85 話 vs.ワイバーン 再戦 2
飛び抜けて高い岩山がある事に気がついた。
あれを登れば、跳ばずにワイバーンとの距離を縮められるかな?
「……悩んでる暇は無いな」
岩山へ向かって走り出す。ワイバーンは並走して追いかけて来た。
火球を撃って牽制しようとするが、ほとんど意味は無かった。
岩山に到着すると同時に真上へ跳ぶ。
岩山はほぼ垂直だ。走って登ることはできないが、出張った岩に跳び移って登って行く事はできる。
並走していたワイバーンは俺の真下へ移動し、“球状の”ブレスを撃って来た。
「うああ!」
右へ左へ岩に飛び移り、時には空中へ飛び出し瞬間移動で岩山に戻り、なんとか避けながら岩山を登っていった。
「どう……ダメか!」
そう呟きながらブレスを避け続けた。
グルァ!?
突然、ブレスを撃っていたワイバーンが動きを止める。
ワイバーンの足に、植物のツタががっちりと巻きついている。登って逃げている時、種を岩肌にまいていたのだ。
先程からブツブツと呟いていたのは、ワイバーンがその上を通過するタイミングを計っていたのだ。
ワイバーンの動きが止まり、足の方へ頭を向けた一瞬の隙をつく。
ワイバーンへまっすぐ跳び降りた。
ワイバーンが再びこちらを見た時、俺はすぐそこの所まで迫っていた。ワイバーンは牙をむき出して襲いかかって来る。
それに合わせて瞬間移動。
ワイバーンは口を閉じる事なく、ブレスを撃って来た。
「!!」
俺がいた空中に凄まじい威力のブレスが放たれ、ブレスが当たった岩山の頂上付近は消し飛んでしまっている。
「……残念っ!」
グルァッ!?
瞬間移動で姿を消した俺は、ワイバーンの頭のすぐ横に姿を現す。
さっきの様に、“後ろ”へ移動していたら、あのブレスに当たっていただろう。
だが、今回は“後ろ”ではなく“前方”に移動したからブレスには当たらなかった。
振り上げた刀を両手で握りしめた。
さっきは鱗を斬りつけたが、傷がついた程度だった。仮に頭に刀を突き立てても効果は薄いだろう。
だけど……。
「ここならどうだ!!」
“右目”へ刀を振り下ろす。
右目とその上下の鱗に渡って1本の溝が出来、そこから血が噴き出した。
ガァァァアアアアアアアッ!!
ワイバーンは目を手で押さえて叫んだ。
「よしっ! よしっ!」
俺は作戦が上手くいった喜びから、空中でガッツポーズをとった。
ワイバーンは左目で俺を睨みつけ、押さえている方と反対側の手を振り下ろす。
しかし、それはかなりの大振りで簡単に避けられそうだ。
「ブレスに比べたら全然遅いよ!」
瞬間移動で避けると、ワイバーンは空振りし、体制を崩している。
焦った! そうなればこっちのも……。
追い討ちの炎弾を撃とうと、片手をかざした時だった。
視界の端に長く細いものが映った。それはこちらへ迫っている様に見える。
あれ……?
この時初めて気がついた。
ワイバーンは確かに体勢を崩している。しかし、目はしっかりとこちらを捉えていたのだ。
まさか……わざと……。
ムチのようにしなったワイバーンの尾が、腹部に叩きつけられた。
口から変な音が出た。
そしてそのまま地面へと叩き落とされる。
何が起きたのか分からなかった。
しかし、困惑する俺に全身から感じる痛みが、今の状況を理解させる。
俺は今、本気で死にかけている。
「……ぢ……ゅ……」
口から何かが噴き出した。激痛でこれ以上喋れない。なんとか治癒魔法をかけるも、体がなかなか動かなかない。
全身の骨が砕かれた? それとも筋肉が潰れた? 四肢はついてる? 俺は助かるの?
体が動かず、確認が出来ず、どの疑問にも答えは出ない。
死にたくない。ただその一心で治癒魔法をかけ続ける。
しかし、そんな俺は更なる絶望を目の当たりにした。
土煙が晴れ、かすんでいた視界がクリアになった時に見えたもの。
それはブレスをこちらへ放ったワイバーンだった。
それを見て、無意識に思考が巡る。
今までで1番でかいブレス、当たれば死ぬ、瞬間移動で逃げる、いや治癒魔法を使ってて今は使えない、なら走って逃げよう、無理、体が動かな……。
「……ぁ……」
白色が視界を覆い、何も見えなくなると同時に、強い衝撃に襲われる。
ただ体は動かず、空中に浮いているかのような、不思議な感覚が身を包む。
ふと、今までの記憶が頭をよぎった。
1度目の人生の、父親に殴られている記憶。
2度目の人生で、奴隷商人の男に痛めつけられている記憶。
そして……3度目の人生の、両親との暖かな記憶。
これは1番短い記憶だが、どの記憶よりもはっきりと覚えている。
3度の人生を経験して、色々辛いこともあった。
だけど……最後に、短くても“幸せ”だと感じることが出来て良かった……。
俺はいつの間にか生き残ることを諦め、走馬灯の思い出に浸っていた。
でも……最後にお母さんとお父さんに会いたいな……。
薄れていく意識の中、さっき見た夢を思い出す。
『絶対に生きて欲しいの。約束して』
ごめん、約束は守れそうにない。無意識にその人物へ謝る。
……結局あれは誰だったんだろ……? どうしても思い出せないんだよな……。
ただ……さっき助けた女の子と、あの夢の人の姿が重なって見えるのは気のせいかな……?
……また死んじゃったなぁ。
強い衝撃を受けてから、どれくらいの時間が経ったのか分からない。まだぼーっとするものの意識はある。
目が開いているのか閉じているのかは分からないが、周辺は真っ暗で何も見えない。
それに、体がふわふわしていて状況もいまいち分からなかった。
これから……また、テイルのところに行くのかな?
いや……テイルがお詫びとしてくれた人生は、たった今終わったんだ。
もう特別扱いされずに、他の人と同じように、記憶をなくして次の“生”に生まれ変わるだろう。
……寂しいなぁ。
そう思うと目に涙が滲んだ。そして、それが頬を伝って流れたのを感じる。
「……なんか、眩しい……」
目を刺すような光を感じる。その光は更に明るくなっていく。
「えっちょ、何……」
光りが明るくなるにつれ、体が熱くなっていった。
「……熱いっ!」
その熱に体が反応し、反射的に上体が起きあがる。そして、真っ暗だった視界に“色”が入っていった。
「あ……れ……?」
今、目に映っているのは自分の両手と下半身。服はボロボロだが、肌は傷1つなく綺麗な状態。
心臓の鼓動が体に響いているのを感じる。目から流れた涙が熱い。
「生き……てる?」
体の下には影がある。頬をつねると痛みを感じた。
それらが思考が停止した脳に、生きている事を理解させる。
「でも……なんで……?」
辺りを見渡すと自分が今大きな穴の中心にいることが分かった。
先程起きたことを思い返す。
確か、あの時はワイバーンのブレスの直撃を受けたはずだ。
となると、この穴はそのブレスが原因で出来たもの?
その穴の中心にいるという事は、俺がブレスを受けた事は疑いようのない事だ。
だとしたら……なんで……。
「……っっ!!」
そこまで考え、放心しながら上空に目を向けた俺は言葉を失った。
真上の上空にはあのワイバーンがいる。
翼を羽ばたかせ、上空の同じ場所にとどまっていた。
ここで、ある事に気がついた。
「……俺に、気づいて……ない?」
ワイバーンは頭上にいるものの、別の方向を見ていてこちらに気づいていないようだ。
チャンスだ
ゆっくりとワイバーンに両手をかざし、魔術を使う構えをとった。
「……」
今までの戦闘から考えると、生半可な魔術では倒せないだろう。
あいつを倒すには、威力も規模もスピードも、最高レベルの魔術を使わなければいけない。
「……“極魔術”……かな……」
一体なにが起きたのでしょうか。
次回、反撃。




