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メモリーメドレー  作者: 秋猫シュガー
二章・見られなくても
7/7

始動

 夜の町並み、それは昼に見ていた景色とは全く違う世界。

 そんな時間にも人々を運ぶ電車は走っていた。

 灯夜達が暮らす町を走っている電車はこのまま終点まで行き今日の仕事を終わろうとしていた。

 しかし、軽快に進んでいた電車は突如としてスピードを落とし、停止してしまった。

 停止した原因を調べるため車掌は会社に連絡を入れ、電車を降りた。その電車には乗客は乗っておらず、灯りだけが点いていた。

 辺りに不審なものがないか確認し終わった車掌は、電車内に戻り車両の中の確認をしだした。

 電車の最後尾に着くと、何か液体が垂れるような音がしていた。その音につられるように、車掌はそこへ向かった。

 音があった所には天井から何か黒い液体が垂れており、小さな水溜まりを作っていた。

 それに近づくにつれて液体が垂れる音に加え、誰かが喋っている音がした。

「ドコダ……ドコダ……」

 その声は、掠れた男の声のようで時折ゴボゴボと液体の中から泡が出ていた。

 車掌がその声に気づいた時には電車内の灯りは消え、叫び声だけが辺りに響いた。

 翌朝、灯夜が学校に着くと生徒の数がいつもより少なかった。

 周りの生徒からの話を聞くと、電車がストップしており、道路がいつもよりも渋滞しているようだ。

 灯夜も朝食中に点けていたテレビニュースでその事は知っている。

 昨夜、終点で待機していた作業員が停止したと連絡のあった電車の元へ行くと、最後尾に黒い液体のようなものが付着しており、夜の景色に溶け込んでいた。それを見た作業員は警察に電話、その後電車内にいた車掌は黒い意識不明のまま、液体を被った状態で発見され、病院に搬送された。

 その後の事はニュースでは話されておらず、犯行のわからない珍事件として扱われていた。

「灯夜くん!今日のニュースは見た!?」

 灯夜が席に着くやいなや加代がバンバンと灯夜の机を叩きながら言った。

「何のニュース?」

「決まってるじゃない!列車黒塗り事件よ!あれは絶対、幽霊か妖怪の仕業よ!」

「そうなんですか?」

「絶対そうよ!うぅ~、興奮してきた~!」

 そう加代は大声を上げながらはしゃいでいた。

 周りの生徒はその事に気にしていない様子よりも、いつもの事のような感じで無視していた。

 その後、少しの遅刻者が出ただけでいつも通り授業が進んだ。

 放課後、灯夜が加代の席に行くと多くの人だかりができていた。

 加代は、タブレットを動かしていた。

 灯夜はタブレットの画面を覗き込むとこの学校の駐輪場を映した動画が流れていた。

「あ、この人じゃない?」

 加代がそう言って指差した先に、自転車のタイヤの辺りを触っている生徒が見えた。

「あ!私の自転車!」

 一人の女子生徒がそう言った。

 その後、自転車を触っている生徒を呼び出し先生と話合っていた。

 近くの生徒の話を盗み聞きすると自転車を触っていた生徒は何台もの生徒の自転車をパンクしていた常習犯だったらしい。

 その後、加代は被害者の生徒達に感謝されて照れていた。

「加代はなぜか機械弄りだけは得意なんです」

「うわ!?」

 いつの間にか、その様子を見ていた灯夜の隣に真保がいた。

「私が隣に来たこともわからなかったなんて、そんなに加代が気になりますか?」

「うん、そうだね」

 真保は少し目を見開いた。

「どうしてあんな性格な彼女が、あんな幽霊部に入ってるのか気になるんだよね」

「……ハァー」

「え?真保、なんか言った?」

「いいえ」

 真保と別れて残りの授業を受けると、放課後になり、灯夜と明花は一緒に部室へと向かった。

「なあ、明花」

「何?」

「何で教室に迎えに来たんだ?」

「だって、前みたいなのがあったら怖いし……」

 なんだか半分言い訳のような口調で明花はそう言った。

「まあ、いいや」

 それから、隣の校舎に移動した瞬間にバンッという何かが破裂するような音が廊下に響き渡った。

「今のって……」

「部室の方からだよ!」

 灯夜達は急いで部室に向かうと、扉の隙間から白い煙が漏れだしていた。

 灯夜が急いで扉を開けるとバラバラになった何かと呆然に立っていた加代だった。

「加代、大丈夫か?」

 加代の体は少し埃を被っていただけで怪我などはしてなかった。

「こ、こ……」

「こ?」

「壊れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 かよは、学校中に響き渡るのではないか位の声を上げてバラバラの破片の周りを走り回り、数周したくらいで落ち着いて止まった。

「えっと、加代……大丈夫か?」

「まあ、心はボロボロだけど体は大丈夫」

 灯夜の問いかけに加代はもう少しで泣きそうな顔で答えた。

「で、何があったのよ?」

 灯夜の後に入ってきた明花が聞いた。

「それが……前に使った『幽霊探索装置』が使っても反応なかったから、もしかしたら電池かなんかが無いと思っていじくってたら急にボンッ!って」

「…………」

 加代が説明している横で真保は無言でロッカーに入っていたホウキとちり取りを手に、破片を集めてビニールの中に入れていた。

「うぅ、あれがないともう幽霊探しができないよ~」

「だったらまた作れば良いじゃないの?」

 明花がそう言った。

「あれは、私の先輩が作ったもので作り方も教わって無いし、資料もロッカーの中には無くて……はぁ~」

「うーん……あ!」

 するといきなり灯夜が何か思い出したような声を上げた。

「ロッカー以外に見てない所と言えば、天井の空間は見たんですか?」

「あ、そういえば見てないな。あそこガラクタがいっぱいで全部見た訳じゃないんだよね」

「けど、見る価値はありそうですね」

「え、この部室天井裏あるの!見たい!見たい!」

「よーし!じゃあ今回は、天井裏の掃除だぁー!」

 そして、灯夜達は、天井裏の掃除を始めるのだった。

 部室の隅にあった梯子を使い、灯夜は天井裏を覗いた。

 中はガラクタのようなものが多く積み上げられており、人1人分しか道があるだけだった。

「お兄ちゃん、どんな感じなのー?」

「これは2人も入れそうにないから、俺が1個1個下に運んでいった方がいいかもしれない」

「灯夜くんがそう言うのならそうしよう。まあ、私と真保は前からその中がガラクタばかりなのは知ってるから最初からそうしようとしてたんだけどね」

「……あ、灯夜、奥にある棚の中身はそのままで良い」

「わかった」

 真保の忠告を聞いた灯夜はガラクタの掃除を始めた。

 ガラクタは全てが何かしらの機械の一部分を繋ぎ合わせたような形状をしており、アンテナのようなものから小さな画面が付いているものが積み上げられているようだ。

 灯夜はそのガラクタを一つ一つ天井裏から真保達に渡していった。

「あれ?」

 二割程片付いた頃、ガラクタの中から本が出てきた。

 手に取って開いてみると、男女がお互いの手を繋ぎあいながら向かい合って……

「っ!!!!」

 灯夜が次のページを開こうとしようとすると、一瞬のうちに本が奪われ、灯夜が振り向くと、真保が後ろに立っていた。

「見ましたか?」

「いや、ちょっとだけ……」

 灯夜がそう言うと真保は諦めたような顔をした。

「ここら辺にある本は私のなので、見ないでくれると、嬉しいです」

「う、うん」

 真保はまだ落ちてある本を集めまた下に戻っていった。

 その後もガラクタの山を崩していき、数時間後には本が仕舞われている本棚だけになった。

「ふぅ、思ったよりも先輩のガラクタが多かったな。灯夜くんお疲れ様」

 加代は腕で額の汗を拭う仕草をしてそう言った。

「それで、加代先輩(お兄ちゃん泥棒)、これはどうするんです?」

「明花ちゃん、ルビに変なの入れてたでしょ……。おほん、このガラクタは普通に処分にしようと思ってるかな、先輩には悪いけど、このまま仕舞ったままにはしておけないし、しっかり分別してからゴミに出そうか」

 そして3人はガラクタを袋に分けて入れて捨てて置いた。

「何か脱線してない!?」

 加代がそう言いながら椅子から立ち上がった。

「何?」

「機械の修理!忘れたぁ!」

 加代は机の周りをぐるぐると回り叫んだ。

「修理と言っても……ガラクタは全て捨てたし……」

「アァァぁあぁあ………」

 灯夜の一言で、加代は走るのを止めその場で膝から崩れ落ちた。

「これからどうやって部活しよう……」

 加代は床を見つめ、今にも泣きそうな声を出した。

「あんな機械無くても部活はできるでしょ?」

 明花は腕を組ながらそう言った。

「でも、でもぉ……」

 けれども加代の顔は上がらない。

 それを見た灯夜は、真保に目線を送った。

 真保は、何かを察したのか灯夜の方へ行き、灯夜の方に耳を傾けた。

「なあ、加代にも明花みたいに見えるようにしないのか?」

「あれは、私の姉からの指示でやったって言わなかった?」

「聞いてない聞いてない」

 突然来た未知の情報に灯夜困惑。

「えぇと……私の姉が『白坂灯夜の妹なら何やっても大丈夫』って言ったから……」

「真保の姉は一体何者……?」

「会ってみる?」

 真保がそう言うとポケットからスマホを取り出し誰かに連絡をした。

「1秒後に来るr」

 バタン!!

 真保が話している途中でいきなり部室の扉が開いた。

「愛しの真保~♡待った〜!」

「待ってない」

 そうして出てきたのは、真保とは正反対にとても明るそうな感じの女性だった。

「え?え!?」

「誰?」

 困惑する明花と加代。

「事情は聞かせてもらったよ!」

「「私は聞いてない!」」

 困惑しながらもしっかりとツッコミ入れた。

 灯夜は明花と加代に真保とした話の内容を説明した。

 しかし、明花の事や幽霊の事などは伏せておいた。

「てなわけで、真保のお姉さんの話をしたら真保が来るように連絡して来てくれたって感じ」

「なんか飛ばし飛ばしな感じがするけど、なんとなく分かった」

 2人とも疑問に思っている所もあるようだが納得してくれた。

「お兄ちゃんが言ったことが本当だとしても、来るの早すぎない?」

「愛の力……です!」

「……。」

 真保の姉に頬ずりされている真保が、ドン引きするような表現を一瞬したように見えた。

「そういえば、自己紹介をしてなかったね。私は真保の姉の仔春(こはる)。よろしくね」

 仔春はそう言って真保の体を弄り始めた。

 真保は抵抗する体力が無くなったのか、仔春の人形のようになっていた。

「で、お兄ちゃんは仔春さんになんの用だったの?」

 明花がそう聞いてきた。

「えぇっと……」

 灯夜は目を泳がせながら、返答を考える。

 明花に幽霊等のものを見せるようにする許可を出した仔春がどんな存在なのか、知りたいとは思ったが、今ここで話すと部外者の加代に聞かれてしまう。

 灯夜は視線だけ真保に向けた。

 真保はなにかを察したように、仔春に弄られながらも、震えてる手を動かして両手の人差し指でバツ印を作った。

(カッワイィ!)

 窓辺で一部始終を見ていたクロすけは、真保のその行動を見て悶絶していた。

「えぇっと、考えてなかった……」

 灯夜の言葉は嘘でも本当でもない一言。

「よし!じゃあ何処かへ行こう!」

 唐突に加代が椅子から立ち上がりそう叫んだ。

「何処って、まだ学校中を回るんですか?」

 そう明花の発言に、加代は人差し指を立てて左右に振った。

「チッチッチ、せっかくお客様が来たのに同じことじゃあ、つまらないでしょ、だから……」

「「「だから?」」」

「今回は、息抜きがてらに銭湯に行こう!」

「それって加代が行きたいだけ……」

 ボソッと、真保がそう言った。


 列車事故があった場所から、少し離れた場所。黒くドロドロしたなにかが道を這いずっていた。

 とても異常な光景だが歩く人々は、見えてないように通り過ぎてゆく。

 そして、それはそれを見つけると自分の体内に入れるように取り込んだ。

『恋愛トラブル!銭湯編』というマンガ本を……。




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