74話 ワイバーン討伐作戦 2
指定されていた場所へ向かう。そこには救出部隊の6人と、コウさんとミフネさんがいた。
その後ろには大きな馬車が用意されている。
「お待たせしました」
「いや、時間通りだよ。それじゃあ、みんな馬車に乗ろうか」
全員が馬車へ乗り込むと、程なくして動き出した。
“ワイバーン山岳”までは丸2日かかる。
途中の足場は悪く、重い荷物を持って歩くだけで疲弊してしまう。そのため、討伐隊以外に班が存在する。
討伐隊の疲弊を防ぐため、その山岳付近まで荷物を持ったり馬車を引く班だ。それは討伐隊に選出されなかった騎士団員が担っているらしい。
窓から外を覗くと、多くの馬車が後方に見えた。
「ちょっと」
「わっ」
隣に座っていたミフネさんに手を引っ張られる。
「あんまり身を乗り出すと他の人に見られるわよ。ただえさえ、ライナがあんたがいる事をデカデカと宣言したんだから」
「あ、ご……ごめんなさい」
コウさんから聞いたのだが、彼女はその件の事で国王を怒ってくれたらしい。
「別に謝る必要なんてないわよ。それにあいつ、なんか策を考えてるとか言ってたから、無理矢理にでもどうにかさせるわ。今回の件については安心して良いわよ」
あ、優しい。
しかし、彼女はすぐに不満そうに表情へと変わった。
「それはそうと、コウ。ここから山岳までは2日かかるのよね?」
「うん、そうだね。今夜の野営地までもかなり時間があるよ」
「そう。……っはー……暇ね」
彼女はそう呟くと、その場で脱力した様な姿勢をとった。そんな様子を見てて思った。
……緊張感が無さすぎない? 今から生死をかけた戦いをしに行くんだよね?
……いや、変に緊張し過ぎるよりかは良いのかな。
だが、コウさんも俺と同じ事を思ったのか、苦笑いをしている。
と、思ったがその2人の表情にもどこか曇っている雰囲気を感じた。
やはり、ワイバーンという怪物と戦うのは不安なのだろう。
「そ、それじゃあ時間潰しにみんなで自己紹介でもするかい? 知ってる顔がほとんどだけど」
「ん、じゃああんた達から始めて」
即決かよ。
ちなみに、何故救出部隊の人が聖騎士団長と同じ馬車に乗っているかというと、特別扱いだからだそうだ。
きっと、“最後にせめてもの贅沢を”という事だろう。
騎士団長と同じ馬車に乗って、若干気まづそうにしている事には触れない。
突然自己紹介を要求された6人は、少し戸惑っている。
リーダーから自己紹介が始まった。
「この部隊のリーダーに任命された、クルツと申します。以前、コウ殿の1番隊の槍部隊副隊長としてお世話になっていました」
「……そうね。あんたの顔は良く覚えてるわ」
「ありがとうございます。……私は左手を負傷し槍を持つことが出来なくなり、しばらく休養を取らせていただいておりました」
そんな事があったのか……。
見せてくれた左手には確かに大きな傷跡が残っている。
すると、コウさんが補足をした。
「彼は人一倍正義感が強くてね。左手の怪我は新人団員を庇って受けた傷なんだ。彼が騎士団に戻って来た時は嬉しかったけど、まさか救出部隊に入るために来たとは思わなかったね」
「腕1本あれば、短剣くらいなら持てますからね。槍を持てぬ体になっても、人の為に死ねるなら本望です」
リーダーは立派な人の様だ。
その後は、息子の仇を討ってくれたとお礼を言ってきたアベルさんに続き、1人ずつ自己紹介をして行った。
そして最後の1人の女性の番が回ってきた。
若い女性だ。全体的に筋肉質な部隊のなかでは浮いてしまっている。
「私は……ポルア、です。その……騎士団の人間ではないのですが、特別に入隊させていただきました」
その女性、ポルアさんは気弱そうで、喋り方にもどこか自信がない。
それより、“騎士団の人間ではない”ってどういう事だろう。
「ねぇ、あんた騎士団の人間じゃないってどういう事? 確かに、見覚えはないなとは思ってたけど」
ミフネさんは俺と同じ疑問を抱いたらしく、彼女に問いただした。
彼女はすぐに答えた。
「今回襲われた村は、私の故郷なんです」
「……ぇ……」
「出稼ぎに王都に来ていたら……ワイバーンの件が耳に入りまして」
ミフネさんの表情が硬直した。
「それで……その知らせを受けて、いてもたってもいられなくなって……そんな時、王国騎士団が救出部隊を結成するって耳に入ったんです。それで、街で偶然団長を見かけて、気がついた時には頭を下げていました」
ミフネさんがコウさんの顔を見ると、彼は曇った表情のまま目を瞑った。
ミフネさんは額に手を当て、背もたれに寄りかかった。
「その……悪かったわ。配慮が足りなかった」
「いえ……大丈夫です。それに、もしかしたら家族が生きてるかも、なんて都合の良いことは考えていません。ただ、もし知っている人が……見覚えがあるってだけの人でも、助けられたらなって思い、入隊させていただきました」
馬車の中はしんと静まり返った。
ミフネさんが指の間から、チラチラと彼女を見ている。
「コウ……そういうのは早く教えなさいよ」
ため息をつき、彼女はそう呟いた。
「ごめんね。てっきり誰かから聞いているものだと思ってた」
「私は魔術部隊担当なの。救出部隊に関する情報なんて何1つ届いてないわよ」
意外と騎士団って連絡網が良く無いのかな?
「……ポルア」
「は、はい」
「気休めしか言えないけど、誰か生きてたら良いわね。あとあんた……度胸あるわね」
「……!」
ミフネさんのツンデレが発動し、ポルアさんは少し驚いた顔をしたが、照れ臭そうな笑顔を見せた。
すると、その笑顔につられる様に馬車内に居る人達の表情に明るさが戻る。
「じゃあ、カイト。あんたもしときなさい」
「え、僕もですか?」
「流れ的に当たり前でしょ」
全員の視線が俺に集まった。これはもう、自己紹介をする空気だ。
「えっと……カイト・グロ……」
「全て話す必要は無いわ。話せる範囲にしときなさい。後で苦しむことになるわよ」
「……分かりました。僕は……カイトです。今回は力になれればと思って、参加させていただきました」
そうだ。あれを訂正しておこう。
「……皆さん僕の事を救世主って呼んでいますが、ギールを倒したのはあくまで自分のためです。だから、“救世主”ではなく普通にカイトって呼んでください。あと、敬語もやめてください」
すると、アベルさんに即座に否定された。
「いえ、救世主様は大事な息子の仇を取ってくださいました。例えそれが私達の為でなくても敬意を表する充分な理由です」
それに続くリーダーのクルツさん。
「そうですよ。あなたのおかげで俺たちは『いつどこであいつに殺されるか』って怯えなくてよくなったんですから」
皆に次々に感謝され、俺は赤面してしまった。
「ぅぁ……ぇっと……ありがとうございます……で、でもせめて……救世主はやめてください……」
これ以降は“カイトさん”と呼ばれるようになった。
自分より年上の人達に“さん”付けで呼ばれるのは抵抗があるが、“救世主”よりマシだろう。
馬車の中は野営地へ到着するまで、明るい雰囲気のままだった。
だが、暗いまま過ごすより全然良い。
もう少し緊張感を持てと言われたら何も言い返せないが、俺はこっちの方がいいと思う。
「団長方、救出部隊の皆様、ワイバーンのいる山岳付近に到着しました」
野営地から数時間、馬車の扉をあけて外へ出た。
俺は小柄な事もあり、見つからないよう救出部隊のみんなに囲まれながら移動をした。
「あれがワイバーンが巣を作っている山岳だね」
コウさんが指をさした方向を、イシュベルさんとクルツさんの足の間から覗き込むと、その全貌が見えた。
「わ……」
その山岳は草木1つ生えておらず、斜面もかなり急で文字通り断崖絶壁だ。
曇り空を背景に、一目でその禍々しさが伝わってくる。
「……っ!!」
まじまじと山岳を眺めていると、裏側から何かが数匹飛び出してきた。
その“何か”は遠目で細部はよく見えないが、大きな翼を羽ばたかせて飛んでいる様に見える。
「あれが、ワイバーン……」
周りの人達も俺と同じものを見ている様だ。
大きさは大まかにしか分からないが、10メートル弱くらいだろう。
今は数匹しか見えないが、きっとあの中には、あのようなワイバーンがわんさかいるのだ。
「……!」
俺を囲っている足が微かに震えていることに気がついた。
実際にワイバーンを目の当たりにして恐怖心が再び顔を出したのだろう。
すると、その様子を見ていたコウさんが俺たちに語りかけてきた。
「みんな聞いてくれ。今から君達は奴らの巣のど真ん中へ行ってもらうことになる」
「……っ!」
全員の体がびくりと反応したが、そのまま彼は続けた。
「君達の心境は痛いほど分かる。俺だって怖いからね」
「……」
全員の表情は曇ったままだ。当然俺も。
そんな俺達に、彼は真剣な表情で話した。
「でも、君達は自らこの部隊に志願した。それは誰にでもできる事じゃ無い。普通の人には無い勇気が君達にある事を、どうか忘れないでほしい」
部隊のみんなの表情が変わる。
「はっきり言って生存者がいる確率は絶望的だ。だけど、きっとどこかに生存者はいるはずだ」
「「「「「「……はい」」」」」」
「そして、その生存者は君達の事を待っているはずだ。君達には、この君達にしか出来ない任務を全うして欲しい」
「「「「「「はい!」」」」」」
「一時でも君達と共に過ごせた事を、俺は誇りに思うよ」
流石団長だ。この短時間で部隊の士気を一気に上げて見せた。
救出部隊が山岳へ侵入するまであと1時間。
討伐部隊による、ワイバーンを誘き寄せるための爆発音が轟いたと同時に侵入する。
今の間に俺も、腹をくくっておこう。
次回、いよいよ乗り込みます。




