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78話 ワイバーン討伐作戦 6


「そしたらね。すぐにおっきい熊がここに連れてこられたの……パパは……その熊から私をかばってあんな怪我して……鳥がすぐにどこかに連れて行っちゃったけど……」


 熊……さっき倒したブラッドベアーの事かな?


「リーダー……どういうことでしょうか?」

「ワイバーンが何も無いここに連れてきた……? 目的は一体なんだ……」


 少女と父親を再びポルアさんとシアンさんに任せ、一箇所に集まった。


「とにかく、彼女の話からすれば、“連れ去られた村人は全員どこかに連れていかれた”。……つまり、他の村人は全員喰われてしまった可能性が高い」

「……」

「そして、もう1つの問題だ。彼女の言っていた“他より大きなワイバーン“。こいつの目的が分からない」

「何も無い所へあの2人とブラッドベアーを連れてきて、何がしたかったんでしょう?」

「……」


 全員が黙り込んでしまい、あたりは静まり返ってしまった。

 すると、アベルさんがぽつりと何かをつぶやいた。


「……俺達を誘い込むため……?」


 その言葉に全員が反応する。


「どう言うことだ? アベル」

「あ、いや……すいません。今のは……」

「いい、話してみてくれ」


 彼は少しためらうような様子を見せたが、静かに話し始めた。


「ワイバーンは稀に、人並みの知能を持つ個体がいると言われているのはご存知ですよね」

「ああ、それは有名な話だな」

「今日の事をそれをふまえて考えてみたんです。そしたら……これは罠なんじゃ無いかと思って」

「……なんでその結論が出たんだ?」


 クルツさんの言う通りだ。なぜ結論が罠なんだろ?


「まず結論から言えば、罠というのは我々をここへ来させる事が目的だと思います。そう考えれば、道中でワイバーンが私達の前に姿を現さなかった事。あのブラッドベアーが逃げ出せた事も、我々をここへ向かわせるためにわざと逃したのだと考えれば、納得できます」


 つまり、あのブラッドベアーが血を流していたのは俺達に道標を与えるためって事か?


「それに、肉片の散らばり方を見てください。明らかに偏っています」


 そう言われ、あたりを見渡す。

 言われてみれば、今いるこちら側に肉片はほとんどなく、この空間の入り口付近にまとまっている。所によっては山積みにもなっていた。



「あの2人がここにいたのも、我々に明確な目標を与えることで、最深部まで来させるのが目的だったのではと」

「だが、ちょっと待て。そうなると、そのワイバーンは私達の目的を知っている事になるぞ?」

「はい、ですから……」


 その時だった。

 突然地響きが起き、洞窟が激しく揺れ始めたのだ。

 そして、今俺達がいる空間の奥の方から岩壁が崩れ始めた。


「まずい! 出口へ走れ!」


 全員が走り出し、出口へと向かう。


「危ない!」


 しかし、ポルアさん達の頭上に巨大な岩が落ちてきた。


「逃げ……」


 とっさに右手をかざし、ポルアさんとシアンさん、少女と父親を収納部屋へ収納する。

 すんでのところで4人は岩から免れた。


「えっき、消え……」


 左手をかざして男性達も収納した。


「っ!!」


 身体強化をかけて全力で走った。ついに空間全体の崩落が始まり、背後から凄まじい崩落音が聞こえてくる。


「っ!!」


 崩落の速度が速い。このままでは巻き込まれてしまうだろう。


「っ、これだけは魔力の消費が激しいから、したくなかったのに!」


 俺はそう叫び、瞬間移動を使った。ほぼ間隔を開けずに再び瞬間移動をする。


 俺の瞬間移動の最長移動距離は5メートル程度。

 だが、連続でその5メートルを瞬間移動し続ければ、とてつもなく速い移動が出来る。


 しかし、瞬間移動は1度の使用でかなりの魔力を消費する。当然、それを連続で使えば魔力消費量は尋常じゃない。


 つまり、燃費が悪いのだ。


 だが、今はこれを使うしか無い。この移動速度でようやく崩落とほぼ同じ速度……。


 いや、崩落の方がまだ速いか。


「くっうぅぅ!!」


 爆音が鳴り響く中、必死に瞬間移動をし続けた。


「っ!!」


 前方に明かりが見えた。だが、崩落はすぐ後ろまで迫っている。


「んぐっ! 痛いっ!」


 体のあちこちに小さめの落石が当たり、痛みが走る。

 遂に頭上の岩も崩落を始めたのだ。


 やばい、本当に死んじゃう!


 明かりはもうすぐそこだ。あと少しで外に出られる。

 その瞬間、左肩に大きな岩が直撃した。


「あぐっっ!!」


 悲鳴を上げ、激しく転倒してしまった。

 そして、すぐに起き上がろうと顔を上げた時だった。


「……ぁ……」


 頭上、すぐそこに大岩が見えた。

 見えていた外の明かりは崩落した岩により、すでに半分以上塞がっている。


 死ん……。


「っ……あああああ!!」


 自分に風魔術をぶつけ、出口の方向へ思い切り吹き飛ばした。

 凄まじい風圧が体を襲い、骨が軋む音が頭の中に響く。


「ぐっうぅぅ!!」


 痛みに耐え、再び自分へ風魔術をぶつけて加速する。

 

 骨が折れる音と同時に、視界が明るくなる。わずかに残った隙間から外へ飛び出したのだ。


 地面に叩きつけられゴロゴロと転がり、岩に衝突して止まった。

 自分がどうなったのか分からない。仰向けで寝転がっているのは分かるが。


「……ち……治……ゅ……まほ……」


 横たわる体の下に魔法陣が現れ、痛みが引いていく。


「う、ぅぅ……ケホッ……ふぅ」


 ゆっくりと体を起こし、体の状態を確かめた。

 折れた骨は治り、出血もある程度止まったが、体じゅう血だらけな上に傷跡だらけだ。

 血は洗えばいい。しかし、傷跡は治癒魔法で消す事もできるが、魔力消費が多いのであまり使いたくは無い。


 家に傷跡を消す用の塗るタイプのポーションがあるから、魔力を節約するためにそれまで我慢しておこう。


「そうだ……どれくらい魔力消費したんだろ……え!?」


 ステータスウインドウを表示させてみると、衝撃の事実が判明した。


魔力 485005/630000


「……瞬間移動だけで、1/3くらいも使ったの……?」


 ここまで消費したのは人生で初めてだ。

 今まではせいぜい1万くらいしか消費したことなかったから……。


「あ、そうだ! みんな!」


 慌てて収納部屋から8人を出した。


「……た……ん?」


 全員がキョロキョロと辺りを見渡している。

 そっか、収納部屋の中って時間が止まってるからみんなにとっては一瞬で外に出た様に感じるのか。


「……安心してください……魔法で、外まで運びました」


 息切れしながら声をかける。


「っ、カイトさん!? 全身血だらけじゃないですか!?」

「あ、これは……洞窟から逃げる時に……」


 崩落し、塞がっていーる洞窟を指差してそう言うと、全員がそれを見て青ざめた表情になった。


「まさか……あれから走って……?」

「はい……でも、傷は治しました……い、今はここから早く離れましょう」

「……そう、ですね。分かりました」


 俺の提案で全員が行動を始めた。


「男性は俺が担ぎますね」

「……あ、僕が運びますよ」


 男性を収納しようとしたその時だった。


「あ!」


 少女が突然声を上げ、空を指差し言った。


「あれだよ! 私とパパをここに連れてきたおっきい鳥!」


 全員が同時にその方向へ顔を向けた。

 少女が指差した方向には、高い岩山が1つそびえ立っていた。

 そして、その頂上からドラゴンの様なシルエットの生物がこちらを見下ろしている。


 遂に見つかってしまった。


「皆さん! 早く逃げ……」


 叫びながら振り返った俺は、言葉を失ってしまった。

 全員が見るからに戦意喪失してしまっていたからだ。


「なん……だあれ……」


 誰かは分からないが、そう聞こえた。

 こちらを見下ろしていたワイバーンが翼を広げ、上空へ飛び上がった。

 そして、俺たちの目の前まで飛んできた。そして、再びこちらを見下ろしす。



 グゥルルルルルルル……。



「……っ」


 これが……ワイバーン……もう、ドラゴンじゃん……。


 その唸り声は、文字通り恐怖を掻き立てるもの。俺は直感で感じた。


 こいつはやばい。


 全身が真っ黒。体中が尖った鱗に覆われ、口からは炎が漏れ出ている。

 ワイバーンは襲ってくることも、ここから立ち去る気配もない。

 だが、俺はやばいと感じたと同時にもう1つ、直感的に感じていた。


 『こいつからは逃げられない』


 ワイバーンの鋭く尖った目を見ていると、例え瞬間移動などを駆使して逃げたとしても、絶対に逃げられない。そんな気がするのだ。


「逃げられないなら……やる事は1つだよね……」


 右手に炎を宿し、地面を踏みしめた。

 これは、人生初……いや、3度経験した人生で、初めて『本気』で戦わなければならないかもしれない。


 次回、戦闘。

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