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「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
近所の神社で涼音さんと待ち合わせをした。私はおめかしをして振り袖を着ている。涼音さんはといえば、いつものコートを身にまとっていた。
除夜の鐘が鳴り終わる頃、神社へと続く階段を混雑のなか歩いていく。私が涼音さんのコートの袖をつまんではぐれないようにしていると、彼女の方から手を握ってきた。
「これなら絶対はぐれないよね?」
涼音さんはにっこりと微笑む。真冬の外気に晒されてすっかり凍えていた私だが、彼女と手を繋いだだけで、顔から湯気が出そうなほどにぽかぽかとしてくる。
ようやっと神社にたどり着き、がらがらと鐘を鳴らす。私はお賽銭を投げ入れて
(今年も涼音さんと一緒にいられますように)
とお願いした。
そうして人混みの中を逆行していった帰り道に、二人でおみくじを引いてみた。結果は中吉。さっそく恋愛運の項目に目を通すと、
『成就せり』
と書かれてあった。飛び跳ねて喜びそうになるのをこらえながら尋ねる。
「涼音さんはどうだったんですか?」
「大吉。特に学業の運がいいみたい」
彼女は財布の中におみくじをしまった。そうして人混みの中で再び手を繋ぎながら境内を後にした。
こうして涼音さんと手を繋いでいるのだから、あのおみくじもあながち嘘ではないらしい。こうしていると彼女の温もりが直に伝わってきて、心まで温かい気持ちになってくる。
正月三が日はカンフリエもお休みで、翌四日から営業再開となる。営業開始時間五分前にドアが開き、ベルが鳴る。そこに佇んでいたのは涼音さんだった。
「今日からまたお世話になります、店長」
「あら、今年もよろしくね」
涼音さんに折り目正しく頭を下げられて、母は柔和な笑顔を見せた。
「おはよう飛鳥ちゃん。お正月以来ね」
涼音さんは私に向かい、手をひらひらさせた。
「そ、そうですね。あのときはありがとうございました……」
私は落ち着きなく両手の指を絡ませた。
涼音さんは店内を少し歩き回り、出窓のところで足を止めた。そこには彼女に渡せなかったスノードームを置いていた。
「へえ、可愛いなあ。これ店長の趣味ですか?」
「いいえ、それは娘がそこに置いたのよ」
涼音さんは再度「へえ」と口にして、私の前に歩み寄ってきた。
「ねえ、飛鳥ちゃん」
「はい」
「このスノードーム、気に入っちゃった。可愛いよね」
涼音さんは両手で大事そうにスノードームを包むと、ゆっくりそれをひっくり返した。中で発泡スチロールの雪が舞い散る。
「あ、あの。よかったら、それ、差し上げます」
「え、いいの?」
「もちろんです。是非もらってください」
涼音さんは一瞬思案した後、持っていたバッグの中にスノードームを丁寧にしまい込んで「ありがとう飛鳥ちゃん」と笑顔を見せた。
思いがけずクリスマスの日に渡せなかったプレゼントを渡すことができた。この可愛いスノードームが涼音さんの部屋に飾られるのを頭の中で描いて、どうか彼女の部屋に末永くいられますようにと願った。