
その領域にしか視認できない高位な存在を視ているんじゃないか。
この、真っ白な状態は代償。
エレベーターのボタンを押す。
なぜかわからないけど、最上階に――――
マオちゃんが居る場所に行かなくてはならない気がした。
すぐに開いたドアを開け、中に入ると、すぐにエレベーターが動き出す。
(なんだろう、この気持ち……)
すごく、悲しくて、寂しい。
フレテッセたちが憧れ、しがみついて居るものの正体は、
自分たちの命の消費そのもの。
ちょっと使ってるだけだから、多少情報処理速度に影響が出る程度で済んでいるんだろうけど――――
(アファンタジア、か……)
こんな気持ちが初めてで、正直いってどう表していいのかわからない。
思ったこと、心に描かれるべき、何らかの心像が、真っ白な光の中で溶けて、
頭の中にはただ、白い場所だけが見えている。
もし今、正気を手放せば――――
心の奥に映像が浮かんでこないそれを一瞬でも怖いと感じれば戻れなくなりそうだから、極力大人しくしていようと思う。
(どうせなら自分の命を使えば良いのにと、簡単に言えたらいいけど、既にそれすら失敗して、何処にも帰る場所が無いのが彼等だったか)
自分は、この身体で、幸せなんだろうか。
『彼女』は、幸せだろうか。
メモ帳、が、無いので代わりに携帯を起動し、そっちのメモ帳を開く。
――――いつもの記憶を思い起こす。
スケッチをするように、
ぼやけた風景を補う単語を並べる。
「
此処は、ビルの中、
今、
俺は、エレベーターに居る。
1時の方向に、ボタンがある。」
2023年4月15日23時38分‐2023年4月22日2時34分




