「晩ごはんの選択から人生を語る」
「くそー、腹減ったなあ」
帰宅途中の高校一年生、新条ヒロトは空腹だった。
「確かにお腹減ったわね」
新条ヒロトのクラスメート、中村ユリカも空腹だった。
「せっかくだし、なんか食って帰るか」
「それはいいわね」
「しかし、何食うかな」
新条ヒロトが聞くと、
「私たちの未来には、現在二つの選択肢が用意されている」
「どんな」
「一つは思い切り安い店に行くこと。もう一つは思い切り高い店に行くこと」
「……フツーに、思い切り安い店でいーんじゃねーの」
「しかしそのお店には欠点があり、あまりにも安い分(例:アジフライ定食 みそ汁付 \180)味の保証は全く無いため、お腹はふくれるけれどもお店を出る時の不快感には定評がある」
「……じゃあ高い店の方か」
「しかし高い方のお店にも欠点がある。確かに高い分ご飯もおみそ汁も主菜も手間暇かけて作られていて、胃袋は快感で満たされお店を出る時の満足感も申し分ない。しかし一人3000円取られる」
「……ちょっと待て。フツーに考えて高校生の予算で一食3000円はキツイだろ。つーかその中間はないのか。味がそこそこで700円くらいの店、探せばいくらでもありそうだろ」
ヒロトが言うと、ユリカはキッ、とヒロトを睨み付けた。
「あなたはそうやっていつも、全てをアイマイにして『逃げの人生』を送っているのね」
「なぬ?」
「人間社会生活において何かを手に入れるためには、何かを犠牲にしなければならないことは自明の理。あなたはそれに反して中途半端にいいとこどりをしようとしている。私はそれが許せない」
「晩メシくらいで大げさな」
「いいえ。日常の些細なことから人生の結末は巧みに導かれていく。私たちは人生の結末をより良いものにするために、思い切り安い店を選んで合理的に貯蓄を行うか、或いは思い切り高い店を選び舌の感受性を鍛えるか、どちらか一つに行動を定めなければならない。そうしなければ私たちは今後の人生においてきっと……負け犬になってしまうことでしょう」
「……話が飛躍しすぎてよく分からねえが……じゃあまあ、お互いの財布の中身を見てどっちに行くか決めるか」
そう言って、ヒロトは財布の中を見た。そこには2000円弱が入っていた。
「ユリカはいくら持ってるんだ」
「……30エンシカハイッテナカッタ」
ユリカは涙目で言った。
「じゃあまあ、思い切り安い店に行くしかないな。……ユリカ、あとで足りない分の金返せよ」
「……はひ」
こうして二人は高校の帰り道、思い切り安い店を選び、微妙な味の料理を食した。
「……あまり合理的すぎるのもちょっと考え物だったかも……」
ユリカは涙目であまりおいしくないゴハンをもそもそと咀嚼しながらつぶやいていた。
完