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魔神 が 生まれた 日

本作品は実際の事件、事故、また人物、団体等とは一切関係ございません。

また、度々なろう作品を小馬鹿にしたような描写が見られますが、あくまで作品内の出来事ですので、作者の思想を反映するものではありません。



「もう限界」


そう言い残し、お袋が家を出ていった。

親父が定年まであと一年を切り、俺がハマっているソシャゲのクランが一位を獲得した日の事だった。


親父はお袋を追いかける事なく、俺も「新しく若くて綺麗なメイドさんでも雇おうぜ」なんて軽口を叩いていた。


それから一週間、家は荒れに荒れた。

そこら中に弁当の空容器やペットボトルが散乱し、溜まりに溜まった洗濯物からは腐敗臭がした。


俺は別に潔癖症では無いが、流石に体臭の酸っぱい匂いが気になりだす。

頭も痒い、風呂に入ったのって何日前だっけ?


親父は昔から仕事気質な人間で、家の事などこれっぽっちもしてこなかった。

そんな亭主関白な親父の背中を見て育った俺は学校で壮絶なイジメに会い、高校を中退し大学も中退し声優専門学校を卒業し、今では立派なニートになった。


いい加減この状況を何とかしなければならない、

じゃないとこのゴミ山に埋もれて死んでしまう。


俺はお袋のスマホにLINEを入れた。


「いい歳こいて何ムキになってんだよ早く帰って飯作りにこいよそれが専業主婦の仕事だろ」


しかし何日経っても既読マークがつくことは無かった。


俺がやらなければならないのか、

いや…

しかし…


俺にはガチャを回し続けてクラン一位の座を死守しなければならない大事な使命がある、

他のクラメンはみんな貧乏で仕事に追われた哀れな社会の歯車達ばかりだ。


オラがやらなきゃ誰がやる!


俺は目の前の些事を投げ棄て、寝食を忘れ、青天井まで脳死でガチャを回し続け世界を救う重大な使命に没頭した。


だが、


「嘘だろっ⁉︎」

不覚にも寝落ちしてしまった翌日、俺のクランの主力クラメンが垢バンされ順位が大きく後退してしまっていた。


「フッざけんなよ『kirihito⚔』!!何チート使ってんだよ⁉︎」

マズイ、急いで穴埋めをしなければ

俺は階段を駆け降り親父に小遣いをせびりにいく。


「親父!小遣いくれ!取り敢えず30万っ!!

早くしないと俺のクランが…」

「無えよ」


は?


「俺ももう歳だからな、早期退職させて貰った。

退職金は家のローンに突っ込んだ。後は悠々自適に年金生活だ」


はぁぁあああああああああああ⁉︎


「フッざけんな!俺のクランはどうすんだよ!早くしないと」

「働いて自分の金でなんとかしたらいいじゃ無いか」


目から鱗、


な訳は無かった。

それが出来たら苦労はしねえ

いや苦労はしてないんだけど


「今すぐ辞職願取り返してこい!俺を産んだ責任とって死ぬ迄働け!!」


親父に頰をはたかれた、


殴ったね、親父にもぶたれたことないのに!

いや今ぶたれたけどっ、

その日、俺は産まれて初めて親父と殴り合いの喧嘩をした。



──結果は俺の完勝だった。


やはり素人の喧嘩は体重が全て

100kg超えの恵体ワガママボディを持ち、

軍隊式暗殺八極拳を会得した俺に

枯れ草のような親父が勝てるわけがなかった。


俺は泣き、勝利の咆哮を吠えた。

虚しい勝利だ、後には何も残らない

悲しいけどこれ、戦争なのよね。


その日、俺はクラン引退を告げIDを売った。

皆俺の突然の引退に動揺し、散々引き留められた

俺だって引退したくは無かった。

あまりの名残惜しさに震え泣きながらアカウントを仲間に譲る。


俺の青春と人生とお小遣いの大半を捧げた垢は、

つゆだく葱抜き並盛牛丼十杯分にしかならなかった。


時間が余り、することの無い俺は渋々部屋の掃除を始めた。

本当は業者に頼みたかったが、金が無いので自分でやるしかない。


黙々と片付けていたら、いつの間にか親父が隣で作業を手伝っていた。


あちこちに痛々しい怪我の痕があり(親父が愚かにも俺に挑んだせいだが)、その背中は昔より幾分小さく感じた。


気が付けば俺はまた泣いていた。

きっと、久々に当たった夕日の光が目に染みたのだ。

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