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ハレゾラに星  作者: れもん
7/28

星と涙

俺は今がチャンスだと思って、慌てて千絵ちゃんの手を掴んだ。


そして思いっきり引っ張る。


びっくりしていたのだろう。


そんなに抵抗しない。



「よし…!!」



俺は出口まで千絵ちゃんを連れてきた。


そして彼女の方を見た。



「...え!?!?!?」



俺は咄嗟に掴んでいた腕を手から離す。


俺の目の前で、予想外のことが起こっていた。



そこには、橙子ちゃんがいたのだ。




「…神楽君、どうしたんですか??」




橙子ちゃんがびっくりした顔でこちらを見ている。



俺は、致命的なミスを侵してしまったのだった。









「二人、探してこようか…。」



動揺しながらも、私は妥当なことを言うことができた。



「…いや、ちょっとお願いがあるんだけど。」


しかし、それも無意味に終わる。


「行きたいところあるから付き合ってくれない?」


「行きたいところ…。」


水野くんが真剣な顔でこちらを見るから、


断ることもできずにそれについていくことにした。



何故水野君が私を連れ出したのか、それは謎なままだったが、


不思議と嫌じゃなかったのは、私がお化け屋敷が嫌いだったからで。



そして私達はゲームセンターを出て、バスに乗る。


乗客は私達以外、誰もいなかった。


私達は二人席に座る。


バスの中は、自分の心臓の音が聞こえるくらい静かで、私は緊張して何も話すことができない。


水野君も、ずっと窓の方を向いて頬杖をついている。



バスに乗って二駅目くらいになった時に、ようやく私は心が落ち着いてきたので、水野君に話しかけた。



「…どこ、行くの??」



「…。」



返事がない。



不思議に思って水野君の顔を覗くと、寝顔が見えた。



いつも人を小馬鹿にしたような態度だが、その寝顔はなんだか可愛らしかった。


水野君の顔をじっと見ていると、ゆっくりと水野君の目が開いた。


水野君の目が丸く見開いている。


私は急いで自分の顔を離す。



「…なに?」



水野君が少し私の方へ顔を近づけて聞いてくる。


私はなんて言ったらいいのかわからず、顔を真っ赤にして黙ってしまった。



「…変なの。」



〝~次の停車駅は、新山です。〟



その状況に割って入るように、車内アナウンスが流れる。



「…降りるよ。」



水野君はそう言うと、私よりも先にバスから降りた。



私は、熱くなった顔を手で押さえながら、その後に続いた。




六月の東京は、梅雨のせいか少し気温が低い。


その冷たい空気が、やんわりと私を包み込み、ほてった体を冷やしてくれる。



降りたバス停の前には、大きなドームのような建物が建っていた。



「ここ、なに?」



「行けばわかるから。」



そう言って、ちょっと嬉しそうな顔をして水野君は歩き出す。



私は、それに黙ってついていく。



「…『プラネターリアム新山』???」



私は入口の前について、書いてあるその建物の名前らしきものを声に出して読んだ。



「うん。俺、星好きなんだよね。」



さっきよりも増して、嬉しそうな顔をする。



「私も…好きなんだ。」



私の大好きな星。


水野君も好きと聞いて、私は嬉しくなった。



「なにそんなニヤニヤしてんの?」



水野君が私を面白そうに見る。



「えっ、いや、なんでもないよ。」



私は恥ずかしくなって水野君より先に建物に入る。



そしてプラネタリウムに入って、適当に空いている席に座る。


館内は真っ暗で、隣にいる人の顔すら見えなかった。


人がいる気配はあまりしない。



「…大丈夫?」



水野君が小さな声で私に話しかける。


「だ、大丈夫。」



しばらくして、プラネタリウムの場内アナウンスが始まった。



天井には、数億個もの星が散らばっている。


まるで本物のように見える星。


その綺麗さに圧倒された。




「綺麗…。」




私はつぶやいた。



「うん…。」



水野君も、私の声に返事をしてくれたのか、小さな声でそう言った。






そして、プラネタリウムが終わる。



部屋が徐々に明るくなっていくのがわかった。



やっと隣の人がはっきり見えるくらいの明るさになる。




「え?」




水野君が、私の顔を見るなり目を丸くして驚いた。



その水野君が、揺れて見えた。



「なんで、泣いてんの…?」



私はびっくりして、すぐに自分の顔を手で押さえる。


すると確かに、手は水に触れた。




「ごめん!知らない間に…!!」



私は急いで、手で涙を拭く。



「待って。」



そう言って、水野君が私の手を掴んだ。




少し茶色がかった綺麗な瞳が、


まるで私を突き刺さすかのように、


まっすぐに私を見る。



「なんで謝るの?」



水野君の顔は、真剣だ。



「いや…うん、ごめん…。」



私は動揺して、また謝ってしまった。



「だからぁ…。」



水野君が苦笑いをする。



「…俺、なんかした?」


水野君が不安そうにこちらを見ている。


私は黙って首を振った。


「…じゃあ、どうしたの?」



水野君が優しい声で言う。


私は、何も言わずに黙ってうつむいている。



「…言いたくない?」



私はその言葉に、黙ってうなづいた。


すると水野君は立ちあがって何も言わず、ここから出る準備をした。


私もそれに続いた。



そして、私達はプラネタリウムを出る。



前を歩く水野君の背中は大きくて、その影にうもれてしまいそうだった。


急に泣き出すなんて、変な女だと思われたに決まっている。


せっかく誘ってもらったのに、最悪だ。


そんなことを考えていると、気づいたら水野君は私の隣を歩いていた。



何も言葉を交わさず一緒に歩いているだけ。


ただ隣を一緒に歩いているだけ。


ただそれだけだったが、このまま時間が止まってしまえばいいなんて、そんな馬鹿なことを考えていた。



「あのさ、」



バス停に着いたとき、水野君が私の方を見て、ぽつりと言った。





「…今度、」



辺りはしんとしている。




「また来ようよ。」




その瞬間、冷たい肌を優しく撫でる風が吹いた。



私は水野君と目が合ったまま、体が固まってしまったから、目を逸らすこともできない。




「あー、南って家、山本行きだよね?」


水野君は続けて言った。



「…俺、新宿行きだから。」


少し顔に笑みを含ませながら私に言う。



「また明日。」



そしてすぐに新宿行きのバスが来た。



水野君はそれから一度もこちらに振り向かずにさっさとバスに乗り、ここからいなくなった。



しばらくして山本行きのバスが来た。


バスの中から、車内アナウンスが聞こえる。




そして、バスはすぐドアを閉めて走り出した。








私の体温が、上がっていくのがわかる。






私はまだ新山のバス停に一人、そのまま立ち尽くしていた。





7ー星と涙ー


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