五分後
取り残された私と神楽君は、そのあと公園に寄った。
二人でブランコに座る。
もうすっかり日は落ちて、辺りは暗くなっていた。
「…あのさ、気持ちまだ変わってない?」
神楽君が今までと同じように接してくれるから、すっかり忘れてしまっていた。
「…ごめん。」
私は小さな声でつぶやくように言った。
すると突然、神楽君が上を向いて笑い出した。
私が驚いてそれを見ていると、いきなりこっちを向いて顔を近づけてくる。
「…俺、そろそろ我慢できないよ?」
息を吐くような、そんな声。
体が一気に熱くなる。
きっと今の私の顔は真っ赤だった。
暗くて本当に良かったと思いながらも、それでも私は動けないでいた。
「…あ、そーだ。じゃあ今度の日曜、デート行かない?もうすぐテストだから、一ヶ月先になっちゃうけど。」
するとさっきとはまるで別人のように明るい声で神楽君が言う。
「…二人で!?」
「んー、いや、千絵ちゃんが嫌なら、圭とか橙子ちゃんとか誘っていいけど?仲いいんだよね?今日喋ってたし。」
「うん、そうだけど…。」
「いい?」
神楽君が私をじっと見ている。
まるで首を横には振らせないと言っているようだった。
私は縦に首を振ったが、
気づかない間に、神楽君が言った名前に心が引き寄せられていた。
そして約束の日曜日。
あの日の翌日、橙子ちゃんが手を叩いたことを謝ってきた。
「ごめんなさい…。あの時の私、ちょっとおかしかった。気にしないでください。」
橙子ちゃんは、笑ってない笑顔で言った。
いや、ちょっとではなかった。
しかし橙子ちゃんがそう言うのなら、あまり深く聞かない方がいい。
そう思った。
そして今日は、私は断る橙子ちゃんを無理やり連れてきた。
どうしても、私は行きたかった。
橙子ちゃんと二人で待ち合わせ場所に向かうと、もう既に水野君と神楽君がいた。
「やっほー。」
「おっす。」
「おはよう。」
「お、おはようございます…。」
水野君の私服を見るのは初めてだった。
白のシャツと黒いジャケットを着て、すらっとした足にはジーパンがよく似合っている。
「よし!じゃあ行こっか!!!」
神楽君が今日一日の牛耳を執ってくれるらしい。
神楽君みたいな人がいてよかったと、今日の1日が楽しみになった。
...俺が今日のデートを二人じゃなくて四人にした理由。
それはもちろんあとで二人で、はぐれる計画を立てていたからだった。
圭と橙子ちゃんには悪いが、そうすることに決めていた。
もちろん告白OK出してもらってないのに、二人で出かけることなんか無理なことはわかっていた。
二人である状態を作るには、この方法しかない。
今日で絶対に千絵ちゃんを俺に惚れさせる。
そう俺は、意気込んでいた。
私達は都内に最近できた新宿にある大型ゲームセンターに来た。
「じゃ俺、これやる。」
大のゲーム好きな水野君が、こころなしかはしゃいでいるのがわかる。
「圭に言ったら、ここがいいって聞かなくてさ。」
神楽君が笑いながら言う。
「私も…、これ、やりたいかも。」
橙子ちゃんも意外と楽しそうだった。
「よし、私も頑張ろ。」
そう言って気合を入れる。
私達は何時間もそこで楽しい時間を過ごした。
「あ、そうそう、ここ、今開店イベントでお化け屋敷もあるんだよ。行ってみない??」
神楽君が行きたそうにしてこっちを見ている。
「俺はパスで。」
水野君はゲーム以外興味がないらしい。
「私もやめとこうかな…。怖いの、好きじゃないし。」
お化け屋敷は苦手だった。
「「えぇ!?!?!?」」
そんな私達を、神楽君と橙子ちゃんが悲しそうな目で見る。
…。
「「...わかったよ。」」
私と水野君は、しぶしぶ入ることになった。
何分か並んで、私達の番だ。
「ではどうぞ。行ってらっしゃいませ。」
そして私達は歩き始める。
時計を見ると、午後四時五十五分。
一刻も早く、私は出たかった。
お化け屋敷の中は真っ暗で、迷路のようになっている。
少し明かりがついていて、かろうじて周りが見えた。
「やっぱちょっと怖いかも。」
そう言って、神楽君が私の腕を掴んだ。
あんなに行きたそうにしてたのにと、思わず笑ってしまう。
水野君は、平気そうな顔をしていた。
少し歩くと、お墓のようなモノがある。
どうせ、うしろから何か出てくるのだろうと自分に言い聞かせ、怖さを抑えていた。
すると私達四人がそこに近づいていく途中で、
バンっ!!!!!!
大きな音がして、横の壁から手が大量に出てきた。
しかも、どの手も異常に長くてうねっている。
「うわっ!!!」
神楽君が大声を上げた。
うねった手が顔に当たって、気味が悪い。
私は掴まれていた神楽君の手を振りほどいて、顔に当たっている手をどかした。
すると一息ついた瞬間、また誰かの手に自分の腕が掴まれた。
そして、思いっきり引っ張られる。
「!?」
私はパニックになって、何も喋れない。
私を掴んでいるその人は、走って私をどんどん奥に引っ張っていく。
暗くて誰なのかわからない。
しかし私はその手を、なぜか振りほどけないでいた。
「ありがとうございましたー。」
お化け屋敷を出た。
何分走っただろうか。
一瞬の出来事だったから、よくわからない。
「え!?」
私を引っ張っていた犯人の顔が見える。
白のシャツと黒いジャケットを着た、犯人の顔。
「な、なんで…。」
私の頭の中はもうパンクしそうだった。
「…あの二人、二階の出口から出たみたい。」
水野君がぽつりと言った。
確かに、このお化け屋敷の出口は一つではない。
一階と二階の一角を使ってあって、どちらの階からでも出ることができる。
しかし、今の問題はそこではない。
水野君の行動が、考えても考えても理解できなかった。
私の頭は、今までになく混乱している。
「晃ちゃんに悪かったかな…。」
私はもう訳がわからず、うつむいていた。
そして顔を上げると、水野君と目が合った。
すると安心したかのように、水野君の顔は柔らかくなった。
時計の針は、午後五時〇分を指す。
私は、五分前には全く想像もしていなかった状態の中にいた。
6ー五分後ー