67話 テイルアセル(焦る)
コウさんが用意してくれた馬車で無事に家に到着した。
疲れていた俺は、早々に寝支度を整え眠った。
だが、なんと夢にテイルが出てきた。
「あれ? テイル、どうしたんだ?」
「突然呼び出してすまないと思っている。だが、あまり時間は無いから聞いてくれ。君に1つ頼みごとがある」
頼みごと? 神(仮)が?
テイルはかなり焦った様子だ。何かあったのだろうか。
「ああ、そうだ」
「……あ、心読めるんだっけ」
「読めるぞ。だが、そんな事今はどうでもいい」
かなり焦ってるな。
「君が今日接触したヤマト・コウなのだが……」
「コウさん?」
「……おかしなことを言うが、聞いてくれ」
すると、彼は自分でも信じられないと、言いたそうな表情で言った。
「彼が何故、この世界にいるのか分からないのだ」
「……?」
どういう事?
「分からない……? コウさんは転生したって言ってたけど」
「それがおかしいんだ」
おかしい? 確かに、転生が普通とは言わないけど……。
俺が疑問に思っている事に気がつき、テイルが説明を始めた。
「えっとだな。転生とは1度死した者が、別の者として生まれ変わる事だ。そして、それは私が管理している。だが、彼は死んでこの世界に来たと言うのに、私の管理下では無いのだ」
「……どう言う事?」
「死した者は全て、私を経由して次の生へと生まれ変わる。だが、彼は私を経由せずにこの世界に降り立っているんだ」
なんだか、思ったより事は重大そうだ。
「それに、彼は『子供の体になった』と言っていたな。そんな『成長した肉体を持って転生させる』事が出来るのは、私以外にいないだろう。つまりな……」
テイルの表情がさらに険しいものへと変わった。
「私と同じ力を持つ者が、この世界にいるのかも知れない」
「……!」
テイルと同じ力……神と同じ力を持った人物がいるかも知れないと言う事?
「……ラノベとかによくにあった異世界召喚とかは、この世界に無いのか?」
「それはあくまでフィクションだ。そんなものがあるのなら、我々が許さない」
我々……世界を管理している人たちか。その人たちが相手なら、存在はあり得ないな。
テイルの焦りようを見れば、どれだけ重大な事か良く分かった。
「実はな……以前から、突然消えてしまう魂が確認されていたんだ。君の様に私のミスではなく、ある日突然消えてしまうんだ」
テイルの表情が一層険しくなった。
「……彼も、その1人だと考えられる」
そんな事が……。
「彼はおそらく、十数年前に行方が分からなくなった魂だ。だが、今日君に接触した事でこの世界にいた事が確認できた」
「……そうだったんだ……分かった。それで、俺に頼みたいことってなに?」
そう尋ねると、彼はハッとした様子を見せた。
「そうだったそうだった。すまない」
ここまで落ち着いていないテイルは初めて見たな。
「いや、大丈夫だよ。それで、頼みごとは?」
「……カイト、君には彼が生まれ落ちたと言う場所に、調査に行って欲しいんだ」
「……調査?」
なんでだ? 俺がわざわざ行く必要があるのか? 直接コウさんに頼めば済むことでは?
「君がそう思うのも当然だろう。だが、私もそうほいほいと人前に姿を現わすわけにもいかないんだ。君は特別だからこうして姿を現しているのだがね」
そしてテイルは俺に頭を下げた。
「突然で本当にすまないと思っている。だが、お願いだ。君にしか頼めないんだ」
友人にそこまで頼まれてしまっては、断る訳にはいかないだろう。
「ありがとう……君ならそう言ってくれると信じていた」
「……まぁ、言ってはないけどね。それで、俺はそこに行って何をすればいいんだ?」
「あ、いや特に何もしなくて良い」
その回答を聞いて俺はキョトンとしてしまった。
何もしなくて良い? なら、行く必要あるのか?
「私が君を介して私が色々と調査するから、君はその場を歩いてくれればそれでいいんだ」
「……そうか、分かった」
「私と同じ力を持つ者がいるのならば、早く確保しなければならない。でなければ、大変な事になる」
「……分かった。出来るだけ早くコウさんに頼んでみるよ」
テイルの表情に明るさが戻り、声も少し明るくなった。
それと同時に体が軽くなり透けてきて現世に戻る兆候が出始める。
「ありがとう。お礼に何か加護を与えておくぞ!」
「……ありがたいけど、そんなに加護の安売りしていいの?」
「君は私の友人で特別だからな。あと、安売りではなく大盤振る舞いと言ってくれ」
会話している最中にも、体はさらに薄く、軽くなり視界も白くなってきた。
「すまない、これ以上は君の魂に悪影響が出てしまう。ではコウの件、頼むよ」
「ああ、任せてくれ」
テイルに笑顔で答え、視界のほとんどが白に包まれた。
「あ! 加護の説明してない!」
テイルの声が聞こえてくる。
そこで俺も加護の説明を受けていないことに気がつく。
「カイト! 今回君に与えた加護は……そく……む……」
テイルの声はそこで途切れてしまった。
眼が覚めるとそこは家のベッドに寝ていた。
ゆっくりと体を起こして、今起きた事を思い出す。
……こんなに急に呼び出されて、急に終わるなんて事があるとは思わなかった。
テイル、焦りすぎ。いくらなんでも急すぎる……あと、結局どんな加護を与えてくれたの?
「“そく、む”ってなに?」
きっと“そく○○む○○“という感じに言葉が入るのだろう。
だが、その言葉が分からない。なんだろ……?
「……考えても仕方ないか」
おそらく、いくら考えても答えは出せないだろう。それに、いずれ分かるだろうから焦る必要も無いと思う。
それに、今はもう1つの件の方が重要だ。
「……」
窓の外にちょうど月が見え、引き寄せられるように外へ顔を覗かせる。
空には雲1つなく、満点の星空だ。町は静まり返り、所々の家から灯りが漏れ出ている。
それはまるで、星空を地上へ延長した様に見えた。
俺は窓枠に両肘をつき、それを眺める。
「テイルと同じ力……か」
俺はラノベからのイメージで、転生や召喚に関してそれほど深く考えなかった。
だが実際は、神(仮)が『許さない』と言うほど重いもので、その雰囲気からさながら“禁忌”に近い物だと感じた。
しかし、そんな神(仮)の目を欺き、その様な事が出来る“何か”がこの世界に存在する様なのだ。
「……雲行きが怪しくなってきた」
その“何か”が敵対すると決まったわけでは無いが、少なくともテイルはよく思っていないのは事実だろう。
そして、その“何か”がかなりの力を持っているのも事実だ。
俺は大きなため息をついた。
「……なんか、大事件とかのフラグじゃないよね?」
窓からの静かな風景を眺めながら、そんな不安を感じていた。
神(仮)でも焦るんですね。