偽物
俺は、プラネタリウムが見たくなった。
久しぶりに来たが、やっぱりここのプラネタリウムは最高である。
どうして南を連れてきたのかは自分でもよくわからないが、
心のどこかで、南ならここの良さがわかってくれると思ったのかもしれない。
だけど正直、南が泣いていたのは驚いた。
「…え!?」
俺が何かしてしまったかと一瞬不安になったが、南の様子を見るとそういうわけではなさそうだった。
「ごめんね…。」
落ち込んだように謝る。
泣いた理由は分からなかったけれど、俺はまたここへ、一緒に来たいと思った。
何故だからわからないけど、そう思った。
「はぁ…。」
今日はとんだ災難にあった。
千絵ちゃんと橙子ちゃんを間違えてしまったし、さらにはそのあと圭と千絵ちゃんと連絡が全くとれない。
「…ごめん、なんかごめん!」
「別にいいですよ。」
俺が橙子ちゃんに謝ると、笑ってそう言ってくれた。
「私と千絵さん間違うなんて、神楽君って面白いですね。」
「いやー、思いのほか怖くてさ、、、。」
後悔した。
圭の携帯は電源が入っていないし、千絵ちゃんも一向に電話に出ない。
俺はだんだんイライラしてくる。
「橙子ちゃんごめんけど、今日はもう解散にしない?」
「あ、、、私もそろそろ帰ろうと思っていたところだったので。」
「そっか。なら良かった。じゃあ、また明日。」
俺はニッコリと笑って橙子ちゃんに別れを告げて、ゲームセンターを出る。
出たところの入口のそばには空き缶が落ちていて、俺はそれを思いっきり蹴飛ばした。
すると、それがたまたまそばでたむろっている金髪の男子高校生達に当たる。
高校生達の視線が、一気に俺に集まった。
「おい、謝れ。」
高校生達は俺を睨んでいる。
俺が黙っていると、空き缶に当たった高校生が俺のところに来て胸ぐらをつかみあげた。
「聞いてんのか?」
俺とその高校生の目が合う。
俺はただでさえイライラしていたから、その高校生の手を思いっきり掴んでひねりあげた。
そして、その高校生は地面に崩れ落ちて、
他の高校生と一目散に逃げていく。
俺は乱れた髪を直して、また歩き出した。
そして電話をかけようと携帯を開く。
「あ、今から来れる?今新宿なんだけど。」
いつものように、また彼女のうちの一人に電話する。
俺は電話を終え、また歩き出した。
私は次のバスに乗って、家に帰っていた。
バスに乗っている間は何もやることがなかったので、ただ外を眺めていた。
バスが街の真ん中にある駅に止まる。
すると、道路のすぐ隣の歩道に、水野君らしき人が歩いていた。
「え…!?」
私は急いで立ち上がり、適当に多めのお金を運転手に渡して、バスから降りて走り出す。
しかしよく見ると、その人のジャケットは焦げ茶で、別の人であることに気づく。
「なわけない…か。」
辺りはもうすっかり暗くなっていて、ビルやデパートの明かりが華やかに街を彩っている。
「あ…ここ、新宿だ。」
どおりでこんなに人が多いはずだ。
午後八時四十分。
私は時計を見て、また歩き出す。
すると顔を上げた瞬間、目の前に見たことのある人が歩いていた。
「…神楽君?」
中に着ている赤いTシャツを見て、確かに神楽君だと確信した。
神楽君は、綺麗な女の人と腕を組んで歩いてた。
驚いたが、
神楽君が自分のことをもう好きじゃなくなったことがわかり、安心した。
それで終わっていれば良かったものの、私に余計な気持ちが沸き起こる。
私は今度神楽君をからかってやろうと思い、ついて行くことにした。
しばらくして、神楽君が立ち止まる。
そして、顔と顔が重なる。
私はその光景を見ていられなくて、思わず目を瞑った。
そしてゆっくりと目を開けると、神楽君はその女の人の頭をポンポンと叩いて、手を振ってまた歩き出した。
私は自分の頬が熱くなっていることに気づく。
しばらくして話しかけるタイミングを失い、どうしようかと迷っている時、
神楽君がポケットから携帯を取り出したのと同時にキラッと光るものがそこから落ちた。
私はそれを走って急いで拾った。
拾ったのは指輪だった。
銀色の指輪で、ハートのマークが彫ってあるのを見ると、ペアリングのようだった。
さっきの彼女さんとのものだと思い、急いで渡そうと前を見て走りだそうとした。
しかし、その瞬間、私の足は止まった。
「…え?」
私の目には、さっきとは違う女の人とキスをしている神楽君が、はっきりと映っていた。
私は自分の目を疑う。
だけどどこからどう見ても、それは神楽君だった。
キスしたあと神楽君は、その女の人と笑い合っている。
嘘だと思った。
今まで知らなかった神楽君が、突然目の前に現れて、私の肩をどんと押して突き放すような感覚。
私は気付いたら、右手に指輪を握り締めたまま、今来た道をがむしゃらに走って戻っていた。
8ー偽物ー